前回の続きです。
今回の相続法制の改正により、特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定が設けられたこと(改正後民法903条4項)により、どう変わるのか、具体的な事例でご説明します。
(事例)
・相続人:配偶者と子2名(長男と長女)
・遺産:居住用不動産(持分2分の1)2000万円(相続時の評価額)、その他の財産 6000万円
・婚姻期間が20年以上経過した時点で行われた配偶者への生前贈与:居住用不動産(持分2分の1)2000万円(相続時の評価額)
※特別控除の持戻しを免除する旨の意思表示を積極的に行った遺言書等はなし
〔改正前〕
このような生前贈与(特別受益)は遺産の先渡しを受けたものとして、配偶者の相続分を計算する時には生前贈与を受けた財産が相続財産とみなされるため(10年以上前の生前贈与であっても同じです。)、今回の相続による配偶者の遺産分割における相続分は
(8000万+2000万)×1/2―2000万=3000万円
となり、相続分と贈与財産の取得額の合計額は、
3000万+2000万=5000万円
となります。
このように、贈与があった場合とそうでなかった場合とでは、最終的な取得額に差異がないこととなります(むしろ、このような差異が生じないようにするために、特別受益の持戻し計算という仕組みがあります。)。
その結果、被相続人が長年連れ添った配偶者に対して居住用不動産の贈与等を行った趣旨が遺産分割の結果に反映されないこととなります。
〔改正後〕
原則として、このような生前贈与(特別受益)を受けた財産については、相続財産とみなされなくなったため、今回の相続による配偶者の遺産分割における相続分は、
8000万×1/2=4000万円
となり、相続分と贈与財産の取得額の合計額は、
4000万+2000万=6000万円
となります。
このように、配偶者は、改正前より多くの財産を遺産分割時に取得(最終的な取得額もより多く取得)できることとなり、このような生前贈与等が行われた趣旨に沿った遺産の分割が可能となります。
具体的な事例でイメージが持てたでしょうか?
さて、最後になりましたが、特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定については、以下の点も覚えておくとよいでしょう。
・長期間婚姻している夫婦間で行われた「配偶者居住権」の遺贈・死因贈与についても、この持戻し免除の意思の推定規定の適用があります。
・あくまで「推定」する規定であるため、配偶者以外の相続人が、被相続人に特別受益の持戻しを免除する旨の意思表示がなかったことについて立証すれば、原則どおり、配偶者の特別受益について持戻し計算がされることになります。
・特別受益の持戻しが免除されたとしても、配偶者への贈与等が他の相続人の遺留分を侵害する場合には、他の相続人から配偶者に対する遺留分侵害額の請求がなされる可能性があります。
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