本日は、ややマニアックですが、信託の会計処理・税務処理に関する重要判例(東京地裁平成24年11月2日・平22(行ウ)693号事件)の簡単な紹介です。京都大学の岡村忠生教授が主宰しておられる信託税制研究会において、この判例についての報告を先日行ってきたところです。
事案の概要は、原告の銀行が、保有する住宅ローン債権を信託して、優先受益権と劣後受益権を受領し、優先受益権を投資家に売却すると共に劣後受益権を原告が保有する流動化取引を行い、平成16年3月期ないし平成18年3月期において受領した、劣後受益権に対する収益配当金の一部について、償却原価法を適用する会計処理を行った上、法人税の益金の額及び消費税の資産の譲渡等の対価の額に含めずに確定申告をしたところ、税務署長が、収益配当金は全て益金等の額に含まれるとして、法人税の更正処分等をしたため、原告がそれらの処分の取消しを求めて訴訟を提起したというものです。
償却原価法とは、債券や債権の取得価額と額面金額が異なる場合(額面より高い額、あるいは低い額で取得した場合)に、満期までの期間、その差額を一定の方法で貸借対照表の取得価額に加減して配分する方法のことで、入金時や期末においてにそのような加減処理を行うことになります。差額が金利の調整による場合(例えば、ある債権の約定金利が市場平均より低いため債権を低い金額で売買する場合、ある債権の約定金利が市場平均より高いため債権を高い金額で売買する場合などを想定して下さい。)、期間の経過に応じて処理することによって、各期の損益の平準化や、差額が実質的には金利であることを反映した処理が可能となります。
事実関係を補足します。
・原告は、各事業年度において、劣後受益権に対する収益配当金につき、金融商品会計実務指針(以下「実務指針」と言います。)105項の適用があるものとして償却原価法を適用し、収益配当金を利息額及び債権償還額に区分し、利息額のみ収益に計上して、債権償還額は劣後受益権の帳簿価額から減額する会計処理を行い、また、利息額のみを益金の額に算入する法人税等の確定申告をしていていました。
・実務指針105項は、債権の支払日までの金利を反映して債権金額と異なる価額で債権を取得した場合には、取得時に取得価額で貸借対照表に計上し、取得価額と債権金額との取得差額について償却原価法に基づき処理を行うことなどを定めています。
・この信託においては、劣後受益権に対する収益の配当は、優先受益権に対する収益の配当が支払われた後に残余の収益がある場合に行われること、などが定められていました。
さて、本件において、東京地裁は、実務指針100項(2)ただし書き(※優先受益権が譲渡される場合に、譲渡人の保有する信託受益権は新たな金融資産ではなく、譲渡した金融資産の残存部分として評価することなどを定めています。)等によれば、原告の保有する劣後受益権は、新たな金融資産の取得としてではなく、信託した金融資産である住宅ローン債権の残存部分として評価する必要があるのであって、実務指針105項にいう「債権を取得した場合」には該当しないことや、劣後受益権の帳簿価額と債権金額の差額は、帳簿処理に伴う技術的な理由によって計上されたものにすぎず、受益権の支払日までの金利を反映して定められた金額ではなく(※この判断に関連する部分は長くなるので割愛させて頂きます。)、実務指針105項が償却原価法に基づく処理をさせることとした前提を欠くなどとして、原告の請求を認めませんでした。
債権の取得該当性を否定した上で、さらに差額の金利反映性を否定したものといえます。
原告が行った住宅ローン債権の優先劣後構造による信託は業界において一般的なもので、その際には原告と同様の会計処理(償却原価法)が行われているようですので、本件の判決が確定すると、実務に与える影響は小さくはないでしょう。本件については、控訴されているようですので、今後の東京高裁の判断に注目しております。
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