遺言で会社に対する株式などの遺贈を考えているひとは税金に注意を(2)

前回の続きです。

今回は、会社に遺贈するのがその会社が発行した株式である場合の税金について、説明します。

 

ⅰ)会社の税負担について

この点については、前回のⅰ)とは事情が異なります。

会社にとっての自己株式の取得については、現在の会社法や法人税法のもとでは資本取引(資本の払い戻し)であるとして益金、法人税は発生しないものと基本的に考えられているところだとは思います。

しかしながら、会社に株式の時価相当額の益金が発生したとして法人税がかかるとの見解も見受けられるところではあり、この点は若干不明確なところがあります。

 

ⅱ)故人の税負担について

前回のⅱ)と同じく、亡くなった故人については、遺贈により、その財産を時価相当額で(相続税評価額ではないためより高額になる場合があります)会社に譲渡したものとみなされ、取得時からの値上がり益がある場合には、その譲渡所得について所得税がかかることになります。

それだけでなく、発行会社に対する自己株式の譲渡であるために、譲渡代金のうち一部については会社から配当を受けたものとみなされ、配当所得がかかってしまう場合もあります(この場合、会社は予め支払時に約20%の源泉徴収をしなければなりません。)。

相続開始を知った日から4か月以内に、所得税の準確定申告をして納付する必要があることは変わりません。

 

ⅲ)他の株主の税負担について

基本的に前回のⅲと同じだと考えられます。

 

 

2回にわたってご説明してきましたが、会社に対する遺贈については、他の株主や相続人への税金上の影響がありますし、株式の時価評価額によってはそれらの税金が多額となることもあり、通常の相続の場合と比べて複雑となり、心配しなければならない点があることが分かってもらえるかと思います。

法人への遺贈は税負担のこともよく考えてから!ということになります。

 

皆さま、ご注意ください。

遺言で会社に対する株式などの遺贈を考えているひとは税金に注意を(1)

会社の代表者、オーナーが、重要な財産を同族会社に貸しているような場合(よくあるのは会社の本社ビルが建っている土地が個人所有になっているケースです。)などには、自分が亡くなったときに、遺言で会社へその財産を遺贈したいと考える場合もあるでしょう。

あるいは、保有している会社の株式について相続させる適切なひとが思い当たらない場合に、とりあえず保有株式(の一部)をその会社に遺贈しようとする場合もあるでしょう。

 

しかし、遺言で会社に対して財産を遺贈する場合には、意外な税金の負担が発生することがあるため、注意が必要です。

 

1.まず、会社に不動産など一般的な財産を遺贈する場合について、説明します。

 

ⅰ)会社の税負担について

遺贈により、会社は利益を受けることになるため、法人税等が課されることは当然です(例外的に、「持分の定めのない会社」の場合には、法人であるにもかかわらず相続税がかかることがあります。)。

 

ⅱ)故人の税負担について

次に、亡くなった故人については、遺贈により、その財産を時価相当額で(相続税評価額ではないためより高額になる場合があります)会社に譲渡したものとみなされ、取得時からの値上がり益がある場合には、その譲渡所得について所得税がかかることになります。

実際には相続人がその所得税の納税義務を承継することになるのですが、相続人は、相続開始を知った日から4か月以内に、準確定申告をして税金を納付する必要があるのです。

相続人は、被相続人の死後バタバタしている時期に、短期間で、場合によっては多額の納税をしなければならないわけです。

予め相続人が遺言の内容を知らなければ、あるいは予め納税資金の準備ができている場合でない限り、相続人にとっては大きな負担となるかもしれません。

 

ⅲ)他の株主の税負担について

さらに、場合によっては、会社の他の個人株主について、会社が遺贈を受けたことに伴い、自らの所有株式の価値も増えたことについて、亡くなった故人から贈与(遺贈)を受けたものとみなされ、相続税がかかることもあり得るのです。

 

次回に続きます。

個人から宗教法人に対する贈与について贈与税をかけた税務署の処分を取り消した裁決のご紹介

 今回は、宗教法人の代表役員を務めていた住職が、生前に自分の預金から出金し、宗教法人の預金に入金した点に関し、税務署が、この金員の移動は持分の定めのない法人に対する財産の贈与で、住職の親族の相続税の負担が不当に減少する結果になるとして、相続税法第66条第4項の規定により、宗教法人を個人とみなして贈与税の決定処分等をしたのに対し、宗教法人が審査請求人として国税不服審判所で争った事案について、税務署の処分を全て取り消した国税不服審判所の令和3年5月20日付の裁決をご紹介します。

 

当時の相続税法第66条第4項の規定によれば、持分の定めのない法人に対する贈与があった場合に、当該贈与により当該贈与をした者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、当該法人を個人とみなして贈与税を課すこととされています。

通常、贈与税は個人間の贈与に限り課されるものですが、課税逃れを防ぐために、例外的に法人等に贈与税が課される場合があるわけです。

 

この点について、審判所は、前提として、以下のとおり、相続税法第66条第4項に関する法令解釈を示しました。

「相続税法第66条第4項の趣旨は、持分の定めのない法人に財産の贈与があったときに、その財産の贈与者の親族等が当該贈与財産の使用、収益を事実上享受し、又は当該財産が最終的にこれらの者に帰属するような状況にある場合に、相続税又は贈与税の負担に著しく不公平な結果をもたらすことになることを防止するため、当該持分の定めのない法人を個人とみなして、財産の贈与があった時に、当該法人に対し贈与税を課することとしたものである。

 このような趣旨からすれば、同項所定の贈与者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるかどうかは、持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があり、その時点において、その法人の社会的地位、寄附行為、定款等の定め、役員の構成、収入支出の経理及び財産管理の状況等からみて、財産の提供者等ないしはその特別関係者が、当該法人の業務、財産の運用及び解散した場合の財産の帰属等を実質上私的に支配している事実があるかによって判断すべきである。」

 

この法令解釈は通説的な見解と大きく違わないものだといえると思います。

 

次に、審判所は、以下のような判断をしました。

 

「・請求人の経理及び財産管理の状況等について

前住職らによる請求人の業務運営及び財産管理については、請求人の総代が相当程度に監督しているものと認められるほか、前住職らが私的に業務運営や財産管理を行っていたとまでは認められない。

 

・私的な財産の使用・運用の有無(生活費の支出の有無)について

本件各資金移動の時点において、原処分庁が主張する前住職らの生活費として毎月20万円を請求人の財産から支出していた事実を認めることはできず、他にその事実を裏付ける客観的な証拠も認められない。

 

・私的な財産の運用の有無(本件建物の私的利用の有無)について

本件建物は現住職の子が僧侶としての職務を遂行するに当たり必要な庫裏とみるのが相当であり、現住職の子を本件建物に無償で居住させたとしても請求人の財産を私的に利用したということはできない。

 

・その他私的な利益の享受の有無について

そのほか、前住職らが、本件各資金移動の時点において、請求人の財産から私的に財産上の利益を享受した事実は見当たらない。

 

・解散時の財産の帰属について

本件寺院規則第39条の定めをもって、前住職らが恣意的に請求人を解散し、その財産を私的に支配することができるとはいえない。

 

・まとめ

前住職らが、請求人の業務、財産の運用及び解散した場合の財産の帰属等を実質上私的に支配している事実は認められない。

 したがって、本件各資金移動により相続税法第66条第4項に規定する贈与者である前住職の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となるとは認められない。」

 

さて、税務署は相続税法第66条第4項という例外的な否認規定を用いて否認し、宗教法人に対して贈与税を課したわけですが、審判所は税務署の主張を認めませんでした。

税務署からしても否認規定を適用するのは容易なことではないといえるかと思います。

本件は重要な先例となる裁決だと思いましたので、ご紹介しました。

 

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他の相続人の相続税申告書の内容を知ることはできるのか?

遺産分割などの事件を担当していると、依頼者から、遺産の内容を把握するために、他の相続人の相続税申告書の内容を知ることはできないの?と質問を受けることがときどきあります。

また、遺産の全容を把握できていない相続人の人が、相続税の申告をするに当たって、遺産の内容を把握している他の相続人の相続税申告書の内容を知りたい、という場面もあります。

 

(なお、共同相続人が同じ税理士に依頼して一通の相続税申告書で共同申告をしていれば、自然と遺産の内容が分かるでしょうから、ここでは別々に申告をしている(あるいは遺産を把握している相続人だけが申告をしている)ケースを前提とした話となります。)

 

 

たしかに、遺産を一手に管理している相続人の相続税申告書が見られれば、遺産の内容が分かって有用であることは確かなのですが、結論的には、今のところ難しい(できない)、ということになります。

 

 

・まず、相続税法において、共同相続人が他の相続人の相続税申告書について閲覧、謄写するような制度は設けられていません。

 

なお、相続税の申告や更正の請求をしようとする者は、他の相続人等が被相続人から受けた相続開始前3年以内の贈与又は相続時精算課税制度適用分の贈与に係る「贈与税の課税価格の合計額」について、開示を請求することが相続税法49条で認められています。

しかし、この制度では、他の相続人が受けた生前贈与(の一部)について金額が分かったとしても、被相続人の遺産の内容を把握することはできません(特別受益の関係では、この制度は利用価値があるとは思いますが)。

※国税庁「贈与税の申告内容の開示請求手続」

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/2361.htm

 

 

・次に、裁判所の力を借りて、文書送付嘱託、文書提出命令といった制度で、税務署に他の相続人の相続税申告書を提出させることができないか?ということが考えられますが、これも残念ながら、今のところこれも難しいのが現実です。

 

実際、平成28526日付の福岡高裁宮崎支部の決定では、遺産分割調停事件の相手方が税務署長に対して提出した相続税申告書等を対象とする文書提出命令の申立てについて,当該文書は,その記載内容からみて,その提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの(民事訴訟法220条4号ロ)に該当するとして文書提出命令の申立てが却下されていますし、これ以前にも同様、類似の判断がされた裁判例もあります。

 

 

以上のとおり、今のところ、他の相続人の相続税申告書の内容を知ることは難しい、というのが結論になります。

参考になれば幸いです。

    

 

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徴収金の督促、国税の納税告知、督促も時効中断効があるのは初回のみなのか?

今回は、前回ご紹介した令和2年6月26日最高裁判所第二小法廷判決に関する影響、射程範囲についての考察です。

 

まず、今回の最高裁判決では明確にはなっていませんが、最高裁判決の判断の記載ぶりからすると、地方税の徴収金の納入又は納付の告知だけでなく、地方税の徴収金の「督促」についても時効中断効があるのは初回だけ、ということになってもおかしくないのではないかと思われました。

 

 

次に、今回の最高裁判決の考え方(前回の記事で確認してください。)からすれば、地方団体の徴収金だけでなく、国税についても同様に考えられるのか否かについても、少し考えてみました。

 

まず、地方税の徴収金と同じように、「納税の告知」が行われる国税(関税などの賦課課税方式の国税、源泉所得税など源泉徴収方式の国税などがこれに当たります。)については、国税通則法において、地方税法と同様ないし類似の仕組みが採られているため、前回の最高裁判決はこれらの国税の納税の告知(や督促)にも同様に当てはまり、納税の告知(や督促)についても時効中断効があるのは初回だけということになるのではないかとの推察もできるのではないでしょうか。

 

さらに、通常の所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税といった申告納税方式が採用されている国税については、どうでしょうか?

これらの国税については、納税の告知という方式は採用されていませんが、国税通則法において、徴収の仕組みについては地方税法と同様ないし類似の仕組みが採られているため、前回の最高裁判決はこれらの国税の督促にも同様に当てはまり、督促について時効中断効があるのは初回だけということになるのではないかという推察が成り立つ余地があるのではないでしょうか。

 

 

さて、今回の最高裁判決について非常に重要な点は、その理由付けからすれば、地方税の徴収金の納付又は納入の告知にとどまるような話ではなく、さまざまな税金の徴収(督促等)にまで同様の判断がされる可能性がありそうだ、という点だと思います。

今後、類似の事案の裁判を通じて、今回の最高裁判決の影響、射程範囲が明らかになってくるのではないかと思われます。

 

 

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地方団体の徴収金の納付告知に徴収権の時効中断の効力があるのは初回だけ

今回は、令和2年6月26日最高裁判所第二小法廷判決をご紹介します。

この最高裁判決は、 地方団体の徴収金につき、「被相続人」に対して既に納付又は納入の告知がされていた場合に、その後、「相続人」に対して納付等を求める旨の通知がされても、地方税の徴収権について、地方税法に基づく消滅時効の中断の効力が生じないものと判断したもので、実務上、重要な判決だと思われます。

 

 

この件に関して、最高裁は、概ね、以下のとおり判断しました。

 

・地方団体の長は、納税者又は特別徴収義務者から地方団体の徴収金を徴収しようとするときは、これらの者に対し、納付又は納入の告知をしなければならないとされ ている(地方税法13条1項)。そして、徴税吏員は、納税者等が納期限までに地方団体の徴収金を完納しない場合には、督促状を発しなければならないとされ(同 法726条1項等)、さらに、督促を受けた滞納者がその督促状の発せられた日か ら起算して10日を経過した日までにこれを完納しないときには、滞納者の財産を 差し押さえなければならないとされている(同法728条1項1号等)。

このよう に、地方団体の徴収金の徴収について段階的な手続が定められていることに鑑みると、同法において、税額等が確定し、その徴収手続として納付又は納入の告知がされた地方団体の徴収金に関し、再度同告知がされることは予定されていない。

 

・また、地方団体の長による納付又は納入に関する告知は、私人による催告とは異 なり、地方団体の徴収金に関する徴収手続の第一段階として、法令の規定に基づき一定の手続と形式に従って行われるものであることから、同法18条の2第1項1 号は、これについて特に消滅時効を中断する効力を認めることとしたものと解される。

このような同号の趣旨をも併せ考慮すると、時効中断の効力は、 最初に行われた納付又は納入の告知についてのみ生じ、その後、再度同様の通知がされたとしても、その通知は単なる催告としての効力を有するにとどまるものと解するのが相当である。

 

・相続があった場合、・・・相続人の利益保護等の観点から、督促や差押えに先立ち、相続 人に対し改めて納付等 を求める旨の通知をしたとしても、その通知は単なる催告としての効力を有するに とどまるものと解すべきことは、上記と同様であり、被相続人に対して既に納付又は納入の告知がされた地方団体の徴収 金につき、相続人に対する通知は消滅時効の中断の効力を有しないというべきである。

 

・本件において、Aに対して既に納付の告知及び督促がされた本件租税債権につき、相続人である上告人に対してされた本 件承継通知は、時効中断の効力を有するものではない。

 

・以上によれば、本件差押処分がされた時点で、本件係争債権は時効により消滅していたというべきであり、本件配当処分のうち本件係争債権に係る部分は、租税債権が存在しないにもかかわらずされた違法な滞納処分として、取り消されるべきである。

 

 

さて、個人的には、この最高裁の判断は、地方税法の条文に即したものであり、明快かつ論理的だと考えております。

地方自治体が繰り返し納付告知を繰り返し行うことによって容易に時効中断ができるという安易な結論にならなかったのもよかったと思います。

自治体側としては今回の判決を踏まえると、対応に苦慮するケースもあるかもしれませんが・・・。

 

次回に続きます。

代表者の個人的な飲食代金を交際費として処理したら重加算税が課されたケース

本日は、会社の代表者の個人的なクラブの飲食代金を交際費として処理したら、税務署から否認され、しかも重加算税が課されてしまい、裁判になってしまった事例をご紹介します。

 

 本件は、ある会社が、代表者、実質的な経営者であるAが接待飲食店(以下「本件各クラブ」という。)を利用した際の代金を原告らの業務のための交際費として支出したとして、法人税等の確定申告においてこれを損金の額に算入して申告したところ、税務調査において、上記支出額にはAの個人的な飲食代金の金額が含まれているのではないかとの指摘を受けたことから、原告らは、その相当部分(以下「本件各支出額」という。)を損金算入せず、Aへの貸付金とする旨の法人税等の修正申告を行った(以下「本件各修正申告」という。)が、税務署から、本件各支出額について、原告らが取引先等を接待した事実がないにもかかわらず、これを交際費として総勘定元帳に記載していたことなどが、国税通則法68条1項の「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たことに当たるとして、原告らに対し、重加算税の各賦課決定処分が課されたことから、その処分の取消しを求めて裁判を起こしたという事案です。

 

この件に関し、東京地裁(令和2年3月26日判決)は、「本件各支出額は、その全てがAの個人的な飲食代金であったと認めるのが相当である」との事実認定をしたうえ、以下のように判断しました。

 

・原告らは、原告らを名宛人とする本件各クラブの領収証に基づいて、本件各支出額を交際費に計上した総勘定元帳を作成することにより、本件各支出額を交際費と仮装して損金の額に算入した上で、法人税等の各確定申告書を税務署長に提出したのだから、原告らは、本件各当初申告において、法人税等の課税標準の計算の基礎となるべき事実を仮装し、その仮装したところに基づき納税申告書を提出したというべきである。

 

・本件各修正申告においては、本件各支出額が原告らのAに対する貸付金であることを前提に、その貸付けによって生じた本件各利息額が雑収入として益金の額に算入されているところ、原告らは、本件各当初申告において、本件各支出額が原告らの交際費であるかのように仮装することにより、上記貸付金を貸借対照表の資産の部に計上せず、その結果、貸付金に係る本件各利息額を隠ぺいしたものであり、本件各当初申告において、法人税等の課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装し、その隠ぺいし仮装したところに基づき納税申告書を提出したというべきである。

 

 

また、東京高裁でも、同様の結論となり、控訴が棄却されているようです(東京高裁令和3年1月28日)。

 

 

本件のような事案では、実務上、代表者の一人飲みの代金の経費性を否認したうえで、役員賞与として処理するか、代表者への貸付金として処理するか、いずれかの処理で終わることになる例が多いと思いますが、重加算税まで課されているのはやや厳しい印象があります。

 

また、上記の東京地裁の判断を見ると、実質的には経理処理や確定申告そのものを仮装、隠ぺい行為と認定しているように読めてしまい、このような考え方だと、あまりに多くのケースで重加算税の賦課が認められてしまうのではないか、との危惧を感じました。

 

何にせよ、本件と似たようなことをしておられる代表者、会社の方は、本件のような事例があることを改めてご認識いただければと思います。

 

 

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相続預金からの出金が法定単純承認事由に該当するとして国税が相続放棄の効力を争った事案の裁決の紹介

 

今回は、相続預金からの出金が法定単純承認事由に該当するとして国税が相続放棄の効力を争った事案についての国税不服審判所の令和2年3月17日付裁決をご紹介します。

 

この件は、国税(原処分庁)が、滞納会社の納税保証人が死亡したことから、その配偶者である審査請求人(以下「請求人」という。)が納税保証人の納税義務を承継したとして、請求人名義の不動産を差し押さえたのに対し、請求人が、相続放棄を行ったから納付義務は承継していないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案です。

 

この件で、国側は、

①被相続人名義の預金口座に振り込まれた金員(以下「本件金員」という。)は、被相続人が受け取るべき顧問料を原資としており、被相続人の相続財産に該当し、請求人が本件金員を出金し、生活費として自己の財産に組み入れた行為は、管理行為と考えられる限度を超えている

②請求人が本件金員を振込者に送金して返納した行為は相続放棄者の相続財産の管理義務に反して行われたものであり、相続財産の処分に該当する

などと主張しました。

 

審判所は、

①請求人が口座から出金した本件金員相当額の現金を、相続放棄の申述が受理されるまでに一部でも費消したという事実が認められない限り、相続財産の経済的価値を減少させる行為があったとは言い難いことから、請求人が口座から現金を出金したことのみでは、相続財産の処分に該当する事実があったとはいえない

②民法第921条第1号は、相続の承認も放棄も行っていない相続人が相続財産を処分した場合のみに関する規定であり、相続人がいったん有効に相続放棄を行った後で相続財産を処分した場合に適用される規定ではないと解されている、請求人は相続放棄の申述が有効となった平成〇年〇月〇日より後の同月27日に本件金員相当額をKに送金しており、仮に当該送金が本件金員の返金であり「相続財産の処分」に該当する行為であるとしても、相続放棄の申述が有効となった日より後の行為であるから、この行為に民法第921条第1号を適用することはできない

 

との判断をして請求人の主張を認め、法定単純承認事由に該当する事実は認められないから、請求人の相続放棄の申述は有効であり、請求人は初めから相続人とならなかったものとみなされ、本件滞納国税の納付義務を承継しない、としました。

 

民法第921条第1号〜第3号の法定単純承認事由(※末尾に条文を掲載しておきました。)があると、相続人は単純承認をしたものとみなされ、相続放棄や限定承認ができないことになります。

この限定承認に関し、審判所は上記②のとおり、相続財産の処分に関する民法第921条第1号は相続の承認も放棄も行っていない相続人が相続財産を処分した場合のみに関する規定であると判断しておりますが、この点は従来からの通説・判例どおりの判断であり、特別な判断をしたものではありません。

 

次回は、この裁決とも関連する点、裁決の前提となっている点(相続放棄の効力を後から争うことができるのか否かなど)について、ご説明します。

 

※参考

民法第921条(法定単純承認) 

第九百二十一条  次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。 

三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。 

 

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カフェテリアプランに換金性があるとして税務署がした源泉所得税の納税告知処分等を取り消した裁決(2)

 前回からの続きです。

前回は、裁決の概要と、この裁決を理解するために前提として必要となるポイントについて、ご説明しました。

 

前回説明したところによれば、税務署は、以下のような判断の下で会社に対して源泉漏れの所得税について納税告知処分を行った、ということになります。

社員は本件の財形メニュー(財形貯蓄の補助金)を利用すれば、会社から金銭の支給を受けられる

→『ポイントを現金に換えられるなど換金性のあるカフェテリアプラン』に該当する

→本件のカフェテリアプランについては、財形メニューに限らず全てのメニューについて課税対象となる(前回記載の応答事例ⅲ)

→会社が非課税扱いにしていた人間ドック等のメニューを利用した経済的利益(本来なら福利厚生費として非課税とすることも可能だったもの)についても、「経済的な利益の価額」(所得税法36条)、「給与等」(同28条)に該当する

→支給時に会社において源泉徴収を要する(同183条)

 

 

 

それでは、以下で、本件に関する個人的な考察を少し書きます。

 

本件の財形メニューは、使用人から申請された財形メニューに使用するポイント数に相当する金銭が、会社から使用人に支給される仕組みとなっており、社員の選択結果によっては金銭が得られるという側面があったようです(無条件で金銭の支給が受けられるものではありませんが。)。

さて、このことと、前回記載の国税庁の質疑応答事例のⅲ「ポイントを現金に換えられるなど換金性のあるカフェテリアプランは、その全てについて課税対象となる」という点からすれば、税務署が人間ドック等の経済的利益について源泉徴収義務を負うとしたことも、全く理解できないではありません。

 

 

もっとも、こちらの会社では、財形メニュー(財形貯蓄の補助金)等の利用についてはきちんと所得税の課税対象として源泉徴収の対象としていたものであり、本来福利厚生費に該当し得る人間ドック等の補助費についてまで給与と認定し、源泉徴収の対象とする結論には違和感が強く、形式的に上記応答事例の記載内容を適用することが必ずしも適切な事例ではなかったように思います。

 

