所有財産の中に、上場していない同族会社の株式が含まれている会社のオーナーやその相続人にとって、その株式の評価額がいくらになるのかは、相続(相続税)の関係上、非常に重要な問題となることが多くあります。
中小企業、同族会社の非公開株式は、第三者への売却もままならず、換金が容易ではないうえ、実際には手放せないケースも多いにもかかわらず、会社の収益・財務状況によっては非常に多額の評価額がついてしまい、相続税が多額になったり、株式を集中的に相続せざるを得ない会社後継者が現金など株式以外の財産を十分に相続できないという事態が発生してしまうことが多々あるからです。
そこで、相続対策の一環としての非公開株式の株価対策(評価額低下のための方法)にどのようなものがあるのか、次回以降、簡単にご紹介していきたいと思います。
今回は、その前提として、まず相続税の世界で、株式評価がどのような方法で行われているのか、簡単にご説明しておきましょう。
非公開株式の相続税実務における評価方法は、相続税の財産評価基本通達(178以降)に詳しく定められています。これは通達ですので、この通達に従った評価額が絶対的に正しいというわけではありませんが、通達に従った評価額であれば税務署からは否認されなくなるため、実務上の基準となっているわけです。
この通達にしたがいますと、株式の評価は、類似業種比準価額方式、純資産価額方式、これらの併用方式、配当還元価額方式のいずれかによることになりますが、一般の事業会社において、株価対策が必要となるような、株主の中で支配的な地位にある株主の株式については、通常、およそ以下のような基準で評価されることになります。
会社規模 | 原則的評価方法 | 選択的評価方法 |
大会社 | 類似業種比準価額方式 | 純資産価額方式も選択可 |
中会社の大 |
併用(類似業種比準価額×0.9+純資産価額×0.1) |
純資産価額方式も選択可 |
中会社の中 |
併用(類似業種比準価額×0.75+純資産価額×0.25) |
純資産価額方式も選択可 |
中会社の小 |
併用(類似業種比準価額×0.6+純資産価額×0.4) |
純資産価額方式も選択可 |
小会社 | 純資産価額方式 | 併用(類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5)も選択可 |
※なお、少数の株式しか持たない株主の株式については、いずれの会社でも配当還元価額によることになります。
さて、上に出てきた「類似業種比準価額」方式というのは、簡単にいえば、上場会社の中で同業種の会社の株価(国税庁のホームページに業種ごとの株価、配当金額、利益金額、簿価純資産価額が記載されています。)をもとに、評価する会社の1株あたりの配当金額、利益金額、簿価純資産価額を比較して、評価額を算定する方法です。その際、利益金額については、評価額への影響度がほかの配当金額、簿価純資産価額の3倍と高くなっています。上の表のように、上場会社に近い規模の会社の株式になるほど、上場会社に類似した評価額になります。
次に、「純資産価額」方式というのは、簡単にいえば、(会社の総資産から負債などを控除した純資産の額)を(発行済み株式の総数)で割った「1株あたりの純資産の額」を評価額とする方法です。上の表のように、個人事業とあまり変わらないような小規模の会社の株式になるほど、評価額は純資産価額に近くなります。純資産価額方式では、類似業種比準価額方式よりも評価額が高くなるケースが多いことに注意が必要です。
なお、「配当還元価額」方式というのは、簡単にいえば、前2年間の通常配当金の実績をもとに、配当還元率を10%として評価額を算定する方法です。上の2つの方式に比べると、評価額が相当低くなることが多いでしょう。
さて、以上によりますと、非公開会社の支配株主の株式の株価対策としては、類似業種比準価額と純資産価額を下げる方策が必要となることが分かりますが、実際には、類似業種比準価額のほうが純資産価額よりも短期的な株価対策がしやすいでしょう。
では、次回以降で、株価対策の方法をみていきましょう。