以前、こちらのブログでふれた、競馬所得に関する東京地方裁判所平成27年5月14日判決の事案で、納税者逆転勝訴の控訴審判決(東京高等裁判所平成28年4月21日判決)が出ていますので、本日はその紹介です。
まず、前提として、「競馬の当たり馬券の払戻金が所得税法上の一時所得(税務署側主張)なのか、雑所得(納税者側主張)なのか」、「外れ馬券の購入代金が必要経費に該当する(納税者側主張)のか、該当しない(税務署側主張)のか」、といった点が争点となり、この件の当たり馬券の払戻金は雑所得に当たり、外れ馬券の購入代金も必要経費として控除することができるとした最高裁判所第三小法廷平成27年3月10日判決(刑事事件の判決)をおさえる必要があります。
今回の東京高裁の控訴審判決のもととなる東京地裁の1審判決では、本件競馬所得が一時所得に該当し、外れ馬券の購入代金を総収入金額から控除できないとして、納税者敗訴となっていました。
今回の高裁判決は、
・本件競馬所得が、所得税法34条1項にいう「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当するのであれば、一時所得ではなく雑所得に区分される
・「営利を目的とする継統的行為から生じた所得」であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当であり、馬券の的中による払戻金に係る所得の本来的な性質が一時的、偶発的な所得であるとの一事から「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」には当たらないと解釈すべきではないものと解される(前記最高裁判決参照)
・控訴人は、期待回収率が100%を超える馬券を有効に選別し得る独自のノウハウに基づいて長期間にわたり多数回かつ頻繁に当該選別に係る馬券の網羅的な購入をして100%を超える回収率を実現することにより多額の利益を恒常的に上げていたものであり、このような一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するということができる
・別件最高裁判決に係る別件当事者が馬券を自動的に購入するソフトを使用する際に用いた独自の条件設定と計算式も、期待回収率が100%を超える馬券を有効に選別し得る独自のノウハウといい得るものであり、控訴人と別件当事者の馬券の購入方法に本質的な違いはないものと認められる
・したがって、本件競馬所得は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」として、一時所得ではなく雑所得に該当する
・本件においては、控訴人の馬券の購入の実態は、前記のとおりの大量的かつ網羅的な購入であって、個々の馬券の購入に分解して観察すべきものではなく、外れ馬券を含む一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するのであるから、的中馬券の購入代金の費用のみならず、外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の費用が、的中馬券の払戻金という収入に対応するものとして、同法37条1項の必要経費に当たると解するのが相当である(前記最高裁判決参照)
などとして、税務署長の処分をいずれも違法な処分として取り消したため、納税者逆転勝訴判決となっています。
今回の東京高裁判決については、1審の地裁判決と事実認定や法律上の要件へのあてはめに差が出たため、異なる結果となったものと考えられます。
今後も、競馬所得に関する裁判がどの程度続くのかは良く分かりませんが、おおまかな判断基準はこれまでの裁判例で出てきているので、あとは主に、事実認定、当てはめの勝負になってくるということがいえるのではないかと思います。