上記の裁決を見てみると、審判所は、法令解釈において、上記応答事例について、「本件回答は、カフェテリアプランの中に、何ら要件なく金銭や商品券等の支給を受けることを選択できるとか、自由に品物を選択できるなどのメニューがある場合には、金銭を給付するのと同様とみられるから、現に選択したメニューにかかわらず、全ての経済的利益が課税対象となるとするものであり、その取扱いは、上記の基本通達の趣旨に照らして整合的と認められ、当審判所においても相当と認められる。」と記載しています。

つまり、上記の応答事例において、全てのメニューの経済的利益が課税対象となる場面を、「何ら要件なく金銭や商品券等の支給を受けることを選択できるとか、自由に品物を選択できるなどのメニューがある場合」に限定的に解しているものと考えられ、その結果、審判所は税務署とは異なる結論に至ったものと考えられます。

 

 

さて、通達等については、税務署において、記載されている要件に文言上当てはまれば形式的に適用するというのではなく、表面上の文言のみならず、その趣旨を十分に踏まえたうえで、通達に則って処理するのが相当か否かを判断すべきであるということを本件を通じて再認識しました。

 

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カフェテリアプランに換金性があるとして税務署がした源泉所得税の納税告知処分等を取り消した裁決(1)

本日は、ある会社のカフェテリアプランに、財形貯蓄補助金メニューが含まれているため、換金性のあるプランであるとして、当該プランによる全ての経済的利益が課税対象になるとの理由で、社員が人間ドック等のメニューを利用したことによって得た経済的利益について、税務署が会社に対して行った源泉所得税等の納税告知処分を、取り消した国税不服審判所の裁決(令和2年1月20日)をご紹介します。

 

本件において、審判所は概ね、以下のとおり判断しました。

なお、裁決の詳細を知りたい方は、国税不服審判所のHPからご確認ください。

https://www.kfs.go.jp/service/JP/118/04/index.html

 

・本件プランは・・・使用人の福利厚生の充実等を目的として設けられたものと認められ、本件各使用人が本件各経済的利益として受ける額は、一律に1年間で20,000円を限度とするものであり、福利厚生費として社会通念上著しく多額であるとは認められない。

 ・本件財形メニュー(財形貯蓄補助金)は、本件各使用人のうち一定の期間内に財形貯蓄をした使用人に対して、その補助(サービス)として積立額の範囲内で申請したポイント数に相当する金銭が支給されるものであり、何ら要件なく本件ポイントを金銭に換えることを内容とするものとは認められない。

 ・そして、本件財形メニュー以外のメニューについても、自由に品物を選択できるものとは認められず、一定の要件を充足しなければサービスを受けられない内容のものであり、何ら要件なく金銭や商品券等の支給を受けることを選択できるものではない。

 ・また、残ポイントがある場合においても、残ポイント数に相当する金銭がE社から支給されることを内容とするものでもない。

 ・以上のことから、本件プランは、ポイントを現金に換えられるなど換金性のあるカフェテリアプランとは認められず、金銭を給付するのと同様とはみられないことから、現に選択したメニューにかかわらず、全ての経済的利益が課税対象となるものには該当しない。

 ・そうすると、本件各経済的利益は、本件各使用人が選択した現に受けるサービスの内容に応じて、課税しない経済的利益に該当するか否かを判断することになるところ、本件ドック等経済的利益(※〇社が非課税としていた人間ドック等の補助に関する経済的利益)は基本通達36-29又は基本通達36-30に定める「課税しない経済的利益」に該当すると認めるのが相当である。

 ・したがって、〇社には、本件ドック等経済的利益について源泉徴収義務はない。

 

 

まず、この裁決を理解する前提として、以下の点を押さえておいてください。

 

・財形貯蓄とは勤労者財産形成貯蓄のことで、法律に基づき、勤労者が貯蓄や住宅取得を目的に、賃金から天引きで行う貯蓄のことであり、税制上の優遇措置(一定額まで利子が非課税となる)を受けられます。

財形貯蓄をする社員には奨励金、補助金が支給される会社もあります。

 

・カフェテリアプランとは、一般的に、福利厚生の目的で、会社が外部のサービスを利用し、予め利用可能なサービスメニューを作成して、従業員に一定の補助金(ポイント)を支給し、従業員はそのポイントの範囲内でサービスメニューの中から選択し、利用できる制度です。

 

・所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において「給与等」の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、納付しなければならない旨規定しています。

 

・所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう旨、同条第2項は、給与所得の金額は、その年中の「給与等の収入金額」から給与所得控除額を控除した残額とする旨、それぞれ規定しています。

 

・所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上「収入金額」とすべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他「経済的な利益の価額」)とする旨規定しています。

 

・所得税基本通達(以下「基本通達」という。)36-29《課税しない経済的利益……用役の提供等》は、使用者が役員又は使用人の福利厚生のための施設の運営費等を負担することにより、当該施設を利用した役員又は使用人が受ける経済的利益については、当該経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合又は役員だけを対象として供与される場合を除き、課税しなくて差し支えない旨定めています。

 

・国税庁の質疑応答事例「カフェテリアプランによるポイントの付与を受けた場合」には、要約すると概ね以下のようなことが記載されています。

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/36.htm

ⅰ 従業員に付与されるポイントに係る経済的利益については、原則として従業員がそのポイントを利用してサービスを受けたときに、そのサービスの内容によって課税・非課税を判断すること

ⅱ 役員・従業員の職務上の地位や報酬額に比例してポイントが付与される場合には、カフェテリアプランの全てについて課税対象となること

ⅲ 課税されないのは企業から現物給付の形で支給されるものに限られ、『ポイントを現金に換えられるなど換金性のあるカフェテリアプラン』は、その全てについて課税対象となること

 

長くなってきましたので、次回に続きます。

制限超過利息を返還しても利息受領年度の益金の額を減額できないとした最高裁判決の紹介(2)

 前回からの続きです。

 

最高裁は本件に関し、以下のような判断を行いました。

 

・企業会計原則は、過去の損益計算を修正する必要が生じても、過去の財務諸表を修正することなく、要修正額を前期損益修正として修正の必要が生じた当期の特別損益項目に計上する方法を用いることを定め、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(平成21年12月4日企業会計基準第24号)も、過去の財務諸表における誤謬が発見された場合に行う会計処理としては、当該誤謬に基づく過去の財務諸表の修正再表示の累積的影響額を当期の期首の残高に反映するにとどめることとし・・・ている。企業会計原則等におけるこれらの定めは・・・過去の損益計算を遡って修正することを予定していないものと解される。

 

・法人税法も、事業年度における所得の金額を課税 標準として課税することとし(21条)、確定した決算に基づき各事業年度の所得の金額等を記載した申告書を提出すべきものとしており(74条1項)、国税通則 法も、当該申告書の提出による申告をもって、当該事業年度の終了時に成立した法 人税の納税義務につき納付すべき税額が確定することとしている(15条2項3号、16条1項1号及び2項1号)。

このように、法人税の課税においては、事業年度ごとに収益等の額を計算することが原則であるといえるから、貸金業を営む法人が受領し、申告時に収益計上された制限超過利息等につき、後にこれが利息制限法所定の制限利率を超えていることを理由に不当利得として返還すべきことが確定した場合においても、これに伴う事由に基づく会計処理としては、当該事由の生じた日の属する事業年度の損失とする処理、すなわち前期損益修正によることが公正処理基準に合致するというべきである。

 

・法人税法は、事業年度ごとに区切って収益等の額の計算を行うことの例外として、例えば・・・青色申告書を提出した事業年度 の欠損金の繰越し(57条)及び欠損金の繰戻しによる還付(80条)等の制度を設け、また、解散した法人については、残余財産がないと見込まれる場合における期限切れ欠損金相当額の損金算入(59条3項)等の制度を設けている。このような特別の規定が、破産者である法人についても適用されることを前提とし、具体的な要件と手続を詳細に定めていることからすれば、同法は、破産者である法人であっても、特別に定められた要件と手続の下においてのみ事業年度を超えた課税関係の調整を行うことを原則としているものと解される。

そして、同法及びその関係法令においては、法人が受領した制限超過利息等を益金の額に算入して法人税の申告をし、その後の事業年度に当該制限超過利息等についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続により確定した場合に前期損益修正と異なる取扱いを許容する特別の規定は見当たらず、また、企業会計上も、上記の場合に過年度の収益を減額させる計算をすることが公正妥当な会計慣行として確立していることはうかがわれないことからすると、法人税法が上記の場合について上記原則に対する例外を許容しているものと解することはできない。そうすると、当該制限超過利息等の受領の日が属する事業年度の益金の額を減額する計算をすることは、公正処理基準に従ったものということはできないと解するのが相当である。

 

・これを本件についてみると・・・その後の事業年度に本件債権1が破産手続において確定したこと により、本件各事業年度に遡って益金の額を減額する計算をすることは、本件債権1の一部につき現に配当がされたか否かにかかわらず、公正処理基準に従ったものということはできない。したがって、上記の減額計算を前提とする本件各更正の請求が国税通則法23条1項1号所定の要件を満たすものでないことは明らかである。

 

 

さて、今回の最高裁の判決は、企業会計原則の定め、法人税法の規定、従来からの税務上の考え方に沿ったものであり、判決文に記載されている根拠についても特に目新しさは感じませんでした。

最高裁が判決で根拠、結論をきっちりと明らかにしたことには意義があると思いますが、内容としては予想どおりのものだった、ということになります。

むしろ、大阪高裁の判決が、従来からの考え方に一石を投じたもの、特殊なものだったというべきでしょう。

 

以上、多くの会社の税務処理にも関わる可能性がある非常に重要な最高裁判例ですので、2回にわたって詳細にご紹介いたしました。

 

税務紛争でお困りの方はクーリエ法律事務所にご相談、ご依頼を!

制限超過利息を返還しても利息受領年度の益金の額を減額できないとした最高裁判決の紹介(1)

 本日は、破産した貸金業者が過去に受領した利息に関して、利息制限法所定の制限利率を超えて受領していた分(制限超過利息、いわゆる過払金)の不当利得返還請求権に係る破産債権が、その後の破産手続において確定したとしても、配当がされたか否かにかかわらず、利息受領時の事業年度に遡って益金の額を減額することは、公正処理基準に従ったものということはできず、更正の請求は要件を満たさないとして、国を逆転勝訴させた最高裁令和2年7月2日判決の紹介です。

 

前提として、貸金業者が利息制限法上は受領すべきではない制限超過利息を受け取っていたとしても法人の益金に算入(して法人税を納付)することは、最高裁判例上も、正しい税務処理とされています。

 

また、法人税は法人の各事業年度の所得(=益金−損金)に対して課されます。

法人税法22条は、内国法人の各事業年度における「所得」の金額の計算上、「益金」の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る「収益」の額とするものとし(2項)、「損金」の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、「費用」及び「損失」の額とするものとした上で(3項)、「収益」並びに「費用」及び「損失」の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「公正処理基準」という。)に従って計算されるものと定めています(4項)。

つまり、法人の所得は基本的には、一般に公正妥当な会計処理(更正処理基準)に従って算定されることになっているのです。

 

さて、本件において、貸金業者の破産管財人は、制限超過利息の不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続において確定したことで、当時の受領時の事業年度に遡って益金を減額したことを前提に更正の請求をしましたが、税務署はその確定の事由が生じた日の属する事業年度においてこれを損金の額に算入すべきであると主張しており、本訴ではどちらが正しいかが争点となっていたものです。

 

なお、過去の事業年度の収益等に関する変動事由が生じた場合に、これに基づいて生じた損益をその変動事由が生じた日の属する事業年度に計上する処理を「前期損益修正」といい、税務署は(遡って減額処理をするのではなく)この前期損益修正を行うべきであると主張していたことになります。

 

 

この件に関し、大阪高裁(原審)は、要旨次のとおり判断していました。

・前期損益修正は企業会計原則が定める会計基準であるが、企業会計原則は、企業の経済的活動が半永久的に営まれるとの仮定が成り立つことを前提とする考え方に基づくものであるが、破産会社は、破産手続による清算の目的の範囲内において、破産手続が終了するまで存続するにすぎないから、破産会社には、上記の考え方は妥当せず、会社法上の前期損益修正に係る規定(同法435条2項、会社計算規則88条3項、96条 7項等)の適用もないと解すべきである。

・法人の会計処理において一般に前期損益修正がされるのは、確定した財務諸表が配当制限その他の規制や課税所得計算等にも利用されており、そこでの利益計算を事後的に修正すると、利害調整の基盤が揺らいでしまうという考えによるものであるところ、破産会社において過年度に計上した収益の額を修正する必要がある場合には、事後的な修正をしても、株主 等の利害関係人や債権者との利害調整の基盤が揺らぐとは考えられない。

・制限超過利息等の受領が法律上の原因を欠き、これを返還すべききことが破産手続で確定した場合には、破産会社が遡って収益の額を減少させることにより法人税の減 額分につき還付を受けて過払金返還請求権を有する破産債権者に配当をすることに合理性が認められる。

・そうすると、制限超過利息等を受領した日の属する事業年度に遡 って益金の額を減額する計算をすることは、公正処理基準に従った計算方法に合致 するといえる。

 

この大阪高裁の考え方は、破産会社の特殊性をふまえて、従来の考えや処理とは異なる例外を認めたものだと思いますが、裁判官には、国から税金を還付させて、少しでも一般の債権者に配当(過払金の返還)を受けさせてあげたいとの気持ちが強くあったものと推察されます。

 

次回に続きます。

重加算税の賦課決定処分を取り消した国税不服審判所の平成30年5月31日裁決(2)

前回からの続きです。

重加算税の賦課決定処分を取り消した国税不服審判所の平成30年5月31日裁決についての記事となります。

裁決の内容はこちらをご確認ください。

http://www.kfs.go.jp/service/JP/111/02/index.html

 

 

個人的には、本件の裁決を見て、改めて以下のようなことを感じました。

 

税務署が納税者に対して重加算税を課すには、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」(国税通則法68条)に該当することが必要となります。

 

しかし、この事実の隠ぺい又は仮装という要件については(純粋な事実関係のみに基づいて直接的に認定されるような場合はともかく)、本件のように法令上の解釈や法律上の要件への当てはめが介在する場合には、事実の隠ぺい又は仮装があるとの認定が通常よりも困難となる、ということです。

 

本件では、税務署は「請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していた」ことまで立証しなければなりませんでしたが、本件の事実関係の下では、寄附金に該当するか否かは高度に法律的な判断といえますし、そもそも当事者の認識を立証するのは必ずしも簡単ではありません。

本件では、税務署はその立証に成功しなかったということになります。

 

逆にいえば、納税者としては、法解釈や抽象的(規範的)な要件への当てはめが問題となるような事案において、重加算税を税務署に課されたのであれば、すぐに諦めず、処分を争えないか、検討してみるとよいかもしれません。

 

重加算税の賦課決定処分について争うことができないか、ご相談のある方はクーリエ法律事務所へどうぞ!

重加算税の賦課決定処分を取り消した国税不服審判所の平成30年5月31日裁決(1)

本日は、重加算税の賦課決定処分を取り消した国税不服審判所の平成30年5月31日裁決のご紹介です。

http://www.kfs.go.jp/service/JP/111/02/index.html

 

事案の概要は、以下のようなものです。

・審査請求人は、兄弟会社の債務を引き受け、その兄弟会社に対する債権を放棄して、貸倒損失を計上して、損金に算入し、翌期へ欠損金を繰り越す旨の法人税の確定申告をし、次の事業年度には、その欠損金の額を所得金額から控除して確定申告をしました。

・その後、審査請求人は、原処分庁の指摘を受けて、その債権放棄額について、寄附金の額に該当するとして前と後の事業年度の修正申告をしました。

・ところが、原処分庁は、債権放棄額を貸倒損失勘定に計上したことについて、隠ぺい又は仮装に該当するとして、重加算税の賦課決定処分を行ったため、審査請求人は、事実の隠ぺい又は仮装はないとして、重加算税の賦課決定処分(のうち過少申告加算税相当額を超える部分)の取消しを求めました。

 

 

国税不服審判所は、概ね、以下のような判断をしました。

 

・本件各確定申告における所得金額が過少となった原因は、本件貸倒損失額が、本来寄附金の額に該当するにもかかわらず、請求人が、これを寄附金の額に該当しないとして平成24年2月期の当初申告をした点にあると認められる。

そうすると、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していたと認められない限り、本件各確定申告は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものであるとは認められない。

・この点について、原処分庁は、請求人が、本件債務免除益に係る課税を避けるために本件分割法人整理を検討したことをもって、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していた旨主張する。

しかしながら、本件通達規定(※後記参照)によれば、兄弟会社等(請求人と本件分割法人は、ここにいう兄弟会社の関係にあるものと認められる。)の債務引受け等であっても、相当な理由があると認められる場合には、その債務引受け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しない。

上記相当な理由については、①当該兄弟会社の経営成績が悪いなど、放置した場合には今後より大きな損失を被るか否か、②債務引受け等を行った支援者がこれを行うことに相当な理由があるか否かなどを総合的に検討して判断すべきと解されるから、当該支援者が、多額の収益に対する課税を回避するために当該債務引受け等を行ったことのみをもって、直ちに、当該債務引受け等により供与する経済的利益の額が、寄附金の額となるものではないというべきである。

したがって、請求人が、本件債務免除益に係る課税を避けるために本件分割法人整理を検討したことをもって、直ちに、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していたとはいい難い。

・これらの事情を総合すると、請求人は、本件債務引受け及び本件債権放棄を行うことには、本件通達規定の定める相当な理由があるなどとして、本件債権放棄の額について、寄附金の額に該当しないと認識していた可能性があるというべきである。

 以上

 

※法人税基本通達9-4-1《子会社等を整理する場合の損失負担等》は、本文において、法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を被ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする旨定め、注書において、当該子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる旨定めています。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

限定承認でみなし譲渡による所得税が発生する理由(2)

前回の続きです。

 

限定承認に伴うみなし譲渡は、基本的には、相続後に相続人が相続財産の譲渡をしたときに、被相続人の生存中に発生していた含み益についてまで、譲渡所得(所得税・住民税)が発生し、所得税を納付しなくてすむようにするためのものです。

つまり、相続人の将来の譲渡時における所得税・住民税の負担を軽減するための制度なのです。

 

以下の例で、単純な相続の場合と比べて説明をしていきます。

 

例:被相続人AがH1.1.1に土地を5000万円で取得、H31.1.1に死亡(時価7000万円に値上がり)、R1.6.1に相続人Bが7200万円で売却。

 

1)単純に相続をした場合

 

→相続時:通常の相続税のみ。BはAの土地の取得費・取得時期を引き継ぎます。

 

→売却時:相続人Bのもとで、7200万円 − 5000万円 =2200万円 の譲渡所得(取得費等は省略。以下同様)、これに対応する税金(長期譲渡所得:所得税15%+住民税5%〜概算440万円)が発生することに(復興特別所得税については省略。以下同様)。

 

〜被相続人Aのもとで取得時H1.1.1から死亡時H31.1.1までに発生していた2000万円分の値上がり益(譲渡所得)についてまでBに課税され、税負担が発生する結果になります。

 

 

2)限定承認をした場合

死亡時に被相続人から相続人に対する譲渡があったものとみなされます。

 

→相続時:被相続人Aのもとで、7000万円–  5000万円 =2000万円の譲渡所得(取得費等は省略)、これに対応する所得税(長期譲渡所得:所得税15%〜概算300万円 ※ 死亡したため翌年の住民税の負担は発生しません。)が発生し、相続人Bがこの所得税の支払債務を相続することになります。

 

もっとも、この所得税を含めた相続債務の合計額が相続資産の合計額よりも多い場合には、Bは限定承認をしているのですから、相続資産の範囲を超えて自らの固有財産で所得税の納付をする必要がありません。

 

また、Bには通常どおり相続税が発生しますが、上記の所得税も債務に含めて債務控除をした上で、相続税を計算することになります。

 

 

→売却時:相続人の売却時には、7200万円 –  7000万円(取得価額〜相続時の時価) =200万円の譲渡所得が発生(取得費等は省略)し、対応する税金(短期譲渡所得:所得税30%+住民税9%〜概算78万円)が発生し、納税をすることになります。

 

 

以上のとおり、限定承認をした結果、被相続人のもとで発生していた2000万円分の値上がり益(譲渡所得)については、相続人は相続時に自らの固有財産から所得税を納税する必要がありませんし、将来の売却時に課税されることもないのです。

 

また、単純に相続をした1)の場合と比べて、限定承認をした2)の場合に、相続人の合計の負担税額は減少することになりました。

ただし、もちろん、毎回このような計算結果になるわけではなく、しかも限定承認の場合には、親族間で譲渡したものとみなされるため、税額を軽減する特例(例:居住用財産の譲渡の場合の3000万円特別控除、軽減税率の特例等)が受けられず、限定承認をしたことによって単純に相続を選択した場合と比べて課税の負担が増えてしまう場合が生じてくるので、要注意です。

ですので、ある程度の相続財産があって、限定承認を選択しようとする場合は、事前に税理士さんに相談すべきでしょう。

 

限定承認や相続税・所得税の紛争のご相談は、クーリエ法律事務所へどうぞ!

限定承認でみなし譲渡による所得税が発生する理由(1)

今回は、限定承認をするに伴って発生する税金であるみなし譲渡(所得税)について記載をしていきます。

 

限定承認をした場合、相続税以外にも、みなし譲渡による所得税が発生することがあります。

被相続人にみなし譲渡(被相続人が相続人に対して譲渡したものとみなされる)による所得税が発生するのですが、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に相続人が準確定申告を行うことでその税額が確定し、相続人はそれを債務として相続する、ということになります。

 

その際、譲渡所得の金額の算定に当たっては、相続税評価額ではなく時価で譲渡収入を算定しなければならず、また被相続人(あるいはそれ以前)の取得価額が分からない場合は特に、譲渡所得、所得税の負担が高額となることがあります。

なお、譲渡所得の基本的な計算方法等についてはこちらでご確認ください。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm

 

そのため、相続税以外にも(譲渡)所得税が発生することを理由に、限定承認を避けようとする人も多くいらっしゃいます。

 

また、以下のような疑問を持つ人もいらっしゃるでしょう。

・限定承認をすると、なぜそんな余分な税金がかかるのだろうか?

・被相続人から相続人に対して「譲渡」したものとみなして所得税が課されるのであれば、なぜそれに加えて相続人が被相続人から「相続」したものとして相続税もかかるのだろうか(譲渡済みであって相続財産ではないのではないか)?

・相続人は「相続」したものとして相続税がかけられるのに、なぜ被相続人が相続人に対して「譲渡」をしたものとみなして所得税がかけられるのだろうか(相続したのであって譲渡を受けたものではないのではないか)?

