株式会社の役員をきちんと辞任するのは簡単じゃないかもしれません

株式会社の規模や状況によりますが、取締役などの役員を問題なく辞任するのは、法律上簡単ではないかもしれません。

会社と役員との関係は民法上の委任契約に基づいており、民法上は役員が会社に辞任の意思表示をすれば役員を辞められるはず、なのですが、色々と問題が生じる場合があります。

一つ目は、そもそも辞任の意思表示を誰に対してすれば、会社との委任契約は終了するのかという点です。

この点は、会社に対して辞任の意思表示をすべきですから(口頭でも可能ではありますが、書面でするのが通常です。)、具体的には、代表取締役に対してすべきであり、代表者が辞任する場合には、他の代表取締役に対して、あるいは、他に代表取締役がいなければ、取締役会を招集して取締役会に対してすべき(なお、取締役全員に個別に意思表示をした場合でもよいとする裁判例があります。)、ということになります。

 

もっとも、唯一の取締役が辞任をする場合には、辞任の意思表示をする相手に困ることになりますが、この場合には、幹部従業員に辞任の意思表示を受ける権限を授与した上で、幹部従業員に対して意思表示をすればよいとする裁判例があります。

そうすると、その幹部従業員すらいない場合、極端な話、取締役一人だけで従業員がいないような会社の場合には、どうなるのでしょうか?自分が出した意思表示を代表権のある取締役として自分が受ければよいのでしょうか?ただ、それでよいのだとすると、理論的にはどんな場合でもそうすればよいということになりかねないですね・・・。難しい問題です。

 

二つ目は、辞任によって役員の定員を下回った場合には、辞任した役員は、新たな役員の就任まで、引きつづき役員としての権利義務を負う点(会社法346条1項等)へどう対処するかという点です。

会社(株主)が速やかに新たな役員の選任をしてくれない場合には、辞任した役員が「一時取締役(仮取締役)」の選任の申立てを裁判所に行い、その選任によってはじめて役員としての権利義務を免れることができます。もっとも、ネックとなるのが、その申立てには裁判所が決定する予納金を納めなくてはならず、場合によっては非常に多額となる場合があるという点です(そもそも裁判所が一時取締役選任の必要性があると認めてくれるかどうかという問題もあります)。

 

三つ目は、役員が辞任した後に会社がその退任登記をしてくれない場合にどう対処するかという点です。

退任登記をしないまま放置すると、第三者に対して役員を辞任したと主張できないので、問題が生じたときに責任追及される可能性があるため、会社にはぜひとも退任登記の手続きをしてもらいたいところですが、会社が費用や後任者の関係で容易に退任登記の手続きをしてくれないケースがあります(会社は過料の制裁を受ける可能性がありますが。)。

辞任した役員には会社に対して退任登記の手続きをするように請求する権利があるので、会社に対して退任登記手続請求訴訟を起こし、その判決で自ら退任登記の手続をすることができます。

もっとも、仮に辞任によって役員の定員を下回っている場合には、その判決を得ても、新しく選任された取締役の就任までは、退任登記の申請が却下されてしまう(後任者の就任の登記と同時にしなければ受理されない)点が問題となりますので、結局、上記の一時取締役(仮取締役)の選任の申立てもあわせてしなければならないことになります。

 

さて、ここまで色々とみてきましたが、会社側の協力が得られない場合には、役員を辞任するに当たっては様々な問題が発生する可能性があり、特に役員の定員数を下回る場合には、非常に困難な問題(ときには辞任する役員にとって現実的でないほど困難な問題といえるかもしれません)が発生する可能性があることが分かってもらえたでしょうか。

もう少し確実に、簡単に、安全に辞任できるようにならないのかな、というのが正直な感想です。