税金の法定納期限の経過後も、原因となった法律行為の錯誤無効を主張できる(2)

前回からの続きです。

 

最高裁(第三小法廷平成30年9月25日判決)は広島高裁の判断を覆して、以下のように判断し、法定納期限を経過した後も、原因となった行為の錯誤無効を主張して処分の適否を争うことができるものと判断しました。

 

「給与所得に係る源泉所得税の納付義務を成立させる支払の原因となる行為が無効であり、その行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたときは、税務署長は、その後に当該支払の存在を前提として納税の告知をすることはできないものと解される。」

「そして、当該行為が誤により無効であることについて、一定の期間内に限り錯誤無効の主張をすることができる旨を定める法令の規定はなく、また、法定納期限の経過により源泉所得税の納付義務が確定するものでない。したがって、給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について、法定納期限が経過したという一事をもって、当該行為の錯誤無効を主張してその適否を争うことがされないとする理由はないというべきである。」

 

今回の最高裁判決の判断については、民法上の理論とも整合しており(民法上は基本的に無効主張に時期の制限はありません。)、また納税者間の公平とか、租税法律関係の安定性とか、国民の正義感といった抽象的な理由で、無効主張に時期の制限を設けるのは、法的には根拠が乏しいと考えられるため、個人的にはすっきりしました。

 

 

もっとも、本件において、最高裁が以下のように判断していることには、注意が必要です。

「しかしながら、上告人は、本件債務免除が錯誤により無効である旨の主張をするものの、前記2(5)の納税告知処分が行われた時までに、本件債務免除により生じた経済的成果がその無効であることに基因して失われた旨の主張をしておらず、したがって、上告人の主張をもってしては、本件各部分が違法であるということはできない。」

 

当該行為が無効であったとしても、当該行為に基づく経済的成果に対して課税がされていた以上、その経済的成果が失われていなければ、課税処分を違法として取り消すことはできないということです。

民法等に基づく有効か無効か、適法か違法かの判断にかかわらず、現実の所得、経済的成果に着目して課税されるという考え方は税法上は一般的なものであり、過去の裁判例(最高裁昭和35年10月7日判決、最高裁昭和38年10月29日判決、大阪高裁昭和45年1月26日等)を見ても基本的に同趣旨の判断をしているといえます。

 

なお、いつまでに経済的成果が失われていればよい(課税されない)のかという問題があり、課税年度の最終時点、申告期限・納期限、税務署の調査開始時、処分時(、更正の請求時)等色々考えられるところですが、今回の最高裁は「納税告知処分が行われた時までに・・・失われた旨の主張」としているので、処分時を基準として判断しています。

この点も参考になるところです。

 

さらに次回に続きます。