今日は、納税地の所轄ではない税務署長がした処分は違法として取り消した国税不服審判所の裁決(平成28年5月17日)についてご紹介します。
この事件は、審査請求人(以下「請求人」)が、課税処分を行った税務署(以下「原処分庁」)に所属する調査担当職員の調査を受けて相続税の期限後申告をしたところ、原処分庁が、請求人に対し、その納付税額について重加算税の賦課決定処分をしたため、請求人が、被相続人の死亡時の住所地(納税地)の所轄庁ではない原処分庁には重加算税の賦課決定権限はないとして、当該賦課決定処分の全部の取消しを求めていた事案です。
前提として、相続税の納税地は、被相続人の死亡時の住所地となっています(日本国内に住所がある場合)。
納税地というのは、税金を納付すべき場所のことで、納税地を所轄する税務署に申告書の提出・納付をすることになります。
課税処分をする権限も納税地の所轄税務署長に帰属します。
本件の争点は、納税地である被相続人の死亡時の住所地が、本件の被相続人が元々居住していた家屋(→原処分庁が所轄庁になります)だったのか、あるいは被相続人が入所していた介護施設(→原処分庁が所轄庁ではないことになります)だったのか、という点にあります。
審判所は、相続税法附則第3項は、相続税に係る納税地は、被相続人の死亡の時における住所地とする旨規定しているところ、ここにいう住所とは、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関連の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当であるとした上で、
・被相続人は、平成20年5月に、家庭裁判所から、後見開始の審判を受け、同審判により成年後見人に選任された後見人が締結した入居契約に基づき、同年7月以降、本件施設(生活全般にわたる介護サービスを受けることができる介護付有料老人ホーム)に入居していたこと
・被相続人は、本件施設に入居した当時の体調は死亡時まで回復することはなく、被相続人が本件家屋(被相続人が所有し、平成20年6月頃までが居住していた家屋)で起居することは不可能な状況にあったこと
・被相続人は、本件施設に入居した平成20年7月1日から死亡の時まで、本件家屋に帰宅したことは一度もなく、本件施設において日常生活を送っていたこと
などから、被相続人の死亡時における生活の本拠たる実体を有していたのは、本件施設と認めるのが相当であり、本件家屋が生活の本拠たる実体を有していたと認めることはできないとし、被相続人の死亡時における住所地は、本件施設の所在地であり、原処分庁には、本件相続に関する相続税について、加算税の賦課決定権限はないとし、当該課税処分は、処分権限のない税務署長による処分として、その全部が取り消されるべきであるとの結論に至っています。
住所地がどこかは客観的に実体に基づいて判断されることや、納税地の所轄ではない税務署長がした処分が違法との結論には、目新しいところはないのですが、本件と似たような事例、つまり、本当にこの課税処分は納税地の税務署長がしたといえるのかが疑問となる事例が時々見受けられるため、この裁決をご紹介したものです。
もっとも、納税地違いが事実だったことが判明したとしても、正しい納税地の税務署長に課税処分を改めてし直されるだけ、という場合もよくあります。
そのため、例えば、納税地違いの結論が出た後には税務署が処分をやり直そうと思っても既に処分の期間制限(国税通則法70条・71条)にひっかかって、処分をし直すことができないことが予測されるような場合に、こういった納税地違いを理由とした争い方に実益があるということになるのではないかと思われます。
さて、それでは、納税地の管轄税務署ではない税務署の職員の実地調査によって収集した資料をもとに、納税地の管轄税務署が納税者に対する課税処分をしたというような場合には、その処分は違法になるのでしょうか?
この点は次回に続きます