 

このような疑問が出るのはごもっともですが、実は、限定承認に伴うみなし譲渡の規定は、相続人にとって単純に負担が増加するもの、というわけではありません。

むしろ、基本的には、相続人のための規定なのです。

 

次回に続きます。

限定承認あれこれ

最近、限定承認に関するご相談が立て続けにありました。

 

相続を放棄するか、承認するか、限定承認するかの判断については、時間制限もありますし、相続人が知らない、把握できない事情や将来の不確定要素まで考慮して判断する必要があることなどから、皆さん、悩まれることが多いのだと思います。

 

そこで、いくつか、限定承認に関する記事を書いておこうと思います。

今日はとりあえず、限定承認について思いついたことをあれこれ書きます。

 

・まず初めに、原則として本年(令和元年)7月1日から、相続に関する民法の改正が施行されておりますが、限定承認については特に改正事項はありません。

 

 

・さて、インターネット上では、限定承認は、相続資産の限度内でのみ債務を引き継ぐものというように記載されていることが多いのですが、むしろ、被相続人の債務を全て相続はするけれども、自分自身の固有資産(相続人がもともと持っている資産、その相続以外の原因で取得する資産)でその相続債務を支払う責任を負わない、という理解をして頂いた方が正確です。

 

 

・限定承認には、相続人が自分自身の固有資産から相続人の債務を支払う責任を負わない、相続放棄と比較して、(結果として相続した財産・負債の収支がプラスになり)相続によって財産を取得できる可能性がある、次の順位の法定相続人に迷惑をかけないですむなどのメリットがありますが、他方で、色々と注意点があります。

まずは、前に書いたこちらの記事をごらんください。

https://www.legalawyer.jp/genteishounin/

 

ここに書かれていること以外にも限定承認について注意すべき点があります。

次回以降、前の記事では記載していなかった限定承認をするに伴って発生する税金や費用について記載をしていきます。

課税処分の取消判決の拘束力と後続の相続税の更正の請求との関係について判断した東京地裁の裁判例(2)

前回の続きです。

 

東京地裁(平成30年1月24日判決)は、概ね以下のような判断をしました。

 

・相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由(申告等における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等)を主張することはできないものと解され、その結果、更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は、まずは申告における価額となる(その後に更正処分があった場合で、申告における価額のうち、当該更正処分によって変更された価額があるときには、その価額を基礎にすべきである。)。また、相続税法35条3項に基づく更正処分における課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額もまた同様に解するべき。

 

・本件のように、相続税の申告後に個々の財産の価額を変更する更正処分がされた上、当該更正処分の取消しの訴えが当該申告をした相続人によって提起され、個々の財産の評価方法ないし価額が争点となり、判決がこの点について認定・判断をし、課税価格及び納付すべき税額につき当該更正処分における金額と異なる金額を認定して、当該更正処分の一部を取り消すこととなった場合には、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求又は同法35条3項に基づく更正処分の際の計算において、従前の更正処分における個々の財産の価額のうち判決によって変更を受けたものをそのまま計算の基礎にすべきではないのはもちろんであるが、かといって、当該価額を申告における価額と置き換えることも、当該価額が従前の更正処分によって変更を受けている以上、判決がその変更前の価額を相当とする旨を判示しているのでない限り、相当ではなく、根拠を欠く。

 

・上記のような場合には、争点となった個々の財産の評価方法ないし価額に係る認定・判断並びにこれらを基礎として算定される課税価格及び相続税額に係る認定・判断に、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断として、行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生じているということができる上、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求又は同法35条3項に基づく更正処分に係る事件についても、同一の被相続人から相続により取得した財産に係る相続税の課税価格及び相続税額に関する事件であることに変わりがない以上、行政事件訴訟法33条1項にいう「その事件」として、上記の拘束力が及ぶものと解するのが相当であって、従前の更正処分について、争点となり、その評価方法ないし価額が判決によって変更されるに至った個々の財産については、課税庁において、同判決における評価方法ないし価額を基礎として課税価格を算定しなければならない。

 

 

以上のように、この東京地裁の判決によれば、(個々の財産の評価方法ないし価額を争点とする相続税の)課税処分の取消判決後に、同一事件について相続税法32条1号に基づく更正の請求等が税務署に対してされた際には、税務署に行政事件訴訟法33条1項の拘束力が及び、税務署は、取消判決による変更後の個々の財産の価額を基礎として課税価格を算定して、更正の請求に対する対応(減額更正処分又は拒否通知処分)を決めなければならないことになります。

 

 

今回の判決は、相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由(申告等における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等)を主張できず、更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は、まずは申告価額となる、という原則論は肯定した上で、相続税法32条1号に基づく更正の請求に行政事件訴訟法33条の拘束力が及び(行政庁が取消判決に拘束され)、その原則論が修正されることを明らかにしたものといえると思います。

 

行政事件訴訟法33条の取消判決の拘束力が税務において問題となった貴重な裁判例ですので、ご紹介いたしました。

 

更正の請求についてご相談のある方は、クーリエ法律事務所へどうぞ!

課税処分の取消判決の拘束力と後続の相続税の更正の請求との関係について判断した東京地裁の裁判例(1)

本日は、行政事件訴訟法33条に関する判決(東京地裁平成30年1月24日判決)をご紹介します。

この条文の内容は以下のとおりです。

 

行政事件訴訟法 第33条

処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。

 

取り消された処分と同一事情の基で同一の理由に基づいて同一内容の処分を行うことを防ぐための条文です。

取消判決において処分等が違法であるとの判断を導いた具体的な判決理由について、拘束力が発生することになります。

拘束力というのは、判決の判断内容を尊重し、判決の趣旨に従って行動するよう行政庁を義務づける効力のことです。

税務署等の課税処分にもこの条文の適用があり、課税処分が判決によって取り消されると、その取消処分をした税務署はその取消判決の具体的な判決理由に拘束されることになります。

 

 

さて、本件の裁判の事実関係は概ね、以下のとおりです。

 

・原告の母が死亡し、その相続(本件相続)について相続税の申告を行うに当たり、他の相続人との間で遺産が未分割であるとし、相続税法55条に基づき、相続税の申告(本件申告)をしたところ、税務署長から、遺産のうち株式(以下「本件各株式」という。)の一部の価額が過少であるとして更正処分を受けた。

・そこで、原告は、上記の更正処分の取消しを求めて国を相手に東京地方裁判所に訴えを提起したところ、裁判所は、上記の更正処分(前件更正処分)における本件各株式の一部の価額が過大であるのみならず、本件申告における本件各株式の一部の価額も過大であった旨を判示した上で、前件更正処分のうち本件申告の額を超える部分を取り消す旨の判決を言い渡した。東京高等裁判所もその判断を維持して被告(国)の控訴を棄却し、判決は確定した。

・その後、原告は、遺産分割が成立したとして、税務署長に対し相続税法32条1号(【参考条文】参照)に基づき、本件各株式の価額が前件判決で認定された額と同額であることを前提に更正の請求(本件更正請求)をした。これに対し、同税務署長は、本件各株式の価額は本件申告における額と同額とすべきであるとし、本件更正請求について更正をすべき理由がない旨の通知処分(本件通知処分)をするとともに、同法35条3項に基づき、相続税の増額更正処分(本件更正処分)をした。

・そこで、原告が、本件更正処分等における本件各株式の価額を不服として、本件更正処分等の一部の取消しを求める訴訟を提起した。

 

次回に続きます。

 

 

【参考条文】

相続税法32条(更正の請求の特則)

第三十二条 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額(当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出又は更正があつた場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額)が過大となつたときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求(国税通則法第二十三条第一項(更正の請求)の規定による更正の請求をいう。第三十三条の二において同じ。)をすることができる。

一 第五十五条の規定により分割されていない財産について民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと。

インターネット公売、官公庁オークションで、意外な物が安く買えるかもしれませんよ

皆さん、インターネット公売や官公庁オークションを、利用されたことがありますか?

官公庁から、土地、建物といった不動産から、車、バイク、絵画、宝石類、時計、バッグ類その他ホビーの品々まで色々な物がオークションに出品されていますよ。

 

 

たとえば、国税庁のインターネット公売は、国税徴収法に基づき、滞納国税を徴収するために、税務署長等が滞納処分により差し押さえた財産を「競り売り」の方法によって売却する制度です。

 

国税庁の公売情報は以下のHPに掲載されています。

https://www.koubai.nta.go.jp/auctionx/public/hp001.php

 

利用方法については以下のページに掲載されています。

(小難しい言葉が並んでいますが・・・。)

https://www.koubai.nta.go.jp/auctionx/public/doc/guidelineguide.html

https://www.koubai.nta.go.jp/auctionx/public/doc/koubaisanka.html

 

なお、国税庁のインターネット公売に参加することができない者(代理人による参加もできません。)として、以下のような者があげられていますので、ご注意ください。

・税金滞納者(ただし、自分の滞納によって公売される公売財産以外の公売財産については制限されません。)

・未成年者(結婚して成人とみなされる人を除きます。)、成年被後見人、被補佐人、被補助人などの制限行為能力者(ただし、その親権者などが代理人として参加する場合を除きます。)

 

 

国税庁以外でも、地方自治体が地方税の滞納者の差押財産の公売、官公庁所有の公有財産の売却をするために、それぞれの個別のホームページあるいは「Yahoo!官公庁オークション」を通じて、「競り売り」や「入札」によるインターネットオークションを実施しています。

 

とりあえずYahoo!官公庁オークションで物件や開始価格などを確認してみるとよいでしょう(国税庁の公売物件も掲載されています)。

 

Yahoo!官公庁オークション

https://koubai.auctions.yahoo.co.jp

 

利用方法等はヘルプなどをご確認されるとよいでしょう。

https://koubai.auctions.yahoo.co.jp/help/index.html

https://koubai.auctions.yahoo.co.jp/help/help01.html

 

 

このように、今はインターネットを通じて全国の公売、オークション情報を入手できるようになり、官公庁からしても幅広く売却できるようになっているので、そういう点では便利になっていると思います。

 

こういった公売等の物件については、手続きがやや面倒ですし、競売物件と同じく購入に不安がないわけではないので、尻込みするのも無理ありません。

 

もっとも、時価よりもかなり安く買えることもあるでしょうし、意外な掘り出し物があるかもしれませんので、興味と自信のある方は一度検討してみられてはいかがでしょうか!

税金の法定納期限の経過後も、原因となった法律行為の錯誤無効を主張できる(3) 課税負担の錯誤と更正の請求

前回、課税の原因となった行為が無効であったとしても、その経済的成果が失われていなければ、課税処分を違法として取り消すことはできないこと、当該行為の無効に基因してその経済的成果が失われたか否かは処分時を基準に判断することについてご説明しました。

 

そのため、もし処分時以降に、無効であることを理由に経済的成果が失われたとしても、その課税処分は違法なものではないということになり、裁判で課税処分を取り消してもらうことができません。

 

本件でも、結局「納税告知処分が行われた時までに、本件債務免除により生じた経済的成果がその無効であることに基因して失われた旨の主張をして」いないとして、納税者は今回の最高裁判決によっては救済されなかったわけですが、それでは、課税処分後に経済的効果を消失させることで救済が得られる余地がないのかについて、もう少し場面を広げて考えてみたいと思います。

 

今回の裁判の事案は、給与所得の源泉所得税に関するものであり、前提として納税者の申告行為が考えられない事案でしたが(そのため更正の請求制度は使えません。国に対する不当利得返還請求などは別途考えられるかもしれませんが。)、もし納税者の申告によって税額が確定する申告納税制度を採用する税金(所得税、法人税、相続税、贈与性など主要な税金が該当します。)であった場合には、申告後に払いすぎた税金を取り戻すため国税通則法(以下「通則法」)23条に基づく更正の請求という制度が利用できるのではないかが問題となります。

 

申告書に記載した課税標準等若しくは税額等(更正処分等があつた場合には、当該処分後の課税標準等又は税額))の計算が税法の規定に従ってされていなかつたり、その計算に誤りがあったため、納付税額が過大となってしまっているときには、税務署に対して更正の請求を行い、税務署が納付税額が過大であると認めた場合には、減額更正をして税金を還付してくれることになります。

 

1.現在は、国税通則法23条1項に基づいて更正の請求ができる期間は、原則として法定申告期限から5年以内となっております(ただし、平成23年12月2日より前に法定申告期限が到来した所得税については、1年以内です。)。

 

したがって、課税負担の錯誤があって、その経済的成果を消失させた場合には、申告や更正処分における課税標準等・税額等の計算が税法の規定に従っておらず、またはその計算に誤りがあると認められ、納付税額が過大となってしまっていると考えられるので、原則として法定申告期限から5年(または1年)以内であれば、通則法23条1項に基づいて更正の請求ができることになるはずだと考えられます。

 

もっとも、課税負担の錯誤については、これを理由に更正の請求を認めると、租税法律関係を不安定にする、納税者間の公平を害する、申告納税制度の趣旨に反するなどの理由で、これを認めず、あるいはこれを制限する考えや裁判例があります。

例えば、東京地裁平成21年2月27日判決は以下のように述べて、課税負担の錯誤については更正の請求ができる場合を限定しています。

「原則として,課税負担又はその前提事項の錯誤を理由として当該遺産分割が無効であることを主張することはできず、例外的にその主張が許されるのは,分割内容自体の錯誤との権衡等にも照らし,①申告者が、更正請求期間内に、かつ、課税庁の調査時の指摘、修正申告の勧奨、更正処分等を受ける前に,自ら誤信に気付いて、更正の請求をし、②更正請求期間内に,新たな遺産分割の合意による分割内容の変更をして、当初の遺産分割の経済的成果を完全に消失させており、かつ、 ③その分割内容の変更がやむを得ない事情により誤信の内容を是正する一回的なものであると認められる場合のように、更正請求期間内にされた更正の請求においてその主張を認めても上記の弊害が生ずるおそれがなく、申告納税制度の趣旨・構造及び租税法上の信義則に反するとはいえないと認めるべき特段の事情がある場合に限られるものと解するのが相当である」

 

 

2.また、23条1項の更正請求期間(現在5年)を経過した後であっても、課税負担の錯誤による経済的成果の消失について、①通則法23条2項1号〔判決等の場合〕、または②23条2項3号・通則法施行令6条1項2号〔解除・取消しの場合〕に該当する場合には、更正の請求をすることができることになります。

これらの条文の内容は、後記の【参考条文】をごらんください。

 

しかし、①通則法23条2項1号〔判決等の場合〕による更正の請求については、課税負担の錯誤による無効を認める判決があっても、申告当時と異なる事実関係が生じるわけではないなどの理由で、同号による更正の請求が認められるかは争いがあります。

なお、当事者が専ら納税を免れる目的で、真剣に争わずになれあいによって得た判決、当事者間であえて事実とは異なる事実を確定させた判決などのいわゆる「なれあい判決」は、同号の「判決」に含まれないものとされていますので、この点も注意が必要でしょう。

 

また、②通則法施行令6条1項2号〔解除・取消しの場合〕による更正の請求については、同号に取消、解除は定められているものの、無効が含まれていないなどの理由により、そもそも同号(・通則法23条2項3号)に基づく更正の請求ができるかは争いがあるところです(裁判例も結論が別れています。)。

 

 

以上によると、これまでの裁判例や学説の状況をみるかぎりは、課税負担の錯誤があって、その経済的成果を消失させたとしても、通則法23条1項又は2項に基づく更正の請求による救済が確実に認められる保証はない状況にあるのではないでしょうか。

今後の議論の進展、判例の積み重ねが待たれるところです。

 

 

課税処分の錯誤無効や更正の請求のことでご相談がある方は、クーリエ法律事務所にどうぞ!

 

 

 

【参考条文】

通則法23条2項(抜粋)

2 納税申告書を提出した者又は第二十五条(決定)の規定による決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する場合(納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。)には、同項の規定にかかわらず、当該各号に定める期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求をすることができる。

一 その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき  その確定した日の翌日から起算して二月以内

二 〔略〕

三 その他当該国税の法定申告期限後に生じた前二号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき  当該理由が生じた日の翌日から起算して二月以内

 

通則法施行令 

第六条 法第二十三条第二項第三号(更正の請求)に規定する政令で定めるやむを得ない理由は、次に掲げる理由とする。

一 〔略〕 

二 その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたこと。

三 以下〔略〕

固定資産税の路線価知っていますか?全国地価マップは使用していますか?

路線価とは、路線ごとに設定されている1㎡当たりの評価額のことで、その路線に面する宅地の評価などに用いられます。

 

一般的には、路線価といえば、国税局長が決めて国税庁が発表する路線価のことを指し、相続税等に関する財産の評価額の算定に用いられます。

この相続税路線価は土地取引の指標となる公示地価(地価公示価格)の8割程度の価格となっております。

以下の国税庁のHP「路線価図・評価倍率表」で実際の土地の路線価を確認することができます。

相続税路線価は毎年7月に発表されます。

 

もっとも、固定資産税にも路線価が存在することはご存じでしょうか。

固定資産税路線価は、公示地価の7割を目途とする価格であり、市町村長(又は都知事)によって定められており、固定資産税評価額等の計算に(間接的に相続税の計算にも)用いられております。

固定資産税路線価は毎年4月以降に発表されています。

 

さて、この固定資産税路線価については、以下の「全国地価マップ」のHPで確認することができます。

この全国地価マップでは、固定資産税路線価だけでなく、相続税路線価や、地価公示価格(地価調査価格)も一気に調べることができるので、便利ですよ!

 

いずれも、その年の1月1日を基準として評価額が決定されることになっていますが、相続税路線価は毎年見直しがされる建前となっているのに対し、固定資産税路線価の見直しは基本的に3年ごととなっています(直近では平成30年度が評価替えの年でした。)。

 

 

一般に、土地については、実勢価格以外に、公示価格(基準地価)、路線価、固定資産税評価額などの価格があることは知られていますが、厳密には、路線価にも相続税路線価と固定資産税路線価があり、その役割等も異なっていることについて、ご理解頂けたでしょうか?

 

相続税評価額のことで税務署と紛争になっている方は、クーリエ法律事務所へどうぞ!

税金の法定納期限の経過後も、原因となった法律行為の錯誤無効を主張できる(2)

前回からの続きです。

 

最高裁(第三小法廷平成30年9月25日判決)は広島高裁の判断を覆して、以下のように判断し、法定納期限を経過した後も、原因となった行為の錯誤無効を主張して処分の適否を争うことができるものと判断しました。

 

「給与所得に係る源泉所得税の納付義務を成立させる支払の原因となる行為が無効であり、その行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたときは、税務署長は、その後に当該支払の存在を前提として納税の告知をすることはできないものと解される。」

「そして、当該行為が誤により無効であることについて、一定の期間内に限り錯誤無効の主張をすることができる旨を定める法令の規定はなく、また、法定納期限の経過により源泉所得税の納付義務が確定するものでない。したがって、給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について、法定納期限が経過したという一事をもって、当該行為の錯誤無効を主張してその適否を争うことがされないとする理由はないというべきである。」

 

今回の最高裁判決の判断については、民法上の理論とも整合しており(民法上は基本的に無効主張に時期の制限はありません。)、また納税者間の公平とか、租税法律関係の安定性とか、国民の正義感といった抽象的な理由で、無効主張に時期の制限を設けるのは、法的には根拠が乏しいと考えられるため、個人的にはすっきりしました。

 

 

もっとも、本件において、最高裁が以下のように判断していることには、注意が必要です。

「しかしながら、上告人は、本件債務免除が錯誤により無効である旨の主張をするものの、前記2(5)の納税告知処分が行われた時までに、本件債務免除により生じた経済的成果がその無効であることに基因して失われた旨の主張をしておらず、したがって、上告人の主張をもってしては、本件各部分が違法であるということはできない。」

 

当該行為が無効であったとしても、当該行為に基づく経済的成果に対して課税がされていた以上、その経済的成果が失われていなければ、課税処分を違法として取り消すことはできないということです。

民法等に基づく有効か無効か、適法か違法かの判断にかかわらず、現実の所得、経済的成果に着目して課税されるという考え方は税法上は一般的なものであり、過去の裁判例(最高裁昭和35年10月7日判決、最高裁昭和38年10月29日判決、大阪高裁昭和45年1月26日等)を見ても基本的に同趣旨の判断をしているといえます。

 

なお、いつまでに経済的成果が失われていればよい(課税されない)のかという問題があり、課税年度の最終時点、申告期限・納期限、税務署の調査開始時、処分時(、更正の請求時)等色々考えられるところですが、今回の最高裁は「納税告知処分が行われた時までに・・・失われた旨の主張」としているので、処分時を基準として判断しています。

この点も参考になるところです。

 

さらに次回に続きます。

税金の法定納期限の経過後も、原因となった法律行為の錯誤無効を主張できる(1)

本日は、税金の法定納期限の経過後も、原因となった行為の錯誤無効の主張をして課税処分を争うことができることを明確にした最高裁第三小法廷平成30年9月25日判決を紹介します。

 

 

この裁判は、ある社団Xが元理事長Aに対し、AのXに対する借入金債務の免除をしたところ、税務署長から、債務免除に係る経済的な利益がAに対する賞与に該当するとして、給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分等を受けたため、これらの処分の取消しを求めて争ったものです。

XとAは、本件の債務免除益について通達の適用により課税の対象とならないと考え、本件債務免除をしたので、本件債務免除益が納税告知処分の対象になるのであれば、XとAが確認した前提条件に錯誤があり、これは要素の錯誤であるから、本件債務免除は無効であるなどとして処分の取消を求めていました。

 

 

1.まず前提として、

・納税者側のこのような争い方が許されるのか?

・後で思わぬ課税を負うことになったので錯誤無効だと主張することができるのか?

・課税負担の錯誤について無効主張を許せば後付けで課税逃れをすることができるのではないか?

という点が気になる方もおられると思います。

 

議論のあるところですが、最高裁は、平成元年9月14日判決において、課税負担の錯誤に関する動機が意思表示の内容をなしていれば、それに基づく錯誤無効の主張をすることができることを前提に判断をしており(ただし、離婚に伴う財産分与の事案です。)、また課税処分の取消請求訴訟である今回の裁判においても最高裁は、課税負担の錯誤について原因となった行為の無効を主張して課税処分を争うことが許されることを前提とした判断をしております。

 

 

2.では次に、納税者はいつまで錯誤無効の主張ができるのでしょうか?

時期の制限があるのでしょうか?

 

この点について、広島高裁は、以下のように判断し、錯誤無効の主張には時期の制限があるとの結論を出しました。

「申告納税方式の下では、同方式における納税義務の成立後に、安易に納税義務の発生の原因となる法律行為の錯誤無効を認めて納税義務を免れさせることは、納税者間の公平を害し、租税法律関係を不安定にすることからすれば、法定申告期限を経過した後に当該法律行為の錯誤無効を主張することは許されないと解される。」

「源泉徴収制度の下においても、源泉徴収義務者が自主的に法定納期限までに源泉所得税を納付する点では申告納税方式と異なるところはなく、かえって、源泉徴収制度は他の租税債権債務関係よりも早期の安定が予定された制度であるといえることからすれば、法定納期限の経過後に源泉所得税の納付義務の発生原因たる法律行為につき錯誤無効の主張をすることは許されないと解すべきである。」

 

このように、広島高裁は、法定納期限の経過後に、原因となった法律行為について錯誤無効の主張をすることができないとしたわけですが、このような判断をした裁判例はそれ以前からありました(高松高裁平成18年2月23日)。

これらの裁判例の問題は、結論を導く法的根拠が果たしてあるのか、納税者間の公平とか、租税法律関係の安定性とか、国民の正義感など抽象的な理由で果たしてそのような結論を導いてよいのか?法律上の根拠があるといえるのか?税務上、税務の実務上の理由からそのような解釈を導いているだけではないのか?という点だと思われます。

 

最高裁は今回初めて、この点について広島高裁の判断を覆す判断を示したものであり、そういう意味で今回の最高裁判決は重要な判例だといえます。

 

次回に続きます。

スマート申告ってなに?

スマート申告、ご存じでしょうか?

