相続預金からの出金が法定単純承認事由に該当するとして国税が相続放棄の効力を争った事案の裁決の紹介

 

今回は、相続預金からの出金が法定単純承認事由に該当するとして国税が相続放棄の効力を争った事案についての国税不服審判所の令和2年3月17日付裁決をご紹介します。

 

この件は、国税(原処分庁)が、滞納会社の納税保証人が死亡したことから、その配偶者である審査請求人(以下「請求人」という。)が納税保証人の納税義務を承継したとして、請求人名義の不動産を差し押さえたのに対し、請求人が、相続放棄を行ったから納付義務は承継していないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案です。

 

この件で、国側は、

①被相続人名義の預金口座に振り込まれた金員(以下「本件金員」という。)は、被相続人が受け取るべき顧問料を原資としており、被相続人の相続財産に該当し、請求人が本件金員を出金し、生活費として自己の財産に組み入れた行為は、管理行為と考えられる限度を超えている

②請求人が本件金員を振込者に送金して返納した行為は相続放棄者の相続財産の管理義務に反して行われたものであり、相続財産の処分に該当する

などと主張しました。

 

審判所は、

①請求人が口座から出金した本件金員相当額の現金を、相続放棄の申述が受理されるまでに一部でも費消したという事実が認められない限り、相続財産の経済的価値を減少させる行為があったとは言い難いことから、請求人が口座から現金を出金したことのみでは、相続財産の処分に該当する事実があったとはいえない

②民法第921条第1号は、相続の承認も放棄も行っていない相続人が相続財産を処分した場合のみに関する規定であり、相続人がいったん有効に相続放棄を行った後で相続財産を処分した場合に適用される規定ではないと解されている、請求人は相続放棄の申述が有効となった平成〇年〇月〇日より後の同月27日に本件金員相当額をKに送金しており、仮に当該送金が本件金員の返金であり「相続財産の処分」に該当する行為であるとしても、相続放棄の申述が有効となった日より後の行為であるから、この行為に民法第921条第1号を適用することはできない

 

との判断をして請求人の主張を認め、法定単純承認事由に該当する事実は認められないから、請求人の相続放棄の申述は有効であり、請求人は初めから相続人とならなかったものとみなされ、本件滞納国税の納付義務を承継しない、としました。

 

民法第921条第1号〜第3号の法定単純承認事由(※末尾に条文を掲載しておきました。)があると、相続人は単純承認をしたものとみなされ、相続放棄や限定承認ができないことになります。

この限定承認に関し、審判所は上記②のとおり、相続財産の処分に関する民法第921条第1号は相続の承認も放棄も行っていない相続人が相続財産を処分した場合のみに関する規定であると判断しておりますが、この点は従来からの通説・判例どおりの判断であり、特別な判断をしたものではありません。

 

次回は、この裁決とも関連する点、裁決の前提となっている点(相続放棄の効力を後から争うことができるのか否かなど)について、ご説明します。

 

※参考

民法第921条(法定単純承認) 

第九百二十一条  次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。 

三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。 

 

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