遺産分割などの事件を担当していると、依頼者から、遺産の内容を把握するために、他の相続人の相続税申告書の内容を知ることはできないの?と質問を受けることがときどきあります。
また、遺産の全容を把握できていない相続人の人が、相続税の申告をするに当たって、遺産の内容を把握している他の相続人の相続税申告書の内容を知りたい、という場面もあります。
(なお、共同相続人が同じ税理士に依頼して一通の相続税申告書で共同申告をしていれば、自然と遺産の内容が分かるでしょうから、ここでは別々に申告をしている(あるいは遺産を把握している相続人だけが申告をしている)ケースを前提とした話となります。)
たしかに、遺産を一手に管理している相続人の相続税申告書が見られれば、遺産の内容が分かって有用であることは確かなのですが、結論的には、今のところ難しい(できない)、ということになります。
・まず、相続税法において、共同相続人が他の相続人の相続税申告書について閲覧、謄写するような制度は設けられていません。
なお、相続税の申告や更正の請求をしようとする者は、他の相続人等が被相続人から受けた相続開始前3年以内の贈与又は相続時精算課税制度適用分の贈与に係る「贈与税の課税価格の合計額」について、開示を請求することが相続税法49条で認められています。
しかし、この制度では、他の相続人が受けた生前贈与(の一部)について金額が分かったとしても、被相続人の遺産の内容を把握することはできません(特別受益の関係では、この制度は利用価値があるとは思いますが)。
※国税庁「贈与税の申告内容の開示請求手続」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/2361.htm
・次に、裁判所の力を借りて、文書送付嘱託、文書提出命令といった制度で、税務署に他の相続人の相続税申告書を提出させることができないか?ということが考えられますが、これも残念ながら、今のところこれも難しいのが現実です。
実際、平成28年 5月26日付の福岡高裁宮崎支部の決定では、遺産分割調停事件の相手方が税務署長に対して提出した相続税申告書等を対象とする文書提出命令の申立てについて,当該文書は,その記載内容からみて,その提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの(民事訴訟法220条4号ロ)に該当するとして文書提出命令の申立てが却下されていますし、これ以前にも同様、類似の判断がされた裁判例もあります。
以上のとおり、今のところ、他の相続人の相続税申告書の内容を知ることは難しい、というのが結論になります。
参考になれば幸いです。
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