報道によると、旧武富士が利息制限法上の制限を超過した利息収入に基づいて納付していた法人税について、過年度に得た制限超過利息が無効であることが法的に確定しため、過年度の税金を払いすぎていたことになったとして、会社更生中のTFK(旧武富士)の管財人が、国税通則法23条2項1号を根拠とする「後発的更正の請求」をしたところ、税務署長から更正を拒否する通知処分を受けたため、その取消しと2374億円余の返還を国に求めた訴訟において、東京地裁は10月30日、請求を棄却する判決をしたそうです。
「更正の請求」は、確定申告書を提出した後に、所得金額や税額の計算に誤りがあり、や法律に従っていなかった点がある場合などで、申告等をした税額等が実際より多かったときに正しい額に訂正することを求める場合の手続きで(通則法23条)、中でも、課税標準や税額の計算の基礎となった事実に関する訴訟の判決によって、計算の基礎とした事実が事実でなかったと確定したなどの事由が生じたときに、その事由が生じた日の翌日から2か月以内にすることができるのが「後発的更正の請求」です。
さて、法人の所得については、当期において生じた損益はその発生事由を問わず、当期において経理処理すべきものであって、その発生事由が既往の事業年度の損益に対応するものであっても、その事業年度に遡って処理はしないのが一般的な会計処理であり、法人税法上も、収益や原価・費用・損失の額は公正妥当な会計処理の基準に従って計算されることになっているため(法人税法22条4項)、これまでの判例等によれば、仮にある事業年度において過去の事業年度の収益が過大となる事由が発生した場合であっても、そもそも、企業会計上も法人税法上も、過去の事業年度の収益の計算が遡って過大であったということにはならないため、通則法23条2項1号を根拠とする後発的更正の請求は認められないと一般的には解されているように思われます。
今回の判決の内容や理由については情報がないため分かりませんが、その結論についてはこれまでの一般的な理解に沿うものではないかと思われます(通常人の感覚に合致するかどうかは別ですが・・・。)。
ところで、法人税については、会社法上確定した決算に基づいて法人税の申告書を提出すべきとする確定決算主義がとられています(法人税法74条1項)。
この点に関して、会計の世界では、近年、「過年度遡及修正」に関する会計基準が定められており、誤謬による過年度決算の遡及修正も認められているところですが、そもそもこの過年度遡及修正は主に、過去からの累積的な影響額を当期の期首の金額に反映させるためのもので、過去の計算書類の確定や税務申告に影響を及ぼすものではないとされています(過年度の所得金額や税額に影響を及ぼすものではなく、法人税の修正申告も不要とされております。)。したがって、仮に「過年度遡及修正」が行われた場合であっても、修正した内容の計算書類や決算について確定し直したことにはなりません。
また、会社法上、過年度の決算自体のやり直しが認められているということもできないと思われますので、過年度の決算を確定し直した結果として過年度の申告税額が過大なものとなったことを理由とする後発的更正の請求は認められないものと考えられます。
以上によれば、現在でも、法人税については、通則法23条2項1号に基づく後発的更正の請求による過年度の所得金額や税額の是正は一般的には認められていない、といってよいのではないかと考えられます。
このような観点からすると、今回の訴訟に関して、原告側が控訴をするか否かは分かりませんが、今後その主張が裁判所で認められるためには、越えなければならない壁があるといえそうです。
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