今回は、宗教法人の代表役員を務めていた住職が、生前に自分の預金から出金し、宗教法人の預金に入金した点に関し、税務署が、この金員の移動は持分の定めのない法人に対する財産の贈与で、住職の親族の相続税の負担が不当に減少する結果になるとして、相続税法第66条第4項の規定により、宗教法人を個人とみなして贈与税の決定処分等をしたのに対し、宗教法人が審査請求人として国税不服審判所で争った事案について、税務署の処分を全て取り消した国税不服審判所の令和3年5月20日付の裁決をご紹介します。
当時の相続税法第66条第4項の規定によれば、持分の定めのない法人に対する贈与があった場合に、当該贈与により当該贈与をした者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、当該法人を個人とみなして贈与税を課すこととされています。
通常、贈与税は個人間の贈与に限り課されるものですが、課税逃れを防ぐために、例外的に法人等に贈与税が課される場合があるわけです。
この点について、審判所は、前提として、以下のとおり、相続税法第66条第4項に関する法令解釈を示しました。
「相続税法第66条第4項の趣旨は、持分の定めのない法人に財産の贈与があったときに、その財産の贈与者の親族等が当該贈与財産の使用、収益を事実上享受し、又は当該財産が最終的にこれらの者に帰属するような状況にある場合に、相続税又は贈与税の負担に著しく不公平な結果をもたらすことになることを防止するため、当該持分の定めのない法人を個人とみなして、財産の贈与があった時に、当該法人に対し贈与税を課することとしたものである。
このような趣旨からすれば、同項所定の贈与者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるかどうかは、持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があり、その時点において、その法人の社会的地位、寄附行為、定款等の定め、役員の構成、収入支出の経理及び財産管理の状況等からみて、財産の提供者等ないしはその特別関係者が、当該法人の業務、財産の運用及び解散した場合の財産の帰属等を実質上私的に支配している事実があるかによって判断すべきである。」
この法令解釈は通説的な見解と大きく違わないものだといえると思います。
次に、審判所は、以下のような判断をしました。
「・請求人の経理及び財産管理の状況等について
前住職らによる請求人の業務運営及び財産管理については、請求人の総代が相当程度に監督しているものと認められるほか、前住職らが私的に業務運営や財産管理を行っていたとまでは認められない。
・私的な財産の使用・運用の有無(生活費の支出の有無)について
本件各資金移動の時点において、原処分庁が主張する前住職らの生活費として毎月20万円を請求人の財産から支出していた事実を認めることはできず、他にその事実を裏付ける客観的な証拠も認められない。
・私的な財産の運用の有無(本件建物の私的利用の有無)について
本件建物は現住職の子が僧侶としての職務を遂行するに当たり必要な庫裏とみるのが相当であり、現住職の子を本件建物に無償で居住させたとしても請求人の財産を私的に利用したということはできない。
・その他私的な利益の享受の有無について
そのほか、前住職らが、本件各資金移動の時点において、請求人の財産から私的に財産上の利益を享受した事実は見当たらない。
・解散時の財産の帰属について
本件寺院規則第39条の定めをもって、前住職らが恣意的に請求人を解散し、その財産を私的に支配することができるとはいえない。
・まとめ
前住職らが、請求人の業務、財産の運用及び解散した場合の財産の帰属等を実質上私的に支配している事実は認められない。
したがって、本件各資金移動により相続税法第66条第4項に規定する贈与者である前住職の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となるとは認められない。」
さて、税務署は相続税法第66条第4項という例外的な否認規定を用いて否認し、宗教法人に対して贈与税を課したわけですが、審判所は税務署の主張を認めませんでした。
税務署からしても否認規定を適用するのは容易なことではないといえるかと思います。
本件は重要な先例となる裁決だと思いましたので、ご紹介しました。
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