前回の続きです。
神奈川県は、臨時企業税条例によって、県内に事務所・事業所を設けて事業活動を行い、「欠損金の繰越控除」(益金から損金を引いた後の赤字所得である欠損金の翌事業年度以降への持ち越しのことで、翌事業年度以降の所得を減らすことができます。)を適用した、資本金の額が5億円以上の大きな法人を対象に、課税標準額(繰越控除を行わないものとした場合の所得額など)の2%に当たる臨時特例企業税を納めなければならないこととしていました。なお、この臨時特例企業税は、法人の事業税について「外形標準課税」制度(所得が0円又は赤字でも、事業規模に応じた事業税の負担が発生することになります。)が平成15年の法改正によって導入されたことに伴って廃止されています。
前回も書いていたように、条例によって地方税を課するには、「法律の範囲内で」条例を制定し、「この法律(地方税法)の定めるところによって」行わなければならないのですが、地方税法は都道府県税として事業税を定め(法定税)、事業税の所得割の計算基準となる法人の所得の計算については、法人税法の例によることとし、法人税と同様に欠損金の繰越控除を認めております。ところが、神奈川県の臨時企業税条例では、税目は事業税ではなく臨時企業税に変わることになりますが、経済的、実質的には、法人事業税の欠損金の繰越控除を認めないのと同様の結果を導くことになります。
また、本来、法人の所得は設立以降、解散・清算するまでの間の益金や損金を通算しなければ適正に算出できないはずであり、税法は、毎年の税収を適切に確保すべく、事業年度(課税期間)ごとに法人の所得を計算して税を課し徴収する制度を採用しているものの、このような事業年度単位課税のもとで上記のような適正な所得計算を実現するための手段として欠損金の繰越控除を設けているものと理解すれば、欠損金の繰越控除制度は、納税者に対する恩典的なものというよりも、事業年度単位課税に伴う本質的なものということになると思います。
そのため、最高裁は、法人税法の欠損金の繰越控除について、「所得の金額の計算が人為的に設けられた期間である事業年度を区切りとして行われるため、複数の事業年度の通算では同額の所得の金額が発生している法人の間であっても、ある事業年度には所得の金額が発生し別の事業年度には欠損金額が発生した法人は、各事業年度に平均的に所得の金額が発生した法人よりも税負担が過重となる場合が生ずることから、各事業年度間の所得の金額と欠損金額を平準化することによってその緩和を図り、事業年度ごとの所得の金額の変動の大小にかかわらず法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨,目的から設けられた制度」であるとし、特例企業税を定める本件条例の規定は、「地方税法の定める欠損金の繰越控除の適用を一部遮断すること」をその趣旨、目的とし、「欠損金の繰越控除を実質的に一部排除する効果」を生ずる内容のものであり、「各事業年度間の所得の金額と欠損金額の平準化を図り法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的」から欠損金の繰越控除の必要的な適用を定める地方税法の規定の趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものであって、法人事業税に関する地方税法の強行規定(※強行規定とは、これと矛盾抵触するような内容の規定を無効とする強力な規定です。)と矛盾抵触し、違法、無効であるとしたのです。
今回の最高裁判決は、条例の法律違反の有無の判断基準、地方税法と地方税条例の関係、欠損金の繰越控除制度の趣旨などを改めて明らかにしたものといえます。特に、法定税について地方税法の枠を超えて条例を定めることは許されないこと(かつて、銀行税条例と呼ばれた事業税の課税標準の特例条例が、東京高裁で違法と判断されたことがあります。)は勿論、今回のような法定外税であっても、地方税法が法定税について定める枠を超えて、法定税を加重するような法定外税を条例で定めることも許されないことを明らかにしたところに意義があるのではないかと思われます。
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