会社が役員に債務免除をする場合に源泉徴収をしなければならないのか?

今回は、平成27年10月8日最高裁第一小法廷判決のご紹介です。

 

この件は,平成19年にある青果荷受組合が理事長に対する48億円あまりの債務を免除したところ、税務署長がこの債務免除による経済的利益は理事長に対する賞与に該当するとして、源泉所得税18億円余りの納税告知処分などを組合に行ったのに対して、組合がその取消しを求めて争ったというものです。

最高裁は、理事長の債務免除益が同人に対する「給与等」(所得税法28条)に該当しないから組合に源泉徴収義務はないとした広島高裁の判決(納税者勝訴判決)を覆し、再び広島高裁に事件を差し戻す判決をしました。 

この広島高裁の判決については、このブログでも以前ご紹介し、結論的には合理的な判断であるように思われると記載しておりましたが、この度、最高裁は、「所得税法28条1項にいう給与所得は、・・・雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付をいう」、「同項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与とは、上記の給付のうち功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与される給付であって,その給付には金銭のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれる」とし、「本件債務免除益は、・・・雇用契約に類する原因に基づき提供した役務の対価として、被上告人から功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与された給付とみるのが相当である。したがって、本件債務免除益は、所得税法28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に該当する」として、「給与所得」や「賞与」の文言に関するこれまでの判例どおりの判断を行い、債務免除益が「給与等」に該当するものとして、広島高裁の判決を覆しております。

 

もっとも、最高裁も、「本件債務免除当時にAが資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であったなど本件債務免除益を同人の給与所得における収入金額に算入しないものとすべき事情が認められるなど、本件各処分が取り消されるべきものであるか否かにつき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」と言っていますので、本件の債務免除益は所得税法28条の「賞与又は賞与の性質を有する給与」には該当するけれども、「債務免除当時にAが資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であったなどの収入金額に算入しない事情」があるとなれば、そもそも所得税法36条の収入金額がないとして本件の処分が取り消されえることを前提として、高裁に差し戻しをしているといえます。なお、この部分の最高裁の判断は、同様の定めである所得税法基本通達36-17や、その後平成26年4月1日に施行・新設された同趣旨の所得税法44条の2の存在を強く意識したものといえます。

 

広島高裁としては、「債務免除当時にAが資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であった」ことなども考慮して、実質的に「給与等」に該当しないと判断をしたつもりだったかと思いますが、最高裁は、これまでの所得税法28条の「給与等」「賞与」に関する判例・実務の考え方に加えて、所得税法36条の収入金額に関する通達での例外的取扱い、さらには所得税法44条2の新設といった経緯もあるため、これらの整合性を取るため、本件では、「給与」「賞与」に該当するとしつつ、収入金額に算入しないものとするみちを後に確保することによって、整合性と妥当な結論を導こうとしたのではないかと考えられます。