本日は、税務署から思わぬ贈与税の課税がされてしまった事例に関する国税不服審判所の平成29年5月24日付裁決をご紹介します。
本件は、審査請求人(以下「請求人」)の母親が請求人所有の建物の改修工事をしたことによって、請求人が当該改修工事部分の所有権の贈与によって経済的利益を取得したものとみなされる(相続税法第9条)として、税務署から贈与税の決定処分等を受けたため、請求人が改修工事は日常生活に支障が出ていた部分の修理を行ったにすぎないから、経済的利益を受けていないし、仮に利益があったとしても、扶養義務者相互間の生活費に充てるためにした贈与であって、通常必要と認められるものに当たるなどとして、当該処分の取消しを求めて争った事案です。
裁決の詳細は省きますが、国税不服審判所は、概ね以下のような判断をしました。
・本件改修工事のうち・・・工事部分については、その工事内容等に照らせば、本件居宅から容易に取り外せず、本件居宅の構成部分となっているもの、又は社会通念上本件居宅の一部分と認められるべきものであって、取引上の独立性を有しないといえるから、本件居宅への付合が成立する(以下、本件改修工事のうち、本件除外部分を除いた工事部分を「本件付合部分」という。)。
・本件付合部分については、本件居宅の所有者である請求人がその所有権を取得し、本件付合部分の工事費用を負担した母は、請求人に対し、民法第248条に基づき、付合により生じた損失に相当する費用について償還請求することができる。
・しかしながら、実際には、母が請求人に対し損失に相当する費用の負担を求めたことはなく、請求人が母に対し当該費用に関して何らかの支払をしたこともないこと、請求人が母と本件改修工事に係る費用相当額について金銭消費貸借契約を締結したり、母が請求人に当該契約に係る金銭の返還を請求したこともないことが認められる。
・これらの事実に加えて・・・の事実を併せ考慮すれば、母には、請求人に対する費用償還請求権を行使する意思はおよそなく、当該権利を放棄していたと認められ(現に、請求人
が提出した母に係る相続税の申告書においても、当該権利の記載はない。)、結局、請求人は付合による所有権取得に見合う債務を何ら負担していないということができる。
・したがって、本件付合部分については、請求人は、付合が成立した時点で、母から相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで‥利益を受けた」といえる。
さて、この裁決については、建物に付合された工事部分の費用について建物所有者が負担しておらず、請求すら受けていなければ、贈与とみなされるという結論や理由付け自体は、税理士や弁護士の観点上おかしいとは思いません。
(むしろ、工事された部分が取り外し可能であって建物に付合していない限り、贈与とみなされる余地はないのか??ということの方が気になったくらいです。)
何よりも、身内、特に親子の間では、家の修理費用を負担してあげるというようなことは、世間ではよく見られることであり、税務署に知れてしまえば本件のように課税されてしまうおそれがある、ということで、注意の意味もかねて今回の裁決をご紹介しました。
参考になれば幸いです。
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