自賠(じばい)といえば、まず自賠責保険を思い浮かべる方が多いでしょうか。その自賠責保険制度などについて定めているのが自動車損害賠償保障法(以下では「自賠法」といいます。)です。
この自賠法は「自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする」もので(自賠法1条)、重要なポイントを簡単にいえば、
1.自動車事故による損害の賠償責任として、民法第709条710条の不法行為責任とは別に「自動車損害賠償責任」(一般に「運行供用者責任」と言われています。)を定めたこと
2.強制加入の保険として自賠責保険制度を創設したこと
3.政府の「自賠保障事業」を設けたこと
の3点にあるといえます。
まず、上記の1.ですが、自賠法3条は、本文で「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。」とし、但し書きで「ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。」と規定しています。
一般的な民法第709条710条の不法行為責任による場合は、被害者側がその交通事故について加害者の故意又は過失などを主張立証する責任を負い、これができなければ、被害者は加害者に対して損害賠償責任を追求することができないのですが、自賠法3条の運行供用者責任の場合は、自分のために自動車を運行に供する者(一般に「運行供用者」と言われており、「運転者」以外の者でもこれに当たる場合があります。)は、その運行によって人身事故が発生した場合の人身損害については、但し書きで定められているような極めて例外的な場合に当たることを自らが立証しない限り、被害者に対する賠償責任を負うことになりますので、運行供用者は原則的に損害賠償責任を負うこととなります。
そのため、人身損害の賠償が問題となっている事案では、裁判になっても、運行供用者である被告が「被告に損害賠償責任がある」という点については特に争わず、不要な争いを避けられることが多いと思われます(被告が、損害賠償責任を負うことを前提としつつ「過失相殺」を主張することは多いですが。)。
ところで、運行供用者責任は、物損事故による損害についての賠償責任ではなく、あくまで人身事故による損害についての賠償責任であることには注意してください。物損事故による損害については、民法第709条の不法行為責任を追求して、加害者側から損害賠償を受ける必要があります。
他方で、被害者の人身損害について運行供用者が賠償責任を負う範囲は、上記の2.の自賠責保険の限度額にとどまるものではないことにも注意してください。たとえば、傷害についていえば、被害者は120万円の自賠責保険の限度額を超える部分の傷害による損害についても、運行供用者に対して賠償責任を追求することができるわけです。
以上のように、自賠法の運行供用者責任は、被害者救済という点では非常に重要なものであると思います。
上記の2.3.については、次の機会にふれたいと思います。