平成30年10月19日に、遺留分減殺請求に関して、共同相続人間でされた無償の相続分の譲渡は、その相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たると判断した最高裁判決が言い渡されました。
したがって、遺留分侵害の有無を判断する際には、相続分譲渡も計算に入れて判定をすることになります。
この判決の詳細は以下のとおりです。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88060
この事件は、上告人が、自分以外の共同相続人間でされた無償の相続分譲渡によって遺留分を侵害されたとして、被上告人が遺産分割調停で取得した不動産の一部について遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続等を求めたものであり、遺留分の減殺請求について、相続分譲渡が(その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき)「贈与」(民法1044条・903条1項)に当たるか否かが争われた事案です。
最高裁は、共同相続人間でされた無償の相続分の譲渡は、その相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たると判断しました。
したがって、遺留分侵害の有無を判断する際には、相続分譲渡も計算に入れて判定をすることになります。
具体的な財産ではない相続分の譲渡が贈与に当たるか否かは今まで明確ではありませんでしたが、今回の最高裁判決で明確になりました。
本件の事実関係は以下のとおりです。
・亡Aは亡Bの妻。
・上告人、被上告人及びCはいずれも亡Bと亡Aとの間の子。
・Dは、被上告人の妻であって、亡B及び亡Aと養子縁組をした。
・亡Bは、平成20年12月に死亡した。
・Bの法定相続人は、亡A、上告人、被上告人、C及びD。
・亡A及びDは、亡Bの遺産についての遺産分割調停手続において、遺産分割が未了の間に、被上告人に対し、各自の相続分を譲渡し、同手続から脱退した。
・亡Aは、平成22年8月、その有する全財産を被上告人に相続させる旨の公正証書遺言をした。
・亡Bの遺産につき、上告人、被上告人及びCの間において、平成22年1 2月、遺産分割調停が成立し、被上告人は土地、建物、現金及び預貯金並びにその他の財産を取得した。
・亡Aは、平成26年7月に死亡した。
・Aの法定相続人は、上告人、被上告人、C及びD。
・上告人は、平成26年11月、被上告人に対し、亡Aの相続に関して遺留分減殺請求権を行使する意思表示をした。
本件について最高裁が示した判断理由は以下のとおりです。
・共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。
・ そして、相続分の譲渡を受けた共同相続人は、従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割手続等に加わり、当該遺産分割手続等において、他の共同相続人に対し、従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分との合計に相当する価額の相続財産の分配を求めることができることとなる。
・ このように、相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができる。遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる(民法909条本文)とされていることは、以上のように解することの妨げとなるものではない。
・したがって、共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、 民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。
〜さて、最高裁が述べるように、相続分には通常は財産性がありますので、今回の最高裁の判断については基本的に納得できるものです。
もっとも、実務上、遺産が多岐にわたる場合や遺産の範囲・評価額が不明確な場合には、実際には相続分の譲渡がされた段階では、相続分の具体的な金額が容易に特定できず、遺留分侵害の有無も容易に判断できないという場合も多いのではないかと思われます。
遺留分減殺請求権には以下のとおり行使期間に制限があるため、相続分の譲渡に関して遺留分侵害の有無の判断が微妙なときには、とりあえず遺留分の侵害があるものとして権利行使せざるを得ない場合が多くなるのではないかと思われます。
【参考】
民法第1042条
減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
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