 

国税庁がスマホから確定申告がしやすいように、これまでの確定申告書等作成コーナーを作りかえたものです。

スマホ専用のアプリがあるわけではありません。

 

来年1月から使えるようになるようですが、詳細はこちらをごらんください。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/smart_shinkoku/index.htm

 

 国税庁としては確定申告を促進するために色々な手を打ってきていますね。

スマホでは不安だし見づらい、確定申告はじっくりと落ち着いて、パソコンで大きな画面で確認しながらしたい、そもそも確定申告は書面でしたいという方も依然として多いでしょうが、最近は家にスマホやタブレットはあってもパソコンがないという家庭も多く、今回のスマート申告が始まると便利、助かるという人も結構いらっしゃるのかもしれませんね。

 

いずれにしましても、皆様、確定申告をお忘れなく!

無償の相続分譲渡が「贈与」に当たるとした最高裁判決で、税務に影響が出るのか?

前回は、共同相続人間でされた無償の相続分譲渡が遺留分算定の基礎財産に算入すべき「贈与」に当たるとした平成30年10月19日付の最高裁判決をご紹介しましたが、今回はこの判決の税務面への影響について少し気になる点を記載します。

 

というのは、共同相続人間でされた無償の相続分譲渡について、税務上は従来、相続分の贈与であるとは認識されてこなかった点に影響が出るのかどうかです。

 

つまり、共同相続人間でされた無償の相続分譲渡があっても、譲渡をした相続人は単に持分的な権利を失い、何らの財産も取得していない以上は相続税を負担せず、他方で、譲渡を受けた相続人が元々の相続分と譲り受けた相続分に応じて取得した財産について相続税を負担するものとされていました。

 

共同相続人らの遺産分割の結果として、相続分を持ちながらも何も財産を取得しなかった相続人は相続税を支払う必要がないのですが、この場合と実質的に変わりがないことなどがその根拠となっています。

相続人らは、それぞれが有する最終的な相続分に応じて被相続人から直接財産を取得したものとして取得財産に応じた相続税のみを負担すればよかったわけです。

 

 

さて、もし仮にですが、共同相続人間でされた無償の相続分譲渡をあくまで「贈与」だと考えるのであれば、譲渡をした相続人は相続分に応じた相続税を負担したうえで、譲渡を受けた相続人は、自分の元々の相続分に基づいて取得した財産については相続税を、譲り受けた相続分に基づいて取得した財産については贈与税を負担するという複雑で、しかも全体的に税負担が重くなる事態が生じてしまうのではないかというおそれが出てくることになります。

 

相続人が第三者に相続分を無償譲渡した場合には、相続人が相続税を、第三者が贈与税を負担すべきものと考えられていますが、共同相続人間での無償譲渡であっても同じような処理をすべきということになるおそれがあるわけです。

このようなことになるのであれば、おいそれと共同相続人間で相続分を無償譲渡するわけにはいかなくなります。

 

このような危惧が生じてくるのは、今回の最高裁判決の判断の理由づけが一見すると、かなり広範囲に妥当しそうな一般的なものとなっているためです。

つまり、最高裁は、相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができるとし、共同相続人間でされた無償の相続分の譲渡は、その相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たると判断しており、このような理由づけからすると、共同相続人間での無償の相続分譲渡については税務上も「贈与」に当たるとして、先ほど述べたような税務上の処理をすべきという考えが出てきても必ずしも不自然とはいえないように思われるためです。

 

もちろん、今回の最高裁判決は、遺留分減殺請求に関して判断したものであって、税務面については何らの判断をしたものではありませんし、遺留分減殺請求権は相続人間の最低限の公平を図るための権利であり、相続人間での無償の相続分譲渡も贈与と認識して遺留分減殺請求の対象とすべきであるため、従来の税務上での取扱いとは異なる考え方が採用されたものであると理解することは、全くおかしくないと思います。

個人的には、今回の最高裁判決が従来の税務上の取扱いに影響を与えるものではないと考えておりますし、今回の件が単なる杞憂にすぎないことを願っています。

 

遺産分割や遺留分減殺請求のことでご相談のある方は、クーリエ法律事務所へどうぞ!

財産債務調書に「価額」を間違って記載したらどうなるのか?

前回に続いて、財産債務調書制度の記事です。

 

1.財産債務調書に記載する価額はどのような金額を記載すれば良いのでしょうか?

2.価額が間違っていたらどうなるのでしょうか?価額を低く記載していたり、高く記載していたら問題になるでしょうか?

今回は、これらの点に関する記事です。

 

まず1.の点ですが、法律上、「価額」は、年末における「時価」、又は取得価額や売買実例価額などを基に財産の現況に応じて合理的な方法によって算定した「見積価額」、を記載することになっています。

詳しくは、国税庁の法令解釈通達や「財産債務調書の提出制度(FAQ)」のⅢ(Q19〜)、Ⅳ(Q40〜)が参考になります。

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hotei/130329/01.htm

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_faq_r5.pdf

 

もちろん、ここで定められているようにきちんと価額が記載できていたら良いのですが、そうでない場合にはどうなるのでしょうか。

2.の質問に対する基本的な回答としては、価額の記載誤りそれ自体では具体的にペナルティがあるわけではない、ということになるのではないかと思います。

 

前に、提出期限内に提出がない場合、または提出期限内に提出された財産債務調書に記載すべき財産若しくは債務の記載がない場合(重要な事項の記載が不十分と認められる場合を含みます。)に、その財産債務に関する所得税等の申告漏れが生じたときは、その部分の過少申告加算税等について5%加重されることになっていることをご説明しました。

しかし、これをよく読むと、財産債務調書を提出し、そこに記載すべき財産債務及びその重要事項について記載さえしていれば、過少申告加算税等について5%加重されることがないことが分かります。

つまり、価額が多少誤っていたとしても、財産債務の重要事項についての記載がないことにはならないのだとすれば(※もしこの前提が変われば結論も変わります。)、過少申告加算税等について5%加重されることがないということになるでしょう。

 

もっとも、他方で、たとえば額面1億円の債権や債務の価額を1000万円と評価して記載した財産債務調書を提出したような場合であれば、税務署側としては(時価等が1億円であるとの前提で)そもそも残り9000万円については記載がないという解釈のもとで、過少申告加算税等について5%加重を適用してくる余地が事案によってはあるかもしれませんのでご注意ください(可分な財産債務の場合に起こりえる問題点です。)。

 

※そもそも、財産債務調書に記載すらない場合、重要事項が記載されていない場合であっても、その財産債務に関する所得税等の申告をきちんとしていれば、過少申告加算税等が課されないため、5%加重されることもありません。

 

以上のとおりですので、価額を1円でも誤ったらペナルティを受けるのではないか・・・というような不安は抱く必要がないだろうと思います。

お分かり頂けたでしょうか?

 

 

なお、これまで説明した財産債務調書制度によく似たものに、「国外財産調書制度」というものがあります。

こちらの概要は、以下の国税庁のHPを確認しておいてください。

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/kokugai_zaisan/index.htm

 

 

以上4回にわたり、財産債務調書制度についてご説明しました。

財産管理のことでご相談がありましたら、クーリエ法律事務所にどうぞ!

財産債務調書を提出すると納税者にもメリットがあります

続いて、財産債務調書制度の記事です。

 

提出期限内に財産債務調書の提出をすると納税者にもメリットがあります。

期限内に調書の提出をしなかった場合とは逆に、過少申告加算税等の軽減措置を受けることができるのです。

 

財産債務調書に記載がある財産債務に関して生じる所得について、所得税等又は相続税の申告漏れが生じたときであっても、その部分の過少申告加算税等について5%軽減されます。

財産債務調書の提出、記載によって、税務署などの調査を容易にすることや、納税者に恩恵を与えて財産債務調書制度を定着させたいという国の考えによって導入されたものではないかと思われます。

 

財産債務に関して生じる所得の意味、内容は、前回の記事をごらんください。

 

こちらの軽減措置は、相続税や亡くなった人の所得税(準確定申告)についても適用されます。

 

しかも、法律上、提出期限後に財産債務調書を提出した場合であっても、その財産債務に関する所得税等又は相続税について、調査があったことによって更正又は決定の処分がされることを予知して提出されたものでないときは、その調書は提出期限内に提出されたものとみなして、過少申告加算税等の軽減措置の特例を適用することとされています。

このような(例外的な)取扱いを見ると、国がいかに財産債務調書制度を定着させたいと考えているのかがよく分かります。

 

このようなメリットもありますので、財産債務調書の提出を忘れていた方、期限後であっても、今からでも提出を検討されてはいかがでしょうか?

 

財産債務調書制度の記事は、さらに次回に続きます。

財産債務調書を提出しなかったら、どうなるのか?

前回に引き続いて財産債務調書制度の話です。

 

さて、財産債務調書を提出しなかったら、どうなるのか?というところが、納税者にとってはまず気になるところでしょう。

 

今のところ、提出漏れについて刑事罰を受けるようなことはありません。

 

しかし、提出期限内に提出がない場合、または提出期限内に提出された財産債務調書に記載すべき財産若しくは債務の記載がない場合(重要な事項の記載が不十分と認められる場合を含みます。)に、その「財産債務に関する所得税等」の申告漏れが生じたときは、その部分の過少申告加算税等について5%加重されることになっています。

 

※これによれば、提出期限内に財産債務調書の提出がない場合などであっても、その財産債務に関する所得税等の申告をきちんとしたときは、過少申告加算税等が課されないので、5%加重もないということになります。過去に財産債務調書の提出漏れ、記載漏れがあったとしても、その財産を隠すのではなく、財産債務調書を期限後提出するか、期限後提出をしなかったとしても所得税等の申告はきちんと行いましょう。

 

なお、ここでいう所得税等の「等」には、相続税や亡くなった人の所得税(準確定申告)は含まれません。亡くなった人が財産債務調書の提出、記載を怠っていたとしても、それを理由に相続人の過少申告加算税等の加重をするのは酷だからでしょう。

 

さて、上記の「財産債務に関する所得税等」とは具体的に何を指すのかというと、以下の所得に関する所得税等です。

 

・財産から生じる利子所得又は配当所得

・財産の貸付け又は譲渡による所得

・財産が株式を無償又は有利な価額で取得することができる権利等(いわゆるストックオプション等)である場合におけるその権利の行使による株式の取得に係る所得

・財産が生命保険契約等に関する権利である場合におけるその生命保険契約等に基づき支払を受ける一時金又は年金に係る所得

・財産が特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権その他これらに類するもの(以下「特許権等」といいます。)である場合におけるその特許権等の使用料に係る所得

・債務の免除による所得

・上記1から6までの所得のほか、財産債務に基因して生ずるこれらに類する所得

 

したがって、「財産債務に係る所得税等の申告漏れ」とは、財産債務に直接基因して生ずる上記の所得に関して、所得税等の申告がなかったこと又は申告額が過少であったことをいいます。

 

なお、債務に関する所得税の申告漏れとはどういうことか分かりづらいかもしれませんが、債務者が債権者から債務免除を受けたために、債務者に一時所得が発生しているのに、その全部又は一部について申告をしなかったような場合です。

 

大体お分かり頂けたでしょうか。

財産債務調書制度の記事は、さらに次回に続きます。

財産債務調書、提出を忘れておられませんか?

所得税・相続税の申告の適正性を確保するため、一定の基準を満たす方に対し、保有する財産及び債務に関する調書の提出を求める制度が平成28年1月から施行されています。

いわゆる富裕層の方が調書の提出を要することになりますが、提出を忘れておられる方、国から提出を求める連絡をもらって焦っている方はおられませんか?

 

国税庁のHPは以下のリンクからどうぞ。

 

「財産債務調書制度」のあらまし

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_chirashi.pdf

 

財産債務調書の提出制度(FAQ)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_faq_r5.pdf

 

 

さて、どんな場合に調書の提出が必要となるのでしょうか?

 

調書の提出が必要となるのは、以下の3つの条件を満たす人です。

1.所得税等の確定申告書を提出しなければならない人

2.その年分の退職所得を除く所得金額の合計額が2000万円を超えた人

3.その年の12月31日において、価額の合計額が3億円以上の財産又は価額の合計額が1億円以上の「国外転出特例対象財産」(有価証券等、未決済の信用取引等及び未決済のデリバティブ)を有する人

 

提出時期は、翌年の3月15日まで(翌年3月15日が日曜日に当たるときはその翌日、土曜日に当たるときはその翌々日)となります。期限は所得税の確定申告と同じですね。

提出先は、所得税の納税地の所轄税務署長です。

 

財産債務調書制度の記事は、次回に続きます。

税金の申告はいつまでできるのかが争われた事件の判決(3)

前々回、前回からの続きの記事です。

今回も千葉地裁平成30年1月16日判決についての考察です。

 

・少し気持ちが悪いのは、今回のような裁判所の判断では、原告が平成20年分所得税について、仮に部分的にでも不正の行為に及んで税額を少しでも免れていた場合には、徴収権の時効期間が7年となるために徴収権が時効消滅しておらず、損失の期限後申告をすることができたはずとのアンバランスな結論が導かれてしまうところですが、法定納期限から6年または7年経過の所得税について納税者に損失ではなく納付税額が発生していたケース(当然このようなケースでは不正の行為がないこと、つまり法定納期限から5年で徴収権が時効消滅することは、納税者に有利に働きます。)を考えれば、そのような結論もやむを得ないところでしょう。

 

・そもそもの点でいえば、今回の判決では、「本件調査当時における平成20年分所得税の期限後申告の可否」自体が争点として扱われているのですが、仮に期限後申告ができたはずであるとの結論になった場合、税務調査の際に税務署員が納税者に誤った回答をしていたことにはなるのですが、それが一体どういう根拠で税務署の平成21年分の所得税の決定処分の取消理由になり得るのか(信義則でしょうか?)、その点がどのように主張、整理されたのかが明確ではない点が、元審判官として個人的に気になりました。

 

以上のように、色々と気になる点がある裁判例でしたので、3回にわたって記事を書かせて頂きました。

 

国税通則法のことで相談がある方は、どうぞ当事務所の法律相談にお申し込みください!

税金の申告はいつまでできるのかが争われた事件の判決(2)

前回の記事で紹介した千葉地裁平成30年1月16日判決の内容について、何点か考察を書いてみました。

 

・まず、今回問題となった期限後申告は、租税の具体的な税額の確定に関する納税者の自発的な行為であり、確定した租税の「徴収」や国家権力としての徴収「権」(国が税金を収納、回収する権限)の場面ではないのですが、今回の判決は「徴収権」の絶対的時効から結論を導いている点に注目しました。

 

この点については、賦課(権)と徴収(権)は別々の概念であるものの、国税通則法は、5年ないし7年を経過すると、抽象的な国税・納税義務・租税債権そのものが消滅することを(暗黙の)前提として、法72条で「徴収権」の時効が定めているとの理解が今回の判決にはあったのではないかと思われます。

そうだとすると、国税通則法72条などの背景、制度設計に関する部分の考え方で直接の解決を図ったものと考えられますが、条文上の根拠としてはやや弱いところがあるといわざるを得ないでしょう。

 

また、徴収(権)と賦課(権)は相互に密接に関連しており、一般的には賦課なくして徴収なしといわれているところですが、それにとどまらず、国に収納されない(徴収できない)国税では意味がないため、徴収がないところに国税の存在、賦課、税額確定はあり得ないとの解釈まで一般的に成り立つのか?は気になるところです。

そこまでいえるのであれば、今回の判決の結論は正当ということになるでしょう。

 

この点、一般的な国税通則法の書籍を見ると、法定納期限から5年ないし7年を経過すると、徴収権が絶対的に消滅し、納税申告書の提出は何らの利益を持たないため、納税者は納税申告をすることができず、税務官庁もこれを受理すべきではないとの解説がされていました。

今回の判決もこういった一般的な考え方に沿うものということになるかもしれません(ただし、損失が生じた今回の原告の平成20年分所得税の申告であっても、徴収権が消滅した後には、納税申告書の提出は何らの利益を持たないといえるのか?といった理論上の疑問は残るように思われます。)。

 

なお、論理的には、徴収「権」の時効により、国が納税者に対して強制的に徴収を図ることができなくなるということと、納税者が自発的に申告、納付できるか否かは、別問題ととらえる余地があるでしょう。

もっとも、今回の判決のように、(徴収権の時効により)抽象的な国税、納税義務、租税債権自体が消滅してしまうと考えれば、自発的な申告、納付もできないとの結論が導かれてもやむを得ないでしょう。

 

・原告が指摘していたように、今回の平成20年分のように損失のみが生じる場合には、税金を納付する義務やその徴収権は発生せず、徴収権の時効や納税義務の消滅を理由に申告の期限を制限することは論理的ではないかのようにも思えます。

しかし、裁判所は、平成20年分所得税についても、もともと抽象的な納税義務、租税債権自体というものはあったが、平成20年については結果として具体的な税金の納税義務が発生しなかったにすぎないとして、抽象的な納税義務、租税債権自体が消滅した後は期限後申告をすることができないとの判断をしているのだと思われます。

このような判断のもとでは、原告主張が独自の見解として排斥されてしまうのもやむを得ないということになるでしょう。

 

次回も引き続いて考察です。

国の税金をクレジットカードで払えるのをご存じですか?

2017年1月から、所得税、法人税、贈与税、相続税、消費税などの多くの国税(国に納める税金)について、クレジットカード払いができるようになっています。

ご存じでしたか?

知らなかったという方も多いかもしれませんね。

 

以前から地方税についてはクレジットカード払いができるものもありましたが、国税でも広くクレジットカード払いが利用できるようになったのです。

 

ただし、納付税額が最初の1万円までは76円(税別)、以後1万円を超えるごとに76円(税別)を加算した金額の決済手数料がかかるのが難点です。

決済手数料が1%を超えるケースも多くあります。

たとえば、税金10,001円、手数料税込164円であれば、手数料は約1.64%となります。

 

他方で、クレジット利用によるポイントがつく点がメリットでしょうが(ポイントがつくかどうかはクレジット会社にご確認ください。)、決裁手数料を上回るメリットといえるかは疑問があります。

まだクレジットカード払いの普及率はさほど高くないようですが、決済手数料について改善されれば、もっと普及するかもしれませんね。

 

 

国税の関連サイトへのリンクを張っておきますので、興味のある方はどうぞ。

 

国税クレジットカードお支払サイト

https://kokuzei.noufu.jp

国税は、国から指定されているこちらのサイトで、クレジットカード情報を登録して、納付を委託することになります。

 

クレジットカード納付のQ&A

http://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/nofu-shomei/nofu/credit_nofu/credit.htm

相続時精算課税の適用後の贈与税の申告を忘れてはいませんか?

ときどき、相続時精算課税制度を適用した後のことについて質問を受けるので、記事を書いてみました。

 

相続時精算課税制度については、国税庁の「No.4103相続時精算課税の選択」「No.4409 贈与税の計算(相続時精算課税の選択をした場合)」や、当HPの「相続時精算課税制度を利用すると、相続の放棄はできなくなるのか?」の記事もごらんください。

 

さて、本題ですが、ある人からの贈与について、相続時精算課税制度を選択する届出書とともに贈与税の申告をした後に、同じ人から贈与をうけた年は、申告期限内(翌年3月15日まで)に贈与税の申告をすることが必要となります。

 

ここで注意をしなければいけないのは、贈与を受けた金額にかかわりなく、贈与税の申告をしなければならないことです。

相続時精算課税制度の適用を受けることで、累計2,500万円(特別控除額)までの贈与財産については贈与税がかからないことになりますが、累計2,500万円に達していなくても、贈与税の申告をしなければならないのです。

さらには、相続時精算課税制度の選択をしているということは、通常の暦年課税の適用がないことを意味しますので、暦年課税の基礎控除額110万円に達していなくても、贈与税の申告をしなければならないのです。

 

相続時精算課税制度の対象となった贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降は全てこの制度が適用され(暦年課税の適用はありません。)、また、この制度の贈与者が亡くなったときの相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算することになります。

そこで、国税としては、相続時精算課税制度の選択以後、その制度の対象となる贈与者から贈与された時点での贈与財産の評価額及び累計額がきちんと確認できるようにしておく必要があるため、対象となる贈与者からの贈与があった年については、必ず贈与税の申告をするように求めているものと理解されます。

 

贈与を受けた金額が累計2,500万円以下だったから、あるいは少額だったからといって、贈与税の申告を忘れると、その贈与については、特別控除が使えなくなりますので、一律20%での贈与税が課税されます(この贈与税については、最終的には相続時に精算されることにはなりますが。)。

しかも、延滞税、無申告加算税が課されることになります。

 

なお、贈与税の申告を申告期限内にしなかったため、適用を受けなかった特別控除の額は、翌年以降に繰り越すことができるとされています。

 

 

以上のように、相続時精算課税制度を選択した後に、同じ人から贈与をうけた年は、その金額にかかわりなく、申告期限内(翌年3月15日まで)に贈与税の申告をしなければいけないということを、忘れないようにしてください!

医師が診療所引継ぎの際に支払った金員が必要経費と認められなかった裁決

今日は国税不服審判所の平成29年5月8日付裁決をご紹介します。

 

この件は、医師である審査請求人(納税者)が、医師である配偶者乙の診療所を引き継いで開業した際、乙に営業権の対価として金員を支払ったとして、当該金員を取得価額とする営業権に係る減価償却費を事業所得の金額の計算上必要経費に算入して所得税の確定申告等をしたところ、原処分庁が、当該金員は減価償却資産となる営業権の対価に該当しないとして更正処分等をした事案に関するものです。

 

審判所は、概ね以下のように判断し、請求人の主張を認めませんでした。

 

・医師の行う業務は、一身専属性の高いものであるから、医師である乙の専門的知識等や患者との個人的信頼関係などの事実関係は、旧診療所に客観的に結実した形で表象されたものと認められるものではなく、また減価償却資産となる営業権に該当するものとは認められず、旧診療所に、他の診療所を上回る収

益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係があり、それが旧診療所に客観的に結実した形で表象されていたと認めるに足りる証拠はないから、請求人が乙に支払った本件金員は、減価償却資産となる営業権の対価に該当するものとは認められない。

 

・請求人は、本件金員が、仮に営業権の対価ではないとしても、営業権以外の費用として必要経費に算入することができる旨主張するが、本件金員は、乙による請求人に対する患者の紹介料等に該当するものとは認められず、乙が本件診療所に従事し続けることなどを約する対価としての契約金に該当するものとも認められない。さらに、請求人は具体的にどのような費用に該当するかを積極的に主張するものではないから、本件金員は、客観的に見て、請求人の事業所得を生ずべき業務と直接関係があり、かつ、その業務の遂行上必要な支出であったとは認められず、本件金員は、所得税法37条1項に規定する必要経費に該当するとは認められない。

 

 

たしかに、個人の医師が営む診療所の経営について、営業権があると認められるケースはかなり稀だと思われますが、審判所が本件金員について、乙は請求人が旧診療所を引き継いだ際に、請求人に対し、旧診療所に来院していた患者の紹介又はこれに類する行為は行わなかったと(判断欄の冒頭で唐突に)事実認定をしたうえで、上記のように、患者の紹介料、契約金等に該当しないなどとして、一切の経費該当性を認めなかった点は、他の類似案件のことも考えると重要だと思いました。

 

さて、個人間での診療所の引き継ぎに際して、医師間で営業権、のれん代、紹介料等の名目で金銭が支払われることは稀ではないと思われますが(M&Aの場合は通常支払われることになるでしょう。)、今回の裁決の判断内容(もちろん審判所としては本件の事実関係に即したこの事案限りの判断をしたにすぎませんが。)を踏まえると、具体的な患者の紹介行為、引継後も引き続き診療を続けてもらうための契約、その実績があったなどの点について具体的な主張立証ができない限りは、それらの金銭について一切の経費性も認められないということに一般的になるのでしょうか?

