前回の続きです。
限定承認に伴うみなし譲渡は、基本的には、相続後に相続人が相続財産の譲渡をしたときに、被相続人の生存中に発生していた含み益についてまで、譲渡所得(所得税・住民税)が発生し、所得税を納付しなくてすむようにするためのものです。
つまり、相続人の将来の譲渡時における所得税・住民税の負担を軽減するための制度なのです。
以下の例で、単純な相続の場合と比べて説明をしていきます。
例:被相続人AがH1.1.1に土地を5000万円で取得、H31.1.1に死亡(時価7000万円に値上がり)、R1.6.1に相続人Bが7200万円で売却。
1)単純に相続をした場合
→相続時:通常の相続税のみ。BはAの土地の取得費・取得時期を引き継ぎます。
→売却時:相続人Bのもとで、7200万円 − 5000万円 =2200万円 の譲渡所得(取得費等は省略。以下同様)、これに対応する税金(長期譲渡所得:所得税15%+住民税5%〜概算440万円)が発生することに(復興特別所得税については省略。以下同様)。
〜被相続人Aのもとで取得時H1.1.1から死亡時H31.1.1までに発生していた2000万円分の値上がり益(譲渡所得)についてまでBに課税され、税負担が発生する結果になります。
2)限定承認をした場合
死亡時に被相続人から相続人に対する譲渡があったものとみなされます。
→相続時:被相続人Aのもとで、7000万円– 5000万円 =2000万円の譲渡所得(取得費等は省略)、これに対応する所得税(長期譲渡所得:所得税15%〜概算300万円 ※ 死亡したため翌年の住民税の負担は発生しません。)が発生し、相続人Bがこの所得税の支払債務を相続することになります。
もっとも、この所得税を含めた相続債務の合計額が相続資産の合計額よりも多い場合には、Bは限定承認をしているのですから、相続資産の範囲を超えて自らの固有財産で所得税の納付をする必要がありません。
また、Bには通常どおり相続税が発生しますが、上記の所得税も債務に含めて債務控除をした上で、相続税を計算することになります。
→売却時:相続人の売却時には、7200万円 – 7000万円(取得価額〜相続時の時価) =200万円の譲渡所得が発生(取得費等は省略)し、対応する税金(短期譲渡所得:所得税30%+住民税9%〜概算78万円)が発生し、納税をすることになります。
以上のとおり、限定承認をした結果、被相続人のもとで発生していた2000万円分の値上がり益(譲渡所得)については、相続人は相続時に自らの固有財産から所得税を納税する必要がありませんし、将来の売却時に課税されることもないのです。
また、単純に相続をした1)の場合と比べて、限定承認をした2)の場合に、相続人の合計の負担税額は減少することになりました。
ただし、もちろん、毎回このような計算結果になるわけではなく、しかも限定承認の場合には、親族間で譲渡したものとみなされるため、税額を軽減する特例(例:居住用財産の譲渡の場合の3000万円特別控除、軽減税率の特例等)が受けられず、限定承認をしたことによって単純に相続を選択した場合と比べて課税の負担が増えてしまう場合が生じてくるので、要注意です。
ですので、ある程度の相続財産があって、限定承認を選択しようとする場合は、事前に税理士さんに相談すべきでしょう。
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