今回は、もっぱら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、その養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとした最高裁判決(平成29年1月31日第三小法廷判決)のご紹介と注意点を記載しました。
民法802条は、人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき(1号)などには、縁組は無効とすると定めており、節税目的での養子縁組は無効になるか否かが争われたのですが、最高裁は、
「相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」
と判断し、節税目的であっても養子縁組の無効事由とならないことを明らかにしました。
さて、それでは、これで養子縁組による相続税の節税策を最高裁が全面的に公認したといえるのか、何の不安もなくこの節税策をとれるようになったのかというと、実はそうではありません。
今回の最高裁の事案は基本的に相続人間の純粋な私法上の紛争であったため、問題となっておりませんが、相続税との関係では、相続税法63条という規定があることに注意しなければなりません。
相続税法63条はおおむね、養子の数を相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長は、相続税についての更正又は決定に際し、税務署長の認めるところにより、養子の数を相続人の数に算入しないで相続税の課税価格及び相続税額を計算することができると規定しています。
つまり、相続税節税のために養子によって相続人の数を増やした場合、民法上は有効な養子縁組ですが、税務署長は相続税の計算上、養子を相続人の数に入れないことができるのです。
結局、この規定がある以上は、今回の最高裁判決の前と後で相続税に関する状況は基本的には変わらないということになると思います。
ですので、最高裁が養子縁組による相続税の節税策を最高裁が全面的に公認したとか、我が家も養子縁組で節税しよう、などと早まってはいけません。
まずは、きちんと専門家にご相談を!