前回からの続きです。
前回は、裁決の概要と、この裁決を理解するために前提として必要となるポイントについて、ご説明しました。
前回説明したところによれば、税務署は、以下のような判断の下で会社に対して源泉漏れの所得税について納税告知処分を行った、ということになります。
社員は本件の財形メニュー(財形貯蓄の補助金)を利用すれば、会社から金銭の支給を受けられる
→『ポイントを現金に換えられるなど換金性のあるカフェテリアプラン』に該当する
→本件のカフェテリアプランについては、財形メニューに限らず全てのメニューについて課税対象となる(前回記載の応答事例ⅲ)
→会社が非課税扱いにしていた人間ドック等のメニューを利用した経済的利益(本来なら福利厚生費として非課税とすることも可能だったもの)についても、「経済的な利益の価額」(所得税法36条)、「給与等」(同28条)に該当する
→支給時に会社において源泉徴収を要する(同183条)
それでは、以下で、本件に関する個人的な考察を少し書きます。
本件の財形メニューは、使用人から申請された財形メニューに使用するポイント数に相当する金銭が、会社から使用人に支給される仕組みとなっており、社員の選択結果によっては金銭が得られるという側面があったようです(無条件で金銭の支給が受けられるものではありませんが。)。
さて、このことと、前回記載の国税庁の質疑応答事例のⅲ「ポイントを現金に換えられるなど換金性のあるカフェテリアプランは、その全てについて課税対象となる」という点からすれば、税務署が人間ドック等の経済的利益について源泉徴収義務を負うとしたことも、全く理解できないではありません。
もっとも、こちらの会社では、財形メニュー(財形貯蓄の補助金)等の利用についてはきちんと所得税の課税対象として源泉徴収の対象としていたものであり、本来福利厚生費に該当し得る人間ドック等の補助費についてまで給与と認定し、源泉徴収の対象とする結論には違和感が強く、形式的に上記応答事例の記載内容を適用することが必ずしも適切な事例ではなかったように思います。
上記の裁決を見てみると、審判所は、法令解釈において、上記応答事例について、「本件回答は、カフェテリアプランの中に、何ら要件なく金銭や商品券等の支給を受けることを選択できるとか、自由に品物を選択できるなどのメニューがある場合には、金銭を給付するのと同様とみられるから、現に選択したメニューにかかわらず、全ての経済的利益が課税対象となるとするものであり、その取扱いは、上記の基本通達の趣旨に照らして整合的と認められ、当審判所においても相当と認められる。」と記載しています。
つまり、上記の応答事例において、全てのメニューの経済的利益が課税対象となる場面を、「何ら要件なく金銭や商品券等の支給を受けることを選択できるとか、自由に品物を選択できるなどのメニューがある場合」に限定的に解しているものと考えられ、その結果、審判所は税務署とは異なる結論に至ったものと考えられます。
さて、通達等については、税務署において、記載されている要件に文言上当てはまれば形式的に適用するというのではなく、表面上の文言のみならず、その趣旨を十分に踏まえたうえで、通達に則って処理するのが相当か否かを判断すべきであるということを本件を通じて再認識しました。
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