必要経費の(不存在の)立証責任は、一応国側にあるとされているので、診療所を引き継いだ医師側では、紹介料等の経費性について一定の具体的主張と事実上の推定が働く程度の立証を要するということになるでしょうか。

 

ところで、審判所の今回の判断については、夫婦間での診療所の引き継ぎあったことがこの判断に影響しているかもしれませんが、もしそうならば所得税法56条(生計一親族間での対価の支払いについては事業所得の必要経費に算入しないとする規定)によって経費算入を否定するのが筋でした。

実際、裁決の書きぶりからすると、原処分庁や請求人は、紹介料、契約金等の経費に該当する(部分がある)ことを前提に、所得税法56条の適用の有無について争っていたようにも見えるので、今回の裁決は両当事者にとって不意打ちの判断になっているのではないか??という点が気になりました。

 

また、結局、一切の経費性が否定された今回の本件金員の性質はどういったものになるのでしょうか。乙への贈与だったということになるのでしょうか。

通常、診療所を引き継ぎ、紹介料等の支払を受ける個人は、(譲渡所得ではなく)雑所得等として所得税の確定申告をすることになりますが、今回の乙は贈与税の申告をすべきだったということになるのでしょうか・・・。

 

以上、裁決についてご紹介しましたが、個人の士業間で営業権等の譲渡をしても、税務上は、紹介料等の実態がある範囲でのみ経費として認められる(今回の裁決ではそれも否定されていますが。)、ということだけとりあえず理解しておいていただければよいかと思います。

 

経費に該当する支出かどうかについて税務署と意見が食い違っており、税務署の処分を争いたいなどという方は、まず当事務所にご相談下さい!

納税地(2)所轄外の税務署員が調査で収集した証拠をもとに所轄税務署で行われた更正処分は取り消されるのか?(前編)

前回の記事からの続きです。

今回は、納税地の管轄税務署ではない税務署の職員の実地調査によって収集した資料をもとに、納税地の管轄税務署が納税者に対する課税処分をしたというような場合には、その処分は違法として取り消されるのかという点です。

 

この点に関する平成28年10月31日付の国税不服審判所の裁決をご紹介します。

納税者が、生命保険契約の解約払戻金に係る所得について申告しなかったところ、原処分庁が所得税の更正処分等をしたのに対し、当該処分は納税者の納税地を所轄しない税務署長所属の職員による調査によって得られた資料に基づきされたものであるから、調査手続に違法があるなどとして、その全部の取消しを求めた審査請求の事案に関する裁決です。

審判所は、概ね以下のような判断をしました。

 

・ 調査手続の瑕疵は、原則として、課税処分の取消事由とはならないものと解されるが、通則法は、第24条の規定による更正処分、第25条《決定》の規定による決定処分、第26条《再更正》の規定による再更正処分等について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、例外的に、課税処分の取消事由となるものと解される。

・課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法を帯び、調査を全く欠くに等しいとの評価を受ける場合も含まれる。

・ここにいう「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味し、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般を指すものと解され、いわゆる机上調査のような税務官庁内部における調査をも含むものと解される。

・請求人は、所得税法16条4項に規定する事業場等の所在地を納税地とする書類を提出していなかったのであるから、請求人の納税地は、原処分庁が所轄する住所地である。

・この点について、所轄外職員が請求人の納税地につき住所地であると認識しつつあえて請求人に対する実地の調査を実施したと認めるに足りる証拠はなく、かえって、質問検査等の実施場所に関する請求人の要望を受け入れるなどしながら、全ての調査手続について請求人の任意の協力を得て履行していたことからすれば、所轄外職員は請求人の納税地を誤って認識していたにすぎない。

・請求人自身も税理士の記名押印がある平成20年分ないし平成26年分の所得税の各確定申告書を所轄外の税務署長に誤って提出していることから、所轄外職員による請求人の納税地についての認識の誤りは、請求人自身の行為によって誘発された側面があるといえることをも考慮すると、所轄外職員による実地の調査が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法を帯びるものであったとまではいえない。

・したがって、所轄外職員が調査により収集した証拠を原処分庁が課税処分の基礎として用いることは許されるのであり、原処分庁は、当該証拠を税務官庁内部において改めて検討した上で原処分をしたと認められるから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には当たらない。

・以上のとおり、本件調査手続に原処分を取り消すべき違法又は不当はない。

 

次回に続きます。

納税地(1)納税地の所轄ではない税務署長がした処分が違法として取り消された裁決

今日は、納税地の所轄ではない税務署長がした処分は違法として取り消した国税不服審判所の裁決(平成28年5月17日)についてご紹介します。

 

この事件は、審査請求人(以下「請求人」)が、課税処分を行った税務署(以下「原処分庁」)に所属する調査担当職員の調査を受けて相続税の期限後申告をしたところ、原処分庁が、請求人に対し、その納付税額について重加算税の賦課決定処分をしたため、請求人が、被相続人の死亡時の住所地(納税地)の所轄庁ではない原処分庁には重加算税の賦課決定権限はないとして、当該賦課決定処分の全部の取消しを求めていた事案です。

 

前提として、相続税の納税地は、被相続人の死亡時の住所地となっています(日本国内に住所がある場合)。

納税地というのは、税金を納付すべき場所のことで、納税地を所轄する税務署に申告書の提出・納付をすることになります。

課税処分をする権限も納税地の所轄税務署長に帰属します。

 

本件の争点は、納税地である被相続人の死亡時の住所地が、本件の被相続人が元々居住していた家屋(→原処分庁が所轄庁になります)だったのか、あるいは被相続人が入所していた介護施設(→原処分庁が所轄庁ではないことになります)だったのか、という点にあります。

 

審判所は、相続税法附則第3項は、相続税に係る納税地は、被相続人の死亡の時における住所地とする旨規定しているところ、ここにいう住所とは、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関連の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当であるとした上で、

 

・被相続人は、平成20年5月に、家庭裁判所から、後見開始の審判を受け、同審判により成年後見人に選任された後見人が締結した入居契約に基づき、同年7月以降、本件施設(生活全般にわたる介護サービスを受けることができる介護付有料老人ホーム)に入居していたこと

・被相続人は、本件施設に入居した当時の体調は死亡時まで回復することはなく、被相続人が本件家屋(被相続人が所有し、平成20年6月頃までが居住していた家屋)で起居することは不可能な状況にあったこと

・被相続人は、本件施設に入居した平成20年7月1日から死亡の時まで、本件家屋に帰宅したことは一度もなく、本件施設において日常生活を送っていたこと

 

などから、被相続人の死亡時における生活の本拠たる実体を有していたのは、本件施設と認めるのが相当であり、本件家屋が生活の本拠たる実体を有していたと認めることはできないとし、被相続人の死亡時における住所地は、本件施設の所在地であり、原処分庁には、本件相続に関する相続税について、加算税の賦課決定権限はないとし、当該課税処分は、処分権限のない税務署長による処分として、その全部が取り消されるべきであるとの結論に至っています。

 

住所地がどこかは客観的に実体に基づいて判断されることや、納税地の所轄ではない税務署長がした処分が違法との結論には、目新しいところはないのですが、本件と似たような事例、つまり、本当にこの課税処分は納税地の税務署長がしたといえるのかが疑問となる事例が時々見受けられるため、この裁決をご紹介したものです。

 

もっとも、納税地違いが事実だったことが判明したとしても、正しい納税地の税務署長に課税処分を改めてし直されるだけ、という場合もよくあります。

そのため、例えば、納税地違いの結論が出た後には税務署が処分をやり直そうと思っても既に処分の期間制限(国税通則法70条・71条)にひっかかって、処分をし直すことができないことが予測されるような場合に、こういった納税地違いを理由とした争い方に実益があるということになるのではないかと思われます。

 

 

さて、それでは、納税地の管轄税務署ではない税務署の職員の実地調査によって収集した資料をもとに、納税地の管轄税務署が納税者に対する課税処分をしたというような場合には、その処分は違法になるのでしょうか?

この点は次回に続きます

所得税の確定申告、経費の中に身内への支払いが混じっていませんか?

皆さん、自分の所得税の確定申告をする前に、生計同一親族への支払経費(事業専従者給与を除く)を必要経費に算入していないか、チェックしておきましょう!

 

事業者が支払う経費のうち、自分の親族(生計が同一の親族に限られます)に対して支払ったものは、必要経費に算入して所得金額を減額することができません。

これは所得税法56条(下記参照)に規定されています。

なお、親族は、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族(民法725条)をいいます。

 

この所得税法56条の例外となるのが、所得税法57条(下記参照)に規定されている事業専従者(青色事業専従者)への給与の支払いで、事業専従者給与については、必要経費に算入して事業者の所得金額を減額することができます。

 

 

では、生計同一親族へ支払った事業専従者給与以外の経費については、事業者の必要経費に算入されない結果、単なる損になって終わりになるのでしょうか?

 

いいえ、そうではありません。

この経費支払いに関しては、①親族側では支払を受けても収入に算入せず、また、②生計同一親族のもとで発生した必要経費があれば、事業者の必要経費に算入することになります。支払いを受けた親族側では収入も経費も発生しないことになります。

 

なぜこんな処理になるのかよく分からない、処理が複雑だと思われる方もいらっしゃるでしょう。

たしかに、個人個人でみると妙な処理ですが、生計同一親族で構成される世帯を一つの単位とみて、世帯内での支払いについては収益、経費が発生しないものとする考え方(世帯単位課税)によるものだと考えれば、理解してもらえるかと思います。

不合理な世帯内での所得分散(所得操作)によって所得税の減税を図ることができないように、世帯単位課税の考え方が部分的に導入されたものなのです。

 

皆さん、生計同一親族への支払経費(事業専従者給与を除く)が必要経費に混じっていないか、確定申告前にもう一度チェックしておきましょう。

処理に不安があれば、確定申告前に専門家にご相談された方がよいでしょう。

 

 

《所得税法》

第56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)

居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。

 

 

第57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)

青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。

2 〔略〕

3 居住者(第一項に規定する居住者を除く。)と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「事業専従者」という。)がある場合には、その居住者のその年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、各事業専従者につき、次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を必要経費とみなす。

一 次に掲げる事業専従者の区分に応じそれぞれ次に定める金額

イ その居住者の配偶者である事業専従老人 八十六万円

ロ イに掲げる者以外の事業専従者 五十万円

二 その年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額(この項の規定を適用しないで計算した場合の金額とする。)を当該事業に係る事業専従者の数に一を加えた数で除して計算した金額

以下〔略〕

償却資産(固定資産税)の申告、お忘れではありませんか?

事業開始後間もない個人の方に申告忘れが多いのが、償却資産税などといわれる固定資産税です。

償却資産の申告期限は、毎年1月31日です!

つまり、平成30年度分は本日が申告期限ですが、お忘れではありませんか?

 

固定資産税の課税対象となるのは、土地、家屋、償却資産(有形のもの)です。

償却資産とは、事業に用いることができる構築物、機械・装置、工具・器具・備品、車両・運搬具など(土地・家屋以外の減価償却資産)です。

 

土地・家屋については市町村の方で把握しますが、償却資産については市町村の方では把握できませんので、まず納税者が毎年1月1日現在所有している物について自ら申告し、市町村はそれを受けて4月上旬頃に固定資産税の納付書を送付することになっているのです。

 

償却資産で申告対象となるものには、所得税や法人税で減価償却資産として扱っているものをはじめ、簿外資産、償却済み資産、遊休資産、未稼働資産、美術品(取得価額100万円以上のもの)などが含まれます。

また、耐用年数1年以上で1個あたりの取得価額が10万円(場合によっては20万円)以上のものは、申告対象となります。

なお、償却の計算方法も所得税や法人税と違っているところがありますので、詳細は市町村のホームページや手引きなどでご確認ください。

 

他方で、申告対象とならない財産としては、使用可能期間が1年未満のものまたは1個あたりの取得価額が10万円未満のもので、税務上一時に損金に算入されたもの、1個あたりの取得価額が20万円未満で3年一括償却の対象とされたもの、棚卸資産、無形の減価償却資産(ソフトウェアなど)、繰延資産、自動車税・軽自動車税の対象となる自動車等、生き物、美術品(取得価額100万円未満のもの)などが挙げられます。

 

償却資産150万円までは固定資産税が免税となります。

もっとも、1月1日現在で事業用償却資産を所有していれば、それが150万円未満と思われる場合であっても、償却資産の申告は必要ですので、この点ご注意を!

住宅取得等資金の贈与税の非課税制度、知っていますか?(2)

昨年12月6日の記事からの続きです。

住宅取得等資金の贈与税の非課税制度の注目ポイントの二つ目です。

 

二つ目は、自宅の新築等の契約の締結日が平成31年4月1日から平成33年12月31日までで、対価又は費用の額に含まれる消費税等の税率が10%であるときは、消費税率8%の場合と比べて非課税限度額が大幅に高く設定されている点です。

 

以下の表のとおり、住宅取得資金を贈与したもらった場合の贈与税の額が大幅に低くなるのです。新築等の契約日、対価等の金額、省エネ住宅か否かによって異なるものの、非課税限度額は、消費税率8%の場合の額と比べて最大で3倍以上になることもあります。 

 

1.住宅用家屋の新築等の消費税等が税率10%である場合

住宅用家屋の取得等に係る契約の日

省エネ等住宅

左記以外の住宅

平成3141日~平成32331

3,000万円

2,500万円

平成3241日~平成33331

1,500万円

1,000万円

平成3341日~平成331231

1,200万円

700万円

 

2.上記1以外の場合

住宅用家屋の取得等に係る契約の日

省エネ等住宅

左記以外の住宅

~平成271231

1,500万円

1,000万円

平成2811日~平成32331

1,200万円

700万円

平成3241日~平成33331

1,000万円

500万円

平成3341日~平成331231

800万円

300万円

 

いうまでもなく、消費税10%への増税が平成31年10月1日に予定されていることにあわせて導入される軽減措置です。

 

消費税率が2%アップするのは痛いですが、これだけの贈与税非課税枠があるので、父母・祖父母から子・孫への贈与資金での住宅取得を考えておられる方々は、住宅取得等資金の贈与の時期・額、契約の時期を改めて検討してから判断するのが賢いかもしれません。

検討の際は、予定している住宅等の金額・種類、予定している贈与額に応じて、消費税増税で増加する消費税と、上記の特例で減税される贈与税の額を比較して判断することになるでしょうか。

税理士さんとよく相談してください。

 

さて、2回にわたって、住宅取得等資金の贈与税の非課税制度について、注目ポイントを説明してきましたが、いかがだったでしょうか。

皆さんの参考になれば幸いです!

法定相続情報証明制度、利用していますか?

昨年(平成29年)から始まった法定相続情報証明制度はご存じでしょうか。

 

これまで不動産の相続登記や金融機関の相続手続きをするときは、その手続きごとに、亡くなった被相続人の出生から死亡までの戸籍や相続人の戸籍一式を提出する必要がありました。

そのため、各地に不動産があったときや、多くの金融機関に口座を持っているようなときには、戸籍一式を何セットも用意する必要がありました。

法定相続情報証明制度の開始により、戸籍一式が、法務局の登記官の認証つきの「法定相続情報証明一覧図」ですむようになったのです。

 

具体的な制度の内容は、こちらの法務省のHP「法定相続情報証明制度について」をご覧ください。

 

 この制度に関する新聞記事によると、概ね以下のような状況にあるそうです。

・証明書の発行枚数は制度開始後半年で約20万枚(利用者は10万〜20万人)

・金融機関でも証明書を使った手続きが増えている

・証明書は家庭裁判所の遺産分割調停や相続放棄の手続きに利用できる

・証明書は現在のところ、相続税の申告の添付書類としては使えない(証明書では実子、養子を区別しないが、相続税では区別の必要があるため)

 

これによると、この制度は徐々に浸透してきているようですね。

戸籍の収集をはじめ、相続手続きに分からない点がある方は、当事務所の法律相談に申込みをしてください!

中小企業の非上場株式の相続税等について100%猶予の特例ができるか!?

先日、平成30年度の税制改正大綱が発表されました。

その中で個人的に注目しているのが、中小企業の非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の特例の導入です。

従来からあった制度の特例ですが、大幅に課税が緩和される可能性があるので、朗報といえます。

 

現行の納税猶予制度は大まかに言うと、中小企業の代表者から相続、贈与を受けた後継者である筆頭株主(1名)について、発行済株式の3分の2を限度に80%相当の相続税等の額(つまり最大約53%の株式の相続税等相当額)について、納税を猶予するという制度です。

この猶予が認められるための条件、猶予が打ち切られる場合、免除が認められる場合の要件などについて法令で細かい規定がたくさん定められています。

例えば、納税猶予が認められた場合でも、申告期限後5年間の平均で従業員の雇用を8割維持できなければ、納税猶予が打ち切られ、猶予されていた税額を支払わなければならないことになっております。

詳しくは、こちらの国税庁のHPをごらんください。

 

さて、もし今回の税制改正が実現すると、特例により、後継者である株主(同族関係者を含めて最大3名まで)について、最大で、全株式100%の相続税等相当額の納税を猶予することができるようになります。

また、この特例では、申告期限5年間平均で従業員の雇用8割維持という条件を満たさなくても、納税猶予が打ち切られない予定です。

その他、猶予税額についても免除される場面が広がるものと思われます。

 

なお、今回の税制改正大綱によると、今回の特例だけでなく、現行の制度においても、後継者が代表者以外の者から株式を贈与等により取得した場合でも、一定の要件を満たすときは、納税猶予制度の対象とする予定となっています。

 

 

ただし、今回の特例は、平成30年から平成39年までに相続、贈与が行われる場合に適用されるという10年間の期限付きとなっています。

国が、この期間内の相続税、贈与税の負担を軽くすることで、この間に次の世代への事業承継が円滑に行われるように、後押ししているということです。

 

実際のところ、今回の特例が正式導入されるのかどうかはもちろん、正式導入されるときに要件がどこまで緩和されて、実際に使いやすい制度になるかどうかについて、今後も注目です!

 

事業承継のことでお悩みの方は当事務所にご相談ください!

住宅取得等資金の贈与税の非課税制度、知っていますか?(1)

住宅取得等資金の贈与税の非課税制度は、ご存じでしょうか?

平成27年1月1日から平成33年12月31日までの間に、父母や祖父母など(直系尊属)からの贈与によって、居住用の自宅の新築、取得又は増改築等(以下「新築等」とします。)の支払いのための金銭(以下「住宅取得等資金」とします。)を取得した場合に、一定の要件を満たせば、一定の非課税限度額まで贈与税が非課税となる制度です。

 

詳細は以下の国税庁のHPでご確認ください。

https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/sozoku/pdf/jutaku27-310630.pdf

 

「No.4508直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」

https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4508.htm

 

さて、この非課税制度について特に私が注目しているポイントをあげていきます。

 

一つ目は、この非課税制度を使った後さらに、通常の暦年課税の場合には贈与税の基礎控除 (110万円)を、また相続時精算課税制度を利用している場合には特別控除(2500 万円)をすることができる点です。

 

「消費税8%」の新築等の場合、現在であれば、通常の暦年課税においては、最大1200万円(省エネ等住宅の場合)+110万円(基礎控除)=1310万円まで贈与税が非課税となり、相続時精算課税制度を利用する場合には、最大1200万円(省エネ等住宅の場合)+2500万円(特別控除)=3700万円まで贈与税が非課税となります。

 

「消費税10%」の新築等の場合、通常の暦年課税においては、最大3000万円(省エネ等住宅の場合)+110万円(基礎控除)=3110万円まで贈与税が非課税となり、相続時精算課税制度を利用する場合には、最大3000万円(省エネ等住宅の場合)+2500万円(特別控除)=5500万円まで贈与税が非課税となります。

 

なお、相続時精算課税には特例があり、平成33年12月31日までに、父母又は祖父母から、自分の居住用の自宅の住宅取得等資金について贈与を受けた場合で、一定の要件を満たせば、贈与者がその贈与年の1月1日に60歳未満である場合であっても相続時精算課税を選択することができることになっています(通常の相続時精算課税制度では、贈与年の1月1日において贈与者が60歳以上であることが必要です。)。

 「No.4503相続時精算課税選択の特例」

https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4503.htm

 

次回に続きます。

税務署に対する再調査の請求は省いて直接審査請求をした方がよいのか否か

平成28年4月1日以降にされた税務署長の納税者に対する処分に関する不服申立てについて、以下の内容の国税通則法改正が同日施行されています(実際には色々な改正がされていますが、この記事に必要な部分のみを抜粋しています)。

 

・以前の税務署に対する「異議申立て」が「再調査の請求」という名称になった。

・納税者は不服申立てを国税不服審判所長に対する審査請求から始めても良いこととなり(直接審査請求)、処分をした税務所長に対する不服申立て(再調査の請求)をしなくても良いことになった。

 

※以前は、税務署長の納税者に対する処分に関して取消などを求める不服申立てについては、原則的には税務所長に対する異議申立(今の再調査の請求)から始めなければならない制度(異議申立前置主義、※例外的な場合に直接審査請求が認められていた。)がとられていた。

 

さて、この改正の影響で、国税庁のHP「平成28年度における再調査の請求の概要」、「平成28年度における審査請求の概要」によれば、平成28年度における再調査の請求の件数は前年度と比べて47.5%もの減少となっており、他方で、国税不服審判所への審査請求の件数をみると、平成28年度は前年度より18.6%の増加となっております。

しかも、平成27年度は、審査請求事件のうち「直審」(直接審査請求された事件)が368件、うち「二審」(異議申立てまたは再調査の請求を経た事件)が1730件だったのに対し、平成28年度は、「直審」が1473件と前年の約4倍に達し、「二審」が1015件と減少した結果、「直審」は審査請求事件全体の約17.5%から59.2%にまで上昇していることが分かります。

この点からすると、上記の改正の影響が大きく出ていることが分かります。

 

それでは、税務署に対する再調査の請求は省略した方がよいのでしょうか。

 

実は、個人的な方針としては、むしろ逆で、改正後も再調査の請求をするのを基本としています。

純粋な法令解釈のみが争いとなっており、処分をした税務署長に対して見直しを求めても、結論が変わるわけがないというような場合には直接審査請求をすると思いますが、それ以外の場合は再調査の請求からスタートするのを原則とする、ということになります。

 

さて、このように考える理由は色々ありますが、大雑把にいえば、審査請求までに十分な準備期間がほしいこと、税務署長から議決書をもらうことで、相手方となる税務署・国の処分をした詳しい理由、論拠や証拠を審査請求前に予め知って対策を練ることができること、再調査の請求は結論が出るまでに通常それほど時間がかからないことなどです。

 

税務署の処分に不満があって、再調査の請求や審査請求をするかどうか悩んでいる方は、ぜひ当事務所にご相談ください!

意外と知らない!扶養義務者間での生活費・教育費の贈与は要件を満たせば贈与税非課税

平成25年4月から始まった教育資金贈与の非課税制度をご存じの方は、多いと思います。

この教育資金贈与の非課税制度は、平成31年3月31日までの間に、30歳未満の受贈者が祖父母などの直系尊属から贈与等によって受け取った金銭を、一定の教育資金に充てるため、定められた手続きにしたがって教育資金口座の開設等をした場合には、1,500万円までは、一定の手続きを取ることによって贈与税が非課税となる制度です。

詳細は、国税庁のページをご覧ください。

教育資金の内容に制限がある他、手続きが色々と必要になります。

 

ところで皆さん、そもそもこの非課税制度の導入以前から、「扶養義務者間で生活費・教育費を目的として贈与された財産のうち、通常必要と認められるもの」については、相続税法21条の3第1項2号によって贈与税の非課税財産とされていることをご存じでしょうか。

 

【相続税法】

第21条の3 次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。

二 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの

 

ここでいう扶養義務者とは、配偶者と民法877条で定める扶養義務者たる親族をさします(相続税法1条2の1号)。民法877条では、直系血族及び兄弟姉妹、3親等内の親族で家庭裁判所の審判を受けた者を互いに扶養する義務がある者と定めており、相続税法基本通達1の2-1では「三親等内の親族で生計を一にする者」も該当することとしています。

 

なお、非課税の贈与財産は、基礎控除額の110万円に含める必要もありませんし、上記の教育資金贈与の非課税制度のような厳格な手続きの定めもありません。

 

ただし、国税庁では、相続税法基本通達に以下のような内容の定めを置いています。

 

・21の3-3 「生活費」とは、その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用をいい、治療費、養育費その他これらに準ずるものを含む。

 

・21の3-4 「教育費」とは、被扶養者の教育上通常必要と認められる学資、教材費、文具費等をいい、義務教育費に限らない。

 

・21の3-5 生贈与税の課税価格に算入しない財産は、生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与によって取得した財産をいう。生活費等の名義で取得した財産でも、これを預貯金した場合や、株式の買入代金や家屋の買入代金に充てたような場合には、「通常必要と認められるもの」以外のものとする。

 

・21の3-6 「通常必要と認められるもの」は、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいう。

 

・21の3-7 財産の果実だけを生活費又は教育費に充てるために財産の名義変更があったような場合には、その名義変更の時にその利益を受ける者が当該財産を贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。(平15課資2-1改正)

 

これらの定めのうち、特に21の3-5については要注意です。

法律で定められている「通常必要と認められるもの」という文言を必要以上に厳格に解釈しているように思われ、もしこの通達の定めを機械的に適用すると、例えば、祖父母からA口座に振り込まれた教育費等をそのまま放置し(あるいは別の物の購入代金に充て)、実際にはB口座から教育費等を支出していた場合、贈与税が課税されてしまうおそれがあることになります。全体としては祖父母が教育費を支出したのと同じことなのですが・・・。

この点について、税務署から課税されたり、無用な争いが生じたりしないようにするためには、必要な都度、必要な額を口座に祖父母などから振り込んでもらい、その口座から直接教育費等の支払いに充てる(口座から引き落とすか、口座から振り込む)のが最も安全ということになります。

 

扶養義務者間の生活費・教育費目的での贈与財産について、要件を満たせば贈与税が非課税になることを知らなかった方も多いのではないかと思います。

例えば、私立の学費や大学の学費は毎年ある程度の額になりますので、祖父母から孫に毎年学費を贈与をすることで、祖父母の相続税対策にもなる(兼ねられる)というようなケースでは、積極的に活用を検討してみるとよいかもしれません。

気になった方は専門家に相談してみられてはいかがでしょうか。

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使用人兼務役員制度のメリットとは

前々回、使用人兼役員に関する記事を書きましたが、改めて使用人兼務役員制度のメリットや注意点について書きました。

 

通常、法人の役員給与は、定期同額給与(一定額の月給など)、事前確定届出給与(事前に税務署に届け出たボーナスなど)などでなければ、支払っても法人の損金になりません。

 

ですが、「使用人兼務役員」は、役員であっても使用人としての側面があるため、使用人分給与の支給額を期中に増減したり、事前に届け出をせずに使用人としての賞与を支払っても、法人の損金に算入することができます。

 

ただし、使用人分と役員分は明確に区分し、書面化しておく必要があります。

また、使用人分給与は他の使用人との給料のバランスにも配慮する必要があります。

さらに、使用人分の賞与は他の従業員と同時期にしなくてはなりません。

以上の点に注意して下さい。

 

その他にも、「使用人兼務役員」は、役員なのに雇用保険や中退共に加入できることがメリットとしてあげられます。

 

もっとも、法令上、代表取締役副社長、専務、常務その他これらに準ずる役員や、業務執行社員などは使用人兼務役員にはなれないこと(※1)にはご注意下さい。
(※1)No.5205 役員のうち使用人兼務役員になれない人

 

以上のように、使用人兼務役員制度にはメリットがあるので、社会保険の手続きや税務上の要件に注意しながら、有効活用してみられてはいかがでしょうか。

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被相続人が固定資産税の数倍の金額を支払っていても使用貸借であるとした裁決

今回は、平成29年1月17日裁決の紹介です。

この裁決は、土地上に建物を有していた被相続人が、その土地の所有者に地代として支払っていた金銭(以下「本件金員」とします。)の額が、その土地の固定資産税等年税額を超えていたものの、被相続人がこの土地上に借地権を有していたとは認めることはできないとして、税務署長の処分を全部取り消したという納税者完全勝訴の裁決です。

 

審判所は、以下のような判断をしました。

・被相続人が昭和56年に本件土地の使用収益を開始した当時は、使用貸借契約に基づくものであったと認められ、平成2年に請求人が本件土地を相続により取得した後、被相続人から請求人に対する本件金員の支払いが開始されたのが平成6年であるから、請求人は平成2年に被相続人の土地に関する使用貸借契約の貸主の地位を承継したものといえる

・本件金員の支払開始に当たり、請求人と被相続人との間で契約書が作成されたなどの事情は見当たらず、証拠を見ても本件金員の支払開始の経緯、動機、本件金員の算定根拠が明らかではないこと、被相続人と請求人は親子であり、本件金員の支払が開始された当時、請求人が未成年者であったことを併せ考慮すると、本件金員の支払が開始されたことをもって、賃貸借契約に変更されたとみることはできない

・本件相続開始時においては、本件金員の年額が、本件土地の固定資産税等年税額の約〇倍であったものの、このような事情のみでは、本件金員が、本件土地の使用収益の対価であると認めるに足りず、被相続人による本件土地の使用収益は使用貸借契約に基づくものであったと認めるのが相当であり、被相続人が本件土地上に借地権を有していたとは認めることはできない。

 

 

さて、元国税審判官の弁護士としては、納税者勝訴事案が増えることは良いことだと思っていますが、本件では、審判所はなかなか思い切った判断をしたように思います。

たしかに、金銭の支払いがされていても土地使用の対価とまで認められなければ、有償の賃貸借契約ではなく無償の使用貸借契約であるというのが法律論なのですが、本件では固定資産税年額の数倍が支払われていたわけですので、なかなか難しい判断だったのではないかなと思います。

過去に遡った事実認定や法律論を重視したところをみると、弁護士が国税審判官(任期付公務員)として関わった事案なのかな?などと憶測しました。

 

いずれにせよ、税務署長(国)はこの裁決を不服として裁判を起こすことができないため、本件はこれで確定となります。

士業法人の社員を使用人兼務役員として損金処理をすると否認されるかもしれません

「使用人兼務役員」は、役員であっても使用人としての側面があるため、使用人給与の支給額を期中に増減したり、届け出をせずに使用人としての賞与を支払っても、法人の損金に算入されるため、使用人兼務役員の制度は法人にとって税務上のメリットがある便利なものといえます。

 

最近では、税理士法人、弁護士法人、司法書士法人など多くの士業で法人化ができるようになっていますが、このような士業法人の社員(一般の会社でいう役員に相当します。)の全部又は一部について、「使用人兼務役員」に該当するとして、その報酬の一部を使用人分給与として損金処理すると、税務署から否認されるおそれがあります。

 

今回ご紹介する東京地方裁判所の平成29年1月18日判決は、この点に関する判決です。

 

この判決の事案は、特許業務法人である原告が、社員3名に支給した給与のうち歩合給について、税務署長から、社員らが役員に該当し、かつ、「使用人としての職務を有する役員」(以下「使用人兼務役員」)に該当せず、また歩合給は法人税法第34条1項各号の給与のいずれにも該当しないから、損金の額に算入できないとして法人税の各更正処分等を受けたため、処分の取消しを求めて争っていたものでした。

 

裁判所は、概ね以下のような判断をしました。

 

・弁理士法によれば、特許業務法人の社員は、全ての社員が業務執行をする権利を有し、義務を負うとされ、また、各社員は連帯してその弁済の責めに任ずるとされることや、業務執行の対象には経営に係る業務を含むことから、本件社員らは、具体的な職務の内容にかかわらず、役員に該当する。

 

・業務執行役員と特許業務法人との関係には民法の委任の規定が準用され、両者は一般には雇用契約等に基づく使用人と事業主との関係に立つものではないから、役員が従事する具体的な職務の中に使用人である弁理士が行う職務と同種の職務が含まれている場合であっても、それは使用人としての立場で従事するものではないと一般的・類型的に評価し得るものであり、特許業務法人の社員は、一般には使用人兼務役員に該当せず、本件社員らは使用人兼務役員に該当しない。

 

裁判所は以上のような判断をしましたが、そもそも、一般の会社でも、法令上、代表取締役副社長、専務、常務その他これらに準ずる役員や、業務執行社員などは使用人兼務役員にはなれないこと(※1)や、このような士業法人における社員の権利・責任の大きさなどからすると、この結論はやむを得ないといえるでしょう。

 (※1)「No.5205 役員のうち使用人兼務役員になれない人

 

また、国税庁は以前から、税理士法人の社員について、使用人兼務役員への該当性を全面的に否定しています(※2)。

(※2)「税理士法人の社員に係る使用人兼務役員への該当性

 このなかで、国税庁は、税理士法人においては、「①社員はすべて業務を執行する権利を有し、義務を負うとされており、この社員の業務を執行する権限は、定款によっても制限することはできないこと。」、「税理士法人の社員は、その権利義務について合名会社の社員と同様とされていますが、合名会社の社員と異なり、業務を執行する権限を定款で制限できないこととされていますので、税理士法人の社員はすべて、法人税法施行令第71条第1項第3号において使用人兼務役員になれない役員として明示されている合名会社の業務を執行する社員と同様に、業務執行を行うこととなります。」、などと記載しており、定款における業務執行権の制限の有無に着目していることが分かります。

 

士業法人の中には、たとえば、弁護士法人に関して、弁護士法第30条の12が「弁護士法人の社員は、定款で別段の定めがある場合を除き、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負う。」と定め、第30条の13《法人の代表》が、「1 弁護士法人の業務を執行する社員は、各自弁護士法人を代表する。2 前項の規定は、定款又は総社員の同意によつて、業務を執行する社員中特に弁護士法人を代表すべき社員を定めることを妨げない。」と定めているように、定款で業務執行権(や代表権)を制限することができる士業法人もあります。

 

以上によりますと、まず、定款で業務執行権を制限できないとされている種類の士業法人においては、社員全員について使用人兼務役員として税務処理をする余地はなく、次に、定款で業務執行権を制限できるとされている種類の士業法人においても、定款で業務執行権が制限されている社員以外の業務執行社員は、使用人兼務役員として税務処理をすることはできない、と考えておいた方がよいかと思います。

 

士業法人の方々、ご注意を!

 

 

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平成28年の税務訴訟での納税者側の勝訴割合は4.5%となっています

国税庁発表の「平成28年度における訴訟の概要」によると、平成28年の税務訴訟での納税者側の勝訴割合(一部勝訴も含む。)は4.5%となっており、過去の数値(平成25年度7.3%、平成26年度6.8%、平成27年度8.4%)と比べても低調に留まっているといわざるをえないでしょう。

 

しかし、他方で、国税庁発表の「平成28年度における審査請求の概要」によると、訴訟前の審査請求の段階での納税者側の主張が認められた割合(一部認容も含む。)は12.3%となっており、過去3年(平成25年度7.7%、平成26年度8.0%、平成27年度8.0%)よりもかなり高くなっているということができます。

 

このように両者をみると、単純に納税者側の主張が認められづらい状況にあるということはできないですし、むしろ審査請求の早い段階で納税者救済が実現しているのであれば、より納税者にとってはありがたいところではないかと思います(しかも審査請求は費用が無料ですし。)。

このような状況が続くのかは分かりませんが、こういった数値は、納税者がどこまで頑張るべきかを考える上で参考になるかもしれませんね。

 

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平成27年1月以降の相続税の申告件数が以前の1.8倍に増えています!

相続発生件数(死亡件数)のうちで、実際に相続税の申告をしている件数が、どれくらいの割合かご存じでしょうか?

 

平成27年1月1日以後に相続または遺贈によって取得する財産に関する相続税については、基礎控除額(相続財産の価格から差し引く金額。基礎控除後の価格に対して課税されます。)が、「5000万円+1000万円×法定相続人の数」から「3,000万円+600万円×法定相続人の数」へと、従来の6割に大幅減少となったため、相続税の申告が必要となる件数、申告件数が大幅に増加するといわれてきました。

この点は、以前のブログ記事もごらんください。

平成27年から相続税の発生件数が1.5倍に!相続税対策はすんでますか?

 

さて、国税庁発表の「平成27年分の相続税の申告状況について」をみると、基礎控除額が大幅減少となる前後の変化がよく分かります。

これによれば、相続発生件数のうちで、相続税の申告をしている件数の割合(課税割合)は、平成26年・4.4%から平成27年・8%へと、3.6%の大幅増加になっています。

被相続人の数でみても、前年5万6000人から10万3000人の大台へと大幅に増えています。

当初1.5倍程度の増加と予想されていたところ1.8倍に及ぶ増加だったわけですから、予想以上の申告件数の増加だったことになります。

 

また、納付税額は、申告件数が増えたため全体では30%以上の増加となっていますが、規模の小さな相続を新たに課税対象とした結果、1件当たりの税額は71.1%と減少する結果となっています。

 

なお、相続財産のうち、預貯金の割合が目立って高まる結果となっていますが、これは、今回新たに課税対象となった方、つまり富裕層というほどではないがある程度の財産を持っている人々は、自宅以外の不動産や金融資産よりも預金を中心に財産を構成しているためだと推測されます。

 

今後も相続税については似たような状況が続くと思われますので、以前より格段に多くのご家庭で、生前からの相続対策を考えて実施しておいた方が良いことになるでしょう。

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節税目的の養子縁組でも有効ですが税務上は否認されるかもしれません

今回は、もっぱら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、その養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとした最高裁判決(平成29年1月31日第三小法廷判決)のご紹介と注意点を記載しました。

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加算税について取扱いが厳しくなる改正がされています!

加算税は、税金の申告が適正にされなかった場合に納税者に課されるものです。その種類や内容についてはこちらの財務省のページをごらんください。

さて、来年(平成29年1月1日)以後に法定申告期限が到来する国税について、新たに改正された加算税制度が適用されます。

改正点は以下の2点です。

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通達にしたがって申告をしたのであれば、加算税は課されない!

本日は、最高裁第二小法廷平成27年6月12日判決のご紹介です。

この判決は、匿名組合契約に基づいて組合員が受ける利益の所得税法上の所得区分について判断基準を示し、この点に関する現在の通達の内容が正しいものと認めるとともに、この事案で組合員が得ていた所得は雑所得であると判断したものです。

ですが、今回注目すべきは、この匿名組合員が組合事業による損失を(雑所得ではなく)不動産所得に関するものとして所得税の申告をしたことについて、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるので過少申告加算税の処分は違法であるとして、この処分を取り消した点です。

この事案においては、匿名組合員の申告はもともとは通達にしたがって申告をしていたものであったが、平成17年の通達改正により、以後の匿名組合員の申告が結果的に通達に反するものとなってしまったという事情があります。

この判決は、その点を踏まえて、以下のように判断をしたのです。

 

『以上のような事情の下においては、本件各申告のうち平成17年通達改正の前に旧通達に従ってされた平成15年分及び同16年分の各申告において、Aが、本件リース事業につき生じた損失のうち本件匿名組合契約に基づく同人への損失の分配として計上された金額を不動産所得に係る損失に該当するものとして申告し、他の各種所得との損益通算により上記の金額を税額の計算の基礎としていなかったことについて、真にAの責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお同人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になるというのが相当であるから、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるものというべきである。』

 

納税者が、税務官庁が自ら示していた通達にしたがった申告をしたにもかかわらず、結果として税務官庁から加算税を課されてしまうことがあるとすれば、(たとえその通達が適正な内容でなかったとしても)納税者にとって理不尽といわざるを得ないので、通達にしたがって申告をしたのであれば加算税は課されないとした今回の最高裁の判断は一般人の常識に合うものだと思いますし、今後の参考にもなります。

 

※なお、最高裁が過去に似た判断を示したものとして、最高裁第三小法廷平成18年10月24日判決があります。    

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競馬所得に関する高裁の納税者逆転勝訴判決! 東京高裁H28.4.21判決

以前、こちらのブログでふれた、競馬所得に関する東京地方裁判所平成27年5月14日判決の事案で、納税者逆転勝訴の控訴審判決(東京高等裁判所平成28年4月21日判決)が出ていますので、本日はその紹介です。

まず、前提として、「競馬の当たり馬券の払戻金が所得税法上の一時所得(税務署側主張)なのか、雑所得(納税者側主張)なのか」、「外れ馬券の購入代金が必要経費に該当する(納税者側主張)のか、該当しない(税務署側主張)のか」、といった点が争点となり、この件の当たり馬券の払戻金は雑所得に当たり、外れ馬券の購入代金も必要経費として控除することができるとした最高裁判所第三小法廷平成27年3月10日判決(刑事事件の判決)をおさえる必要があります。

今回の東京高裁の控訴審判決のもととなる東京地裁の1審判決では、本件競馬所得が一時所得に該当し、外れ馬券の購入代金を総収入金額から控除できないとして、納税者敗訴となっていました。

 

今回の高裁判決は、

 

・本件競馬所得が、所得税法34条1項にいう「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当するのであれば、一時所得ではなく雑所得に区分される

 

・「営利を目的とする継統的行為から生じた所得」であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当であり、馬券の的中による払戻金に係る所得の本来的な性質が一時的、偶発的な所得であるとの一事から「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」には当たらないと解釈すべきではないものと解される(前記最高裁判決参照)

 

・控訴人は、期待回収率が100%を超える馬券を有効に選別し得る独自のノウハウに基づいて長期間にわたり多数回かつ頻繁に当該選別に係る馬券の網羅的な購入をして100%を超える回収率を実現することにより多額の利益を恒常的に上げていたものであり、このような一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するということができる

 

・別件最高裁判決に係る別件当事者が馬券を自動的に購入するソフトを使用する際に用いた独自の条件設定と計算式も、期待回収率が100%を超える馬券を有効に選別し得る独自のノウハウといい得るものであり、控訴人と別件当事者の馬券の購入方法に本質的な違いはないものと認められる

 

・したがって、本件競馬所得は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」として、一時所得ではなく雑所得に該当する

 

・本件においては、控訴人の馬券の購入の実態は、前記のとおりの大量的かつ網羅的な購入であって、個々の馬券の購入に分解して観察すべきものではなく、外れ馬券を含む一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するのであるから、的中馬券の購入代金の費用のみならず、外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の費用が、的中馬券の払戻金という収入に対応するものとして、同法37条1項の必要経費に当たると解するのが相当である(前記最高裁判決参照)

 

などとして、税務署長の処分をいずれも違法な処分として取り消したため、納税者逆転勝訴判決となっています。

 

今回の東京高裁判決については、1審の地裁判決と事実認定や法律上の要件へのあてはめに差が出たため、異なる結果となったものと考えられます。

今後も、競馬所得に関する裁判がどの程度続くのかは良く分かりませんが、おおまかな判断基準はこれまでの裁判例で出てきているので、あとは主に、事実認定、当てはめの勝負になってくるということがいえるのではないかと思います。

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事業承継に伴う株価対策について(第1回)

所有財産の中に、上場していない同族会社の株式が含まれている会社のオーナーやその相続人にとって、その株式の評価額がいくらになるのかは、相続(相続税)の関係上、非常に重要な問題となることが多くあります。

中小企業、同族会社の非公開株式は、第三者への売却もままならず、換金が容易ではないうえ、実際には手放せないケースも多いにもかかわらず、会社の収益・財務状況によっては非常に多額の評価額がついてしまい、相続税が多額になったり、株式を集中的に相続せざるを得ない会社後継者が現金など株式以外の財産を十分に相続できないという事態が発生してしまうことが多々あるからです。

そこで、相続対策の一環としての非公開株式の株価対策(評価額低下のための方法)にどのようなものがあるのか、次回以降、簡単にご紹介していきたいと思います。

 

今回は、その前提として、まず相続税の世界で、株式評価がどのような方法で行われているのか、簡単にご説明しておきましょう。

非公開株式の相続税実務における評価方法は、相続税の財産評価基本通達(178以降)に詳しく定められています。これは通達ですので、この通達に従った評価額が絶対的に正しいというわけではありませんが、通達に従った評価額であれば税務署からは否認されなくなるため、実務上の基準となっているわけです。

この通達にしたがいますと、株式の評価は、類似業種比準価額方式、純資産価額方式、これらの併用方式、配当還元価額方式のいずれかによることになりますが、一般の事業会社において、株価対策が必要となるような、株主の中で支配的な地位にある株主の株式については、通常、およそ以下のような基準で評価されることになります。

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マンションの管理組合も納税をしなければいけないのか?

少し前に報道がされていましたが、マンションの管理組合が携帯電話の基地局設置や駐車場の第三者への貸出しなどで得た収入について税務申告をせず、後で税務署から申告漏れの指摘をされるケースが未だに多いようです。管理組合のメンバーが専門家ではなく、納税や申告をしなければならないことについて気づかないため発生するケースが多いようです。

この点に関して、国税庁のホームページでは、「マンション管理組合が携帯電話基地局の設置場所を貸し付けた場合の収益事業判定」、「マンション管理組合が区分所有者以外の者へのマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について(照会)」、「マンション管理組合の課税関係」などが参考になります。

 

マンションの管理組合は、「(公益)法人」である場合と、法人ではない「人格のない社団等」である場合がありますが、法人税法においては、いずれの管理組合も同じ扱いになり、両者とも収益事業による所得については法人税が課されることになります。収益事業以外による所得については法人税が課されない点も両者に変わりありません。

ここでいう「収益事業」とは、「政令で定める事業で継続して事業場を設けて営まれるもの」を指しますが、その「政令」(法人税法施行令第5条)では、不動産貸付業、駐車場業を含めてかなり幅広く収益事業の範囲が定められています。

そのため、例えば、マンションの駐車場がマンション居住者専用であれば収益事業に含まれませんが、居住者以外の第三者に有料で貸し付けている場合は収益事業に当たり、その収入は法人税の課税対象となります。

 

また、消費税についても同じような結果となり、居住者以外の第三者に有料で貸し付けている場合の収入は消費税の課税対象となります(ただし、基準期間の1年間の収入が1000万円以下であれば、納税義務は免除されます。)。

 

したがいまして、マンションの管理組合でも、上記のような場合には、法人税(や消費税)の申告や納税をしなければなりません。なお、管理組合が(公益)法人である場合には、収益事業をしていない場合でも、住民税は均等割りについては申告、納付をしなければならないのが原則です(減免がある自治体もあります)。

 

申告漏れがあった場合の加算税等のさらなる負担を考えると、ぜひとも申告漏れがないようにしたいですね!

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税務調査の結果説明に違法があっても課税処分の取消事由とならないとする裁決

本日は、調査結果の納税者に対する説明に欠陥があったとしても、原処分の取消事由とはならないとした国税不服審判所の平成27年5月26日裁決をご紹介します。国税不服審判所はこの件で、従来よりも一歩踏み込んだ解釈やあてはめを行っているのではないかと思われます。

今回の裁決は、法令解釈として、税務調査の手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないが、国税通則法は、更正処分、決定処分、再更正処分等について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される(と従来どおりの解釈を示したうえで)、他方で、証拠収集手続自体に重大な違法がないのであれば、課税処分を調査により行うという要件は満たされているといえるから、仮に、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の手続に重大な違法があったとしても、課税処分の取消事由となるものではないと解される、と(従来よりも一歩踏み込んだ判断を)しています。

そして、納税者は、今回の調査において、納税者に対する国税通則法所定の調査結果の説明が行われていないことは違法である旨主張するが、証拠収集手続に違法があるとは認められない本件においては、証拠収集手続に影響を及ぼさない手続である調査結果の説明に仮に瑕疵があったとしても、今回の課税処分の取消事由とはなり得ない旨の判断をしています。

 

この裁決の判断によれば、調査結果の説明という手続きについては、証拠収集手続に影響を及ぼさないものであり、仮に重大な違法があったとしても(全く説明がなかった場合も含まれるのではないかと思われます)、その調査をもとになされた課税処分は取り消されることはあり得ないことになります。

調査結果の説明という手続きは、納税者の権利保護のために国税通則法の改正によって設けられた制度ですが、その説明がきちんとされずになされた課税処分が取り消されるのかという点について、いずれ消極的な判断がなされるだろうと考え、以前にもそのようなブログ記事を書いておりましたが、私が思っていた以上に明確な(極端な?)法令解釈、あてはめがなされたな、というのが正直な感想ですね。

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金地金が相続財産に含まれないとした審判所の裁決

本日は、相続税の処分を受けた納税者側の主張が認められ、処分が全部取消された国税不服審判所の平成27年5月8日裁決のご紹介です。

この裁決の詳細は、審判所のHPに記載のとおりです。

この事案で、国はおよそ、本件の被相続人が金地金(きんじがね)を取得した以後、①相続開始日の3年前頃は被相続人が多数の金地金を保有していたこと、②金地金の取扱業者等に対する売却の事実がないこと、③相続人等への金地金の贈与の事実がないことから、被相続人が金地金を売却した可能性が著しく低く、かつ、被相続人が金地金の贈与をした事実はないと推認されるから、相続開始日において、被相続人又は審査請求人の管理下には金地金が存在した、したがって金地金は相続財産である、というような主張をしていました。

 

しかしながら、審判所は、上記①から③までの事情は、相続開始日に金地金が被相続人の相続財産として存在したと認めるには十分とはいえず、他に原処分庁の主張事実を認めるに足りる証拠はないから、金地金は、請求人が取得した相続財産であるとは認められないとの判断をしたのです。

 

私も、過去にあるものが故人の財産として保有していたというだけでは、その後財産から外れたり、形を変えている可能性が多分にあり、これを完全に排除できないかぎり相続財産と認定することはできないだろうと思います。また、相続財産であると認めるためには、あくまで相続開始時に故人の財産として現存していたことを相当程度直接的に推認させる証拠がなければならないのではないかと思います。

今回の審判所の裁決の判断は、とても簡潔ですが、明瞭なもので、かつ経験則にも沿ったものだと思います。

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会社が役員に債務免除をする場合に源泉徴収をしなければならないのか?

今回は、平成27年10月8日最高裁第一小法廷判決のご紹介です。

 

この件は,平成19年にある青果荷受組合が理事長に対する48億円あまりの債務を免除したところ、税務署長がこの債務免除による経済的利益は理事長に対する賞与に該当するとして、源泉所得税18億円余りの納税告知処分などを組合に行ったのに対して、組合がその取消しを求めて争ったというものです。

最高裁は、理事長の債務免除益が同人に対する「給与等」(所得税法28条)に該当しないから組合に源泉徴収義務はないとした広島高裁の判決(納税者勝訴判決)を覆し、再び広島高裁に事件を差し戻す判決をしました。 

この広島高裁の判決については、このブログでも以前ご紹介し、結論的には合理的な判断であるように思われると記載しておりましたが、この度、最高裁は、「所得税法28条1項にいう給与所得は、・・・雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付をいう」、「同項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与とは、上記の給付のうち功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与される給付であって,その給付には金銭のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれる」とし、「本件債務免除益は、・・・雇用契約に類する原因に基づき提供した役務の対価として、被上告人から功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与された給付とみるのが相当である。したがって、本件債務免除益は、所得税法28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に該当する」として、「給与所得」や「賞与」の文言に関するこれまでの判例どおりの判断を行い、債務免除益が「給与等」に該当するものとして、広島高裁の判決を覆しております。

 

もっとも、最高裁も、「本件債務免除当時にAが資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であったなど本件債務免除益を同人の給与所得における収入金額に算入しないものとすべき事情が認められるなど、本件各処分が取り消されるべきものであるか否かにつき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」と言っていますので、本件の債務免除益は所得税法28条の「賞与又は賞与の性質を有する給与」には該当するけれども、「債務免除当時にAが資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であったなどの収入金額に算入しない事情」があるとなれば、そもそも所得税法36条の収入金額がないとして本件の処分が取り消されえることを前提として、高裁に差し戻しをしているといえます。なお、この部分の最高裁の判断は、同様の定めである所得税法基本通達36-17や、その後平成26年4月1日に施行・新設された同趣旨の所得税法44条の2の存在を強く意識したものといえます。

 

広島高裁としては、「債務免除当時にAが資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であった」ことなども考慮して、実質的に「給与等」に該当しないと判断をしたつもりだったかと思いますが、最高裁は、これまでの所得税法28条の「給与等」「賞与」に関する判例・実務の考え方に加えて、所得税法36条の収入金額に関する通達での例外的取扱い、さらには所得税法44条2の新設といった経緯もあるため、これらの整合性を取るため、本件では、「給与」「賞与」に該当するとしつつ、収入金額に算入しないものとするみちを後に確保することによって、整合性と妥当な結論を導こうとしたのではないかと考えられます。

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遺言書があっても、それと異なる内容の遺産分割をすることができます

遺言書がある場合、法定相続人や受遺者らが話し合い、遺言書と異なる内容で遺産分割協議をすることができるのでしょうか。また、相続税以外に贈与税までかかったりしないのでしょうか?

一般的には、自分の権利を譲渡したり放棄することは自由であるため(私的自治の原則)、法定相続人や遺贈を受けた者(受遺者)らが全員同意するのであれば、(遺言にしたがって取得する権利を放棄した上で)改めて遺言書と異なる内容の遺産分割をすることも可能です。税務上も、遺言書による相続とは別の贈与、譲渡、交換などがあったものと認定して、相続税に加えて贈与税や所得税がかけられる可能性は低いといわれています。

ただし、以下のとおり、遺言執行者がいる場合には、状況が若干異なり、税務上も注意が必要となります。

遺言書で指定された遺言執行者が就任し、または家庭裁判所に遺言執行者が選任されると、相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の行為をする権利義務が遺言執行者に帰属します(民法1012条)。また、『遺言執行者がある場合』(※遺言書で執行者として指定を受けた者が「就任を承諾する前」もこれに含まれますが、「就任を承諾しなかった場合」はこれに含まれません。)には、相続人は、相続財産の処分その他遺言執行を妨げる行為ができないとされていますので(民法1013条)。そのため、遺言執行者がいる場合には、相続人らは遺言書と異なる内容の遺産分割協議はできないのではないか(無効となるのではないか)、という点が問題となります。

 

ですが、以下のような場合には有効となると考えられております。

①遺言執行者が遺言書と異なる内容の遺産分割協議について同意、追認した場合

遺言執行者は、遺言書の内容をそのまま実現できない場合やそれが適当でない場合には、遺言の趣旨を害さない範囲で相続人らと協議し、修正した内容で執行することもできるため、遺言執行者が同意、追認した場合には、その遺産分割協議も有効とされています。

②遺言の内容が特定の財産の遺贈(特定遺贈)である場合

特定遺贈については受遺者がいつでも放棄できるので、受遺者の遺贈放棄によって、遺言執行者において特定遺贈の執行ができなくなり、遺贈の対象となった財産は相続人らが共有する遺産に復帰し、改めて相続人らの遺産分割協議の対象となるため、遺言書と異なる内容の遺産分割協議をしているように見えても、遺言執行者の権限を妨げることにならず、有効となります。

(また、以上のような場合でなくとも、そもそも個人間での交換や贈与は当然自由なので、遺言執行者の同意、追認なしに遺産分割協議をしても、③遺言の内容を事後的に変更したものとして、その遺産分割協議が有効になる余地がある、ともいわれているようですが、この点は明確ではありません。)

 

税金面では、以下のように考えられるのではないかと思います。

①の場合、遺言執行者がいない場合(の「遺言書と異なる内容の遺産分割」)と状況があまり異ならないので、相続税に加えて贈与税や所得税がかけられる可能性は高くはないと思われます。

②の場合には、遺贈の放棄後、相続人らの遺産分割協議によって相続人らは遺産を取得したことになるので、相続税以外に贈与税や(譲渡)所得税が課される可能性は低いと思われます。

その他の場合には、税務署が、遺言執行者がいる限り遺言と異なる内容の遺産分割協議はできないので、それは「遺産分割協議」ではなく、遺言による相続後に「別個の交換、贈与」がなされたものと理解して、相続税に加えて、贈与税や所得税がかけられる可能性が理論上あることは否めないのではないかと思われます。税務署には、どのような結果で遺産が分割されることになったとしても、相続税の総額がきちんと支払われるなら厳密な法律論はあえて気にしない、それに加えて贈与税や所得税を重ねてかけたりはしない、という実務感覚があるように思いますが、上記のような課税の可能性が理論上はあることに一応ご注意を!

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信用不安のある会社の株式の譲渡時期にご注意を

一般的に、個人が所有する純粋な資産(非事業用資産)に損失(家事損失といいます。)が発生した場合であっても、所得税の計算上、家事損失を、個人の収入から必要経費として控除することができないため、(雑損控除の点を除けば)所得税の額を安くおさえることができるわけではありません。

では、破綻等により価値の下がった株式を第三者に低額で譲渡して、譲渡損失が発生したものとし、他の株式の譲渡収入等と通算することによって、全体的な所得税の額を低く抑えることができるのでしょうか?

今回ご紹介するのは、その点に関する東京地裁平成27年3月12日判決です。

この件は、平成22年9月に破綻した銀行の取締役兼代表執行役であった原告が、同年10月20日に、保有していた同銀行の株式3100株を1株1円で税理士に譲渡し、譲渡所得の金額の計算上損失が生じたとして平成22年分の所得税の確定申告をしたところ、税務署長から更正処分を受け、これを争った事案です。

 大まかに言うと、東京地裁は、

  1. 所得税法33条1項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」には、一般にその経済的価値が認められて取引の対象とされ、増加益が生じるような全ての資産が含まれるが、増加益を生じ得ないもの、すなわち、社会生活上もはや取引される可能性が全くないような無価値なものについては、同項の規定する「資産」には当たらないものと解するのが相当である。
  2. 株式は、株主の①利益配当請求権等の「自益権」や②株主総会における議決権等の「共益権」を基礎として、一般に経済的価値が認められて取引の対象とされ、増加益の生ずるような性質のものとして、譲渡所得の基因となる「資産」に当たる。
  3. 株式譲渡の時点で一般的に①自益権及び②共益権を現実に行使し得る余地を失っていた場合には、後に権利を現実に行使し得るようになる蓋然性があるなどの特段の事情が認められない限り、株式としての経済的価値を喪失し、増加益を生ずるような性質を有する譲渡所得の基因となる「資産」には該当しないものと解するのが相当である。
  4. 本件では、①同銀行が本件株式譲渡の前後を通じて極めて多額の債務超過状態に陥っており、配当等を行う余地はなかったことからすると、同銀行の株主は、本件株式譲渡の時点において、自益権を現実に行使し得る余地はなく、また、②金融整理管財人による管理を命ずる処分がされた時点において、株主は共益権を現実に行使し得る余地を失っており、後にこれらの権利を現実に行使しうるような蓋然性もなかったから、本件株式は、譲渡所得の基因となる「資産」には該当しない

というような判断をしました。

 

もともと「資産」であったものが、後にある時点から「資産」ではなくなってしまい、譲渡損失の計上ができなくなってしまう(~他の株式の譲渡益等と通算することができなくなる)、という点に違和感を覚える方もいらっしゃるかと思いますが、譲渡所得に関する今回の判決の考え方は比較的一般的なものだと考えられます。千葉地裁平成18年9月19日(東京高裁平成18年912月27日、最高裁平成20年5月30日)判決でも、同じような判断がされております。

たしかに、一般的に資産に関して発生した家事損失については、所得税の計算上、個人の収入から必要経費として控除することができない(※この前提自体に是非はあると思いますが。)はずなのに、第三者に低額で譲渡してしまえば、譲渡損失の計上によって所得税の額を全体的に抑えることができる、というのは奇妙な結論のようにも思われます。

したがいまして、今回の判決の考え方、結論は相当なのだろうと思います。

 

そうすると、信用不安のある会社の株式については、その譲渡時期、つまり自益権・共益権が現実的に行使できる可能性があるうちに株式を譲渡できるかどうかが、大変重要であり、自益権・共益権が現実的に行使できる可能性がなくなった後に譲渡をしても、譲渡損失は計上できない、ということを押さえておく必要があると思われます。


皆さんも信用不安のある会社の株式については、早めの売却処分を検討してみてはいかがでしょうか。

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相続、事業承継セミナーの講師をします!

10/14,10/28の2日間にわたって、南納税協会主催の相続、事業承継セミナーの講師をつとめさせて頂きます!

場所は大阪社会福祉会館です。


計6時間の長時間ではありますが、私と相続税などの資産税が専門の税理士(国税OBの方です)の二人でやらせて頂くので、なんとか飽きずに聞いて頂けるかと思います。


14日分はレジュメの作成も何とか終了しました。28日分も今から作成しないと! 

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個人が会社に物を高く買ってもらうと、一時所得が発生することがあります

今日は、東京高裁平成26年5月19日判決のご紹介です。

この判決の事案は、以下のようなものです。納税者(個人)は、上場のA社株式を、B社に対して、平成21年3月に一部を、11月に残りを、いずれも1株当たり550円で売却し、株式の譲渡代金全額を譲渡所得として申告をしました(ある意味では普通のことですね。)。

ところが、税務署長は、譲渡代金とA社株式の市場の終値(3月譲渡時290円、11月譲渡時426円)を基に算出した評価額との差額合計約3億3000万(B社が終値よりも高く買い取っていた部分)は、B社から納税者に贈与されたものなので、納税者の一時所得に該当する(譲渡所得ではない)として納税者に更正処分をしたのです。

補足ですが、一般に、個人が法人から受けた贈与については、一時所得に当たると理解されており(贈与税は個人が個人から贈与を受けた場合にのみ課されます。)、上場株式の終値(時価)と実際の売買単価との差額部分については、贈与があったものと評価されるので、差額部分が一時所得になる、という理屈です。

 

結論としては、高裁も地裁と同じく納税者側敗訴の判断となっていますが、私が改めて思ったのは、本来、物やサービスの値段は当事者間の交渉で決定してよいのであって、そうして決まった金額は全て物やサービスの対価といえるはずですので、必要以上に税務署が今回のような課税をすることは避けるべきではないか、ということです。

ただ、この件については、(1)純粋な第三者間の取引ではなく(納税者はB社の実質的なオーナーのようです。)譲渡代金が合理的に決定されたか疑問があることや、(2)取引の対象が上場株式で、時価の明確な指針となる金額があり、売買単価との差額もかなりあったことで、今回のような課税処分、ひいては地裁・高裁の判断がされたものだと思いますので、今回の判決の内容について違和感があるわけではありません。

 

個人としては会社に高く買い取ってもらえるのはうれしいことでしょうが、代金が時価よりも高いと、一時所得が発生したとして多額の税金を納めないといけない場合がある、ということは覚えておいた方が良いかもしれません。

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競馬所得に関する後続の別件の判決! 東京地裁H27.5.14

本日は、東京地方裁判所平成27年5月14日判決のご紹介です。


さて、「当たり馬券の払戻金が所得税法上の一時所得か雑所得か」、「外れ馬券の購入代金が必要経費に該当するか否か」が刑事事件及び民事事件で問題となり、最高裁が刑事事件についてH27.3.10に判決を出したのは、記憶に新しいところだと思います。今回の東京地裁の判決もこの最高裁の事案と争点はほぼ同じですが、全く別の当事者の事案に関するものです。

先例である最高裁H27.3.10判決は、馬券を自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定等に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に網羅的な購入をして、当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げるなどしていた本件事実関係の下では、払戻金は所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たり、外れ馬券の購入代金は,雑所得である当たり馬券の払戻金から所得税法上の必要経費として控除することができる、などと判断をしていました。

今回の東京地裁の判決は、この最高裁の事案と争点こそほぼ同じですが、要約すると以下のとおり認定、判断しており、結論も棄却(納税者の主張が認められない)、と最高裁の事案とは異なった結果となっている点が注目されます。

 

(東京地裁の判決の骨子)

  • 原告は、数年間にわたり、各節当たり数百万円から数千万円の馬券を継続的に購入していたところ、多いときには1億円を超えており、平成17年から平成22年までの総額は約72億円、払戻金の総額は約78億円、総額5億円超の利益を得ていた。
  • 原告は具体的な馬券の購入を裏付ける資料を保存していないため、原告が陳述する方法で馬券を購入していたかについては、客観的な証拠がなく、認めることができない。
  • 原告の主張によれば、原告はコンピュータソフトを使用して自動的に馬券を購入していたわけではなく、規模の点を別にすれば、その馬券購入態様は、一般的な競馬愛好家による馬券購入の態様と質的に大きな差があるものとは認められない。
  • 競馬は公営賭博で、そもそも馬券購入は営利を目的とする行為とはなり難い性質のものであるところ、原告が数年間にわたって各節に継続して相当多額の馬券を購入し、結果的に多額の利益を得ていたことのみをもって直ちに、本件競馬所得が営利を目的とする継続的行為から生じた所得(※雑所得)に該当するものと認めることはできない。
  • 以上のとおりであるか、本件競馬所得は、一時所得に該当する。

 

 

予想されていたことではありますが、競馬所得の事件については、事案の事実関係によってやはり結論が大きく異なってくるということがいえるでしょう。また、かえって最高裁H27.3.10判決の事案は非常に特殊な事件であったこともよく分かると思います。

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「説明不足理由に課税を取り消し」東京国税不服審判所の裁決

東京国税不服審判所(平成26年11月18日裁決)が、相続財産の申告漏れを指摘して国税局が行った課税について、「課税理由を説明しておらず、違法だとして、約2億5千万円の追徴課税を取り消していたことが分かった」、「説明不足が原因で課税が取り消されるのは極めて異例だ」との新聞報道が先月あったのですが、皆さんご承知でしょうか。

課税理由の説明については、(1)不利益処分をする際に納税者にその理由を書面にて提示しなければならないという「理由付記」(なお、平成23年の国税通則法改正によって不利益処分一般に理由付記が求められるようになりました。)と、(2)調査の終了時に、調査の担当者は、更正決定等をすべきと認める場合には、納税者に調査結果の内容(金額及びその理由)を説明しなければならないという「調査結果の内容説明」(平成23年の国税通則法改正によって新設された国税通則法74条の11・2項)、の2つの制度があります。

前者の「理由付記」については、書面でなされ、裁判実務上、これを欠くと違法な処分として取り消されることとなっておりました。実際、これまでに理由付記を欠いた処分が取り消された裁判例、裁決例はいくつかあります。

他方、後者の「調査結果の内容説明」については、必ずしも書面でなされるとは限らず、むしろ税務署側は原則として口頭での説明としており、また、これを欠いた場合に裁判で処分が違法として取り消されるのか、それとも単なる手続的違法であって処分が取り消されることはないとされるのか、あるいはごく例外的な場合に限って処分が取り消されることになるのか、がまだ明確ではないという状況にあると思われます。なお、この点については、以前「税務調査終了時の調査結果の内容の説明が不足だったら処分は違法になるのか?」という関連記事を書いております。

 

詳しい内容は裁決の内容を見れていないのでよく分かりませんし、今回の報道では、この事案が上記の「理由付記」が問題となったものなのか、「調査結果の内容説明」も問題となったものなのかなどが必ずしも明確ではないですが、いずれにせよ、今回の裁決で課税の処分が取り消されたとしても、国税局は再度理由を説明した上で改めて課税の処分を打ち直せば良いということになってしまうのではないかと考えられます。

結局のところ、この裁決は、上記のような国税通則法の平成23年改正の趣旨を踏まえて、審判所が課税の現場に向けて改めて警鐘を鳴らしたところに意味があるのではないかと思います。

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限定承認、本当にしますか? まずは法律と税金の専門家にご相談を。

親は財産をある程度残してくれているけど、財産を上回る借金があるかもしれないとか、多額の保証債務があるが将来支払いを請求されるかどうかは分からないというような場合なら、限定承認をすれば良い、そんなアドバイスを聞いたことはありませんか?

もちろん、まちがったアドバイスというわけではありますが、実際に限定承認するかどうかは一度よく考えてからの方が良いかもしれません。限定承認には注意すべき点がいくつもあり、一般の方がイメージする手続きと異なっていたり、専門家の手助けなしに実行するのが簡単ではない場合があるからです。

 

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大阪弁護士会で「国税事件のイロハ」と題する研修の講師をつとめました

さる平成27年3月12日、大阪弁護士会で「国税事件のイロハ」と題する弁護士向けの研修(2時間)の講師を、国税不服審判所で同僚だった弁護士と一緒につとめてきました。ある意味マニアックなテーマなのですが、私の予想よりも多くの方々にご参加頂きました。参加して頂いた先生方、ありがとうございました。

内容は、国税事件についての基本的なこと(不服申立の流れ、審査請求事件の進め方など)をご説明し、次に納税者が勝訴したごく最近のものを中心に裁判例・裁決を3つ(理由付記、寄附金、重加算税)ほどざっくり紹介し、最後は国税通則法の最近の改正についてご紹介するといったものです。

さて、こういった研修は準備が大変なので普段は積極的に行っておりませんが(今回は元同僚からのお声がけということもあってお手伝いさせて頂きました。)、基本的なところの整理になるので、よいものですね(一年に一度くらいが丁度良いかもしれません)。

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ただ単に登記を遅らせても固定資産税は免れない!

今回は固定資産税に関するH26.9.25の最高裁判決のご紹介です。

本来、固定資産税は、所有者に課されるべきものですが、課税上の技術的な理由から、地方税法は、登記簿や補充課税台帳に賦課期日(固定資産税の場合は各年の1月1日です。)現在の所有者として登記・登録されている者を納税義務者として課税するしくみを取っています。本件は、登記をするのを遅らせたら固定資産税は課されないのかどうかが問題になった事案です。

事実関係としては、本件の被上告人がH21.12に家屋を新築し、H22.10に被上告人を所有者とし、「H21.12.7新築」を登記原因とする表題登記がなされ、H22.12に被上告人に対して「平成22年度」の固定資産税の賦課処分がされた、というものです。

つまり、H22年分の固定資産税の賦課期日であるH22.1.1には被上告人は所有者として登記されていなかったにもかかわらず、被上告人は、平成22年分の固定資産税を課されたわけです。


被上告人はH22.1.1には所有者として登記されていなかったから、平成22年分の固定資産税の納税義務者ではないとして争ったのですが、最高裁は、地方税法等が登記・登録の時期について特に定めをおいていないことから、登記・登録は賦課期日の時点においてされていることを要するものではないなどとし、賦課期日の時点において登記・登録がされていなくとも、処分のときまでに賦課期日現在の所有者として登記・登録されている者は、その賦課期日の年度の固定資産税の納税義務を負うと判断し、被上告人の主張は認められませんでした。


要するに、ただ単に登記を遅らせても固定資産税は免れない!、ということですね。

皆さんもご注意を。

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競馬脱税事件、民事訴訟の1審でも納税者側が勝訴しています

少し前のことですが報道によれば、いわゆる競馬脱税事件に関して、大阪地裁は先月2日、納税者が総額約8億円の課税処分の取消しを求めた民事訴訟(行政訴訟)において、納税者の主張を認め、納税者の馬券購入による所得は雑所得に該当し、ハズレ馬券の購入代金はその必要経費に当たるとして、課税処分の大部分を取り消す判決を言い渡した模様です。

判決文の内容を見れていないので、詳細なコメントはできませんが、刑事裁判でも1審・2審と納税者側が実質勝訴しており(現在は最高裁に係属中)、民事でもその流れに乗って、同様ないし類似の理由で今回の判決が出されたものと思われます。もっとも、国側はこの判決に対して控訴しており、少なくとも刑事事件の最高裁判決で明確な判断が示されるまでは、国は逆転を狙い全力を上げてまだ争うのだろうと予測されます。

ところで、この件に関して個人的に前から気になっていることがあります。

それは、今回の納税者は本業・勤務先があって副業的に競馬をしていたようで、そのために競馬の当たり券の払戻金が雑所得か一時所得かという形で裁判で争われているのですが、仮に納税者が本業の仕事を辞めて競馬の払戻金のみで暮らしていた場合には、この納税者の得た払戻金は一時所得や雑所得ではなく事業所得に当たると認定される余地があるのではないかという点です。また、仮にこの納税者が法人として競馬をしていた場合には(※合法的に法人化できるとした場合の話ですが。)、ハズレ馬券の購入代金も法人の経費、損金として認めざるを得ないことになるのではないのかという点も気になっています。

さて、これらの点についてはどうなるのでしょうね。

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役員に対する債務免除が税務上の給与に当たる場合、当たらない場合

今回ご紹介するのは、役員に対する債務免除によって役員が得た経済的利益が賞与に当たるとして税務署長がした源泉所得税の納税告知処分を取り消した、平成26年1月30日の広島高裁岡山支部の判決です。

法人が役員に対して債務免除をした場合に、債務免除による経済的利益の供与が税務上の「給与等」(※一般的な給与の概念よりも広く、雇用契約・委任契約などに基づいて役務の対価として支給されるもの全般を含みます)に該当するとなると、役員らにおいては、所得税や住民税の申告漏れが発生し、法人においても、その給与等の支払いが通常損金とならないほか、その給与等に対する源泉徴収漏れがあることになるなど、課税上重い負担が発生する場合があります。

一般的な感覚からすると、役員に対して債務免除をするときに、源泉徴収をしなければならないというのは、やや現実的ではないようにも思われますが、こういった税務上の扱いは認められているところですので、やむを得ないところです。

 

今回の裁判の概略は、平成19年にある青果荷受組合が理事長に対する48億円あまりの債務を免除したところ、税務署長がこの経済的利益を理事長に対する賞与と認定し、源泉所得税18億円余りの納税告知処分などを組合に行ったのに対して、組合がその取消しを求めて争ったというもので、広島高裁岡山支部は1審と同じく、組合の主張を認めて処分を取り消しました。

その理由としては、理事長はバブル崩壊後、貸付金の返済に窮して、平成2年以降、債務免除及び利息の減免を希望し、組合は利息を減免してその支払を受けていたこと、理事長の課税処分についての過去の異議決定(※税務署長への異議申立てに対する税務署長の決定です)において、平成17年の債務免除について理事長に資力がなく債務の弁済が著しく困難になっていたと判断されていたこと、その後も理事長に資産の増加がなかったこと、その状況下で平成19年の債務免除がなされた事実経過からすると、債務免除の主たる理由は理事長の資力喪失により弁済が著しく困難であることが明らかになったためであって、債務者が役員であったことが理由と認めることができないことから、平成19年の債務免除は、役員の役務の対価ではなく、「給与等」に該当するということはできないというものです。

 

個人的には、判決文を見る限り、本件の債務免除が「給与等」に該当しないとの判断はそれなりに合理的なものであるように思います。

皆さんも、税務署から給与等の認定をされそうになったときに、本件と類似の事情がある場合には、強く主張してみられてはいかがでしょうか。

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ロータリークラブの会費を経費にしている方はご注意を!

ロータリークラブの会費を必要経費で落としている、そんな方は意外と多いのではないでしょうか。

通常の個人事業者の感覚で行くと、ロータリークラブに入るのは、自分の仕事のお客さんになってもらえる会員を探したい、会員から仕事の紹介を受けたい、仕事に使える人脈を増やしたいなど、仕事が主な動機になっていることも多いと思います。そのため、当然会費は経費だと考える人も多いでしょう。

ですが、税務署は公的にはロータリークラブの会費を事業所得などの必要経費として認めてくれないことが多く、国税不服審判所の裁決でも必要経費と認めない税務署の主張が繰り返し認められております。平成26年3月6日付の裁決でもやはり同じく納税者側の主張が認められておりません。

 

ところで、東京高裁平成24年9月19日判決は、弁護士の弁護士会等の活動に関連する懇親会費や選挙費用について、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出であれば必要経費に該当するとの解釈を示した上で、「弁護士会等の活動は、弁護士に対する社会的信頼を維持して弁護士業務の改善に資するものであり、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係するとともに、会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことにより成り立っているものであるということができるから、弁護士が人格の異なる弁護士会等の役員等としての活動に要した費用であっても、弁護士会等の役員等の業務の遂行上必要な支出であったということができるのであれば、その弁護士としての事業所得の一般対応の必要経費に該当する」、「これらの懇親会等が特定の集団の円滑な運営に資するものとして社会一般でも行われている行事に相当するものであって、その費用の額も過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解するのが相当である。」とし、費用の額が過大であるものや二次会に出席した費用等を除き、必要経費に当たるとする弁護士の主張を認め、また日弁連副会長に立候補するために選挙規定に基づいて支出した費用についても弁護士の主張を認めて必要経費と判断しました(最高裁は上告を受理せず、この判決は確定しています。)。弁護士の事業所得の必要経費に関する最近の判決として取り上げてみましたが、広く報道されたものですので、ご存じの方も多いでしょう。

 

では、ロータリークラブの会費が弁護士会の活動費と同じように、裁判で必要経費に当たると判断されることになるのかという点ですが、ロータリークラブの会費と弁護士会の活動費を比較してみたとき、会が公的な存在であるか否か、納税者の本業たる事業と会の活動内容との関連性の高低などの点において、かなりの差があるように思います。そうすると、実際にロータリークラブのメンバーからの紹介事件が複数あるというような場合でないと、正面からロータリークラブの会費を必要経費と認めてもらうのはなかなか難しいのかもしれません。

皆さん、ロータリークラブの会費の取扱いにはご注意を!

 

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税務調査終了時の調査結果の内容の説明が不足だったら処分は違法になるのか?

国税通則法74条の11《調査の終了の際の手続》の2項は「国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。 」と規定し、その3項は、「前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。」と規定しています。

さて、この「調査結果の内容(更正決定等の額及び理由)の説明」は、実務上主に口頭でなされているのですが、どの程度説明をしなければならないのか、仮に説明が不足であった場合に、更正決定等の処分が違法となるのか、という点が問題になります。


この点に関して、先日、国税通則法の改正に関する研修を受けた際、(1)処分の際の理由附記が不十分であれば処分はそれだけで違法になること、(2)手続きの違法は処分の取消理由になる(場合がある)ことなどから、調査結果の内容の説明が不足していればその後の更正決定などの処分が違法になるかのような意見を耳にしたのですが、果たしてそうなのでしょうか。

(2)については、これまでの裁判例をみると、むしろ、基本的には調査手続の違法性は後の処分の違法性を導かないとされることが多く、刑罰法規に反するなどの重大な違法がある場合や、調査手続がなされていないと同視できるような場合に限り、処分の違法性をきたすと判断されてきたところです。この点については、以前の記事「国税通則法の改正について」もご参照下さい。今後、通則法改正の趣旨から、この点の判断基準が大きく変わることがあるのでしょうか・・・?

そもそも、上記の「調査結果の内容説明」は、税務調査の内容・結果を納税者に知らせて、納税者に修正申告・期限後申告をすべきか、それとも今後なされる税務署長からの処分を受け(て不服申立てをする)のかを判断するのに足りる材料を提供するとともに、税務調査の正当性を担保することが目的ではないかと思われます。それに、実際の税務署長の処分に際しては改めて書面に理由が附記されることが予定されていることからすると、調査終了段階で口頭においてなされる「調査結果の内容説明」は、主に「納税者が自ら修正申告等をするのか、税務署長から処分を受け(て不服申立てをす)るのか判断するに足りる程度」の説明があればよいのであって、求められている説明の程度・精度が、処分の際になされる理由附記の場合(納税者が処分を受け入れるのか、争うのかを判断できる程度の記載が求められます。)と比べると、やや低くくても(あるいは低い場面があっとしても)、おかしくないという気がしますし、この内容説明が不足していた場合でも、裁判において、この調査終了の際の手続的な違法を理由に処分自体が違法と判断される可能性がどの程度あるのかは疑問だと思います。

 

もちろん、私も、「調査結果の内容説明」の制度は、納税者が早い段階で処分の理由を明確に把握し、今後の対応についての判断材料が得られるという点で、実務上は有益なものだと認識しているわけですが、仮にこれが不足していたとしても、処分の内容や理由附記が正当なものなのであれば、調査結果の内容説明の不足を理由に処分の取消しを求めて争うのは得策ではない、と考えているわけです。


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平成26年の国税通則法改正で、審判所の証拠の閲覧・謄写が拡充されます

本年平成26年の国税通則法改正では、国税の不服審査の手続きについて、(1)不服申立期間を2月から3月に延長したり、(2)国税不服審判所において、審判官が職権で調査して収集した資料も含めて、関係人が審判所にある物件の閲覧又は写しの交付(謄写)を求めることができるようになるなど、実務上も重要な点の改正がいくつか行われています。なお、この改正は、改正行政不服審査法 (平成26年法律第68号)の施行日(公布日である平成26年 6 月13日から 2 年を超えない政令で定める日)から適用されることになっております。

今回はこれらの改正のうち(2)について思うところを書いておきます。

まず、改正前は、謄写請求が全く認められていないこと(閲覧のみであるため、当事者は長時間かけて書き写すなどの対応を取らざるを得ないのです。)、審判官の職権収集証拠は対象となっていないこと(なお、処分庁からしても、従前閲覧すらできなかった請求人の提出証拠について閲覧・謄写請求ができることとなりました。)からすると、(2)の改正は大きな前進だといえます。

もっとも、法令の文言上は、担当審判官の質問に対する当事者や関係人の陳述を記載した質問調書は相変わらず閲覧・謄写請求の対象外となっている点では、やはり当事者の立場からすればまだ不十分なのかもしれません(担当審判官の運用で、閲覧等に応じることは違法ではないように思われますが)。なぜなら、この調書の内容が議決・裁決の重要な根拠となる場合があるにもかかわらず、関係人に反論、釈明の機会が得られないまま議決・裁決がなされてしまうことがあるからです。もっとも、この点については、行政不服審査法案の可決の際に、今後検討を行う旨の附帯決議がされていますので、国税通則法についても、近い将来改正が実現する可能性が残されています。

 

次に、今回の改正の影響として、以前と比較すると審判官が得られる証拠が事実上減少してしまう可能性もあるのではないかと思われます。どういうことかというと、審査請求人らが閲覧謄写をした結果、証拠提出の事実や証拠の内容を審査請求人らに知られる可能性があるとなると、審判官の職権調査を受ける者としては、容易に物件の提出要求に応じずに、できるだけ最低限のものに絞ろうとする場合があるかもしれないからです。本来はそれもおかしな話だと思いますが、審判官に質問検査権があるといっても事実上の限界があるため、こういった影響が実際に出てくる場面があるのではないかと考えられるのです。

他方で、従前は審判官の職権収集証拠であれば審査請求人に閲覧もされなかったため、証拠の保持者が進んで証拠の提出を行わず、審判官による職権収集を待つという現象があったのかもしれませんが、今後は職権収集証拠も閲覧謄写の対象となるため、そういった現象は少なくなるものと思われます。

 

以上のとおり、(2)の改正が実務に与える影響は決して小さくないものと思います。


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意外な課税(2):離婚の際に不動産を財産分与した方が納税をしなければならない場合がある!

 さて皆さん、離婚の際に不動産を財産分与した場合、税金はどうなるでしょうか?分与を受けた側が贈与税を納めることになるのでしょうか?

 

いいえ、正当な財産分与であれば財産分与を受けた側は贈与税を収める必要はありません(不動産取得税や登録免許税はかかります。)。むしろ、財産を分与した人に譲渡所得が発生し、所得税を収めなければならない場合があります。この点は勘違いをしやすいところですね。

財産分与をした人が不動産をその時の時価で譲渡したものとされ、譲渡による収入が取得価額や譲渡費用を超えて譲渡益が算出された場合には、譲渡所得が発生するため、所得税を納付しなければならないことになるのです。古くから持っている土地ですと、譲渡所得が発生する場合が比較的多いです。

なお、夫婦共有財産を離婚時に持分に応じて分割しただけでは譲渡があったものとはみないこととなっております。形式上一方の名義となっている共有不動産について、他方が不動産全体の分与を受けた場合は、分与した名義人の持分のみを他方に譲渡したものとして譲渡所得を計算することになります。

 

財産分与をすると譲渡所得が発生しそうな場合には、以下のような方法を検討する必要があると思いますので、税理士さんにご相談されたほうがよいでしょう。

所有期間5年を超える土地建物の譲渡については軽減税率が適用され、また離婚「後」に「居住用」の家屋等を分与する場合には、最大3000万円の特別控除やさらなる軽減税率の適用が受けられる場合があります。

また、結婚20年以上の夫婦間で、「離婚前」に居住用不動産又はその取得資金を贈与しておき、受贈者が贈与税につき2000万円までの配偶者控除(+110万の控除)を受ける方法もあります。

 

離婚の際の不動産の財産分与については、税金にもご注意を!

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意外な課税(1):贈与した側が贈与税を納付しなければならない場合がある!

さて皆さん、贈与税は基本的に贈与を受けた側が支払うもの、ですよね。

ところが、贈与を受けた側が贈与税の納付をしなかった場合には、なんと贈与をした人もその納税義務を負担することになってしまうのです。これを連帯納付義務といいます。

 

相続税法第34条《連帯納付の義務等》第4項は、「財産を贈与した者は、当該贈与により財産を取得した者の当該財産を取得した年分の贈与税額・・・に相当する贈与税について、当該財産の価額に相当する金額を限度として、連帯納付の責めに任ずる。」 と規定しているのです。

税の徴収のためとはいえ、贈与税の連帯納付義務という制度は一般人にはなかなか理解しがたい制度ですよね。しかも、弁護士としては、連帯納付義務については正面切っては争いようがないケースがほとんど、というのが正直なところです。

 

しかも、連帯納付義務の負担には贈与税の延滞税などの附帯税まで含まれてくるので、贈与後長年が経過して、贈与税の額が膨らんだ後に突然税務署から通知があって、贈与者がその全額について連帯納付義務の履行を求められることになりかねません。

ですから、贈与をするときには、贈与を受けた人が確実に納税をしたかをきちんと確認しておいた方が良く、場合によっては贈与時点で代わって納付した方が良い場合すらあります。不動産などの資産を贈与する場合に、納税資金の現金も合わせて贈与する方法をとられる方もおられます。

 

皆さんも、贈与税が発生する贈与をするときは、連帯納付義務についても考慮に入れておいて下さい!

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税理士バッジと弁護士バッジ

税理士バッジと弁護士バッジの写真

本日税理士会で税理士バッジを受領してまいりましたが、黒色の部分も多いのでずいぶんスッキリした感じのバッジでした。これならスーツにしていても全く違和感ないですね。

一方、弁護士バッジは、立体感があってかなりボリューム感がありますし、特に私の場合は昨年再登録したばかりで新しく金ピカなので、かなり目立ちます。税理バッジと比べるとその辺りがよく分かりますね・・・。

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税理士登録が完了しました!

2014年6月25日付で税理士登録が完了しました!

 

私は弁護士ですが税金関係の事件を取り扱う関係や、税務、税理士さんのことをもっと知りたいので、税理士登録をしました。これまでは「通知」という手続きをとって、事件処理の必要がある場合に大阪国税局関内において税務を取扱うことができるようにはしておりましたが、より広く税務を扱うことができるようになりました。

 

といっても、私自身が税金の申告業務の依頼を受けたりはしませんので、その点あしからずご了承下さい。申告については私の周りの税理士さんをご紹介させて頂きます。

私自身は今後も、あくまで税金紛争の処理・予防という形で、関与していきたいと考えております。

今後ともどうぞ宜しくお願いします!

 

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平成27年から相続税の発生件数が1.5倍に!相続税対策はすんでますか?

  前回の記事に続いて相続税の話題です。

 

  国税庁の「平成24年分の相続税の申告の状況について」というHPによると、この年の死亡者数約 126 万人のうち相続税の課税対象となった人の数は約5万2千人であり(その割合は 4.2%)、死亡者1人当たりの相続財産の価格は2億557万円であるとされています。

 さて、平成27年1月1日以降に開始した相続については、相続税の基礎控除額が従来の6割に大幅減少となります。

たとえば、妻と子供2人が相続人に当たるという場合、従来なら基礎控除額が8000万円だったのに、平成27年からは4800万円しかなくなりますので、相続財産が4800万円~8000万円ほどあるという方は新たに相続税が発生する可能性が発生したことになります。つまり、保有資産が、不動産が2500~3000万円、預貯金や株式などの金融資産が合計3000万円というような「多少生活に余裕のあるご家庭」の方であれば、相続税の負担が発生する可能性があることになってしまったわけです。 

  基礎控除額の大幅減少に伴い、上記の相続税の課税対象となる人の割合が4%から6%ほどに増えるといわれております。以前から比べると50%も増えるわけですが、他方で、全体の2%しか増えないのか、それなら自分は関係ないのではないかとお思いの方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、これまで一人あたりの相続財産の価格が2億円を超えていたということから分かる通り、今まで相続税がかかっていた層の人はいわゆる富裕層の人が多く、税理士さんと相談して相続税対策もそれなりにしてきた人が多く占めていました。

 これに対して、新たに相続税がかることになる方々には、自分たちは富裕層ではないと認識しておられる方や(プライベートでは)税理士さんとの付き合いがないという方が多いため、相続税対策の必要性の有無についてきちんと認識しておられない、あるいはある程度は認識していても実行を後回しにしている方がたくさんいらっしゃるように感じます。

 相続税対策をしておけばさきほどの2%に入らなくてもすむかもしれませんし、入るとしても不要な相続税を払わずにすむかもしれません。後になって後悔することにならないように、また安心して今後の生活を送れるように、相続税対策は急いでしておくべきでしょう。相続税は多分かからないと思うという方でも、税務相談をして確認しておくべきだと思いますし、相続税対策が必要な場合に一定の費用がかかったとしても、それに見合う以上の経済効果が得られるのが通常です。

 

 まずは専門家に相談をしましょう!

 

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相続税の調査はいずれやってくる!

国税庁のHPには「平成24事務年度における相続税の調査の状況」がのっています。

これをみると、「実地調査の件数は12,210件、このうち申告漏れ等の非違があった件数は9,959件で、非違割合は81.6%(平成23事務年度80.9%)となっています。」との記載が。

相続税がかかる件数が年間約50,000件ですから、かなり高い確率(約4分の1)で税務調査が行われ、しかも調査が行われてしまうと8割以上の確率で相続税の追徴が発生することになっていることが分かります!

しかも、このHPには「追徴税額(加算税を含む。)は610億円(平成23事務年度757億円)で、実地調査1件当たりでは500万円(平成23事務年度549万円)となっています。」とも記載されています。

先ほど8割以上の確率で追徴が発生すると書きましたが、その金額は税額にして500万円以上という恐ろしい結果が!

 

今回は特に平成24事務年度をあげて説明していますが、例年その状況はさほど変わらないといって良いと思います。

このような調査の状況からすると、いずれは相続税の税務調査を受けるんだという意識で臨むことが必要です。ですから、許容範囲を超えた極端・危険な相続対策はしないこと、相続財産を漏らさずに適切に申告をしておくこと、そのために予め資料をきちんと整理・保存しておくことが大切だと考えられます。

 

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子どもら名義の預金の取扱いにはご用心

 昔から、親が相続対策の一環?で生前に子どもなどの名義で預金をしておくことがあります(なお、現在は金融機関での本人確認が厳しくなっているので、親が勝手に新たにこのような預金口座を作るのは以前より難しいと思います。)。

しかし、このような方法を取っていても、その預金が親の相続財産から外れるとは限りません。名義は子どもら名義でも実際には未だ親の財産であると税務署から認定され、相続税の対象財産(相続財産)とされることが度々あるからです。

さて、こういったことにならないようにするためには、きちんと子どもらへの贈与という形を取り、子どもらに預金の存在をきちんと知らせて自分のものとの認識を持っておいてもらうことや(税務署の調査があった場合には、親から贈与を受けていると回答してもらう必要があります。)、預金通帳や印鑑などを子どもらに渡しておくことなど、実態としても親の相続財産から外しておくための措置が必要だと考えられます。

 

子どもらの贈与税の観点からは、課税を完全に避けたいのであれば、毎年子供らそれぞれに対して贈与税の基礎控除額110万円の範囲内で贈与(口座への振込)をすることが必要となりますが、あえて多少の贈与税の申告・納付をして公的な証拠を残すという方法も考えられます(将来の相続税の減税という観点からも望ましい場合があります。)。

なお、毎年一定額(たとえば110万円など)の贈与をする場合に注意すべき点としては、最初の年に将来分も含めて贈与があったもので単にその支払いを分割で毎年しているにすぎないというような認定を受けることがないようにしなければなりません。仮にこのような認定を受けると、最初の年に全額の贈与があったものとされるため、税率が高くなってしまいますし、毎年の基礎控除を生かすことができず、子どもらの支払う贈与税が多額になるおそれがあるからです。ですから、毎年毎年、改めて贈与契約を行い、契約書を作成・保存するのが望ましいといわれているわけです。

 

もっとも、相続開始前3年以内の贈与財産については、法律によって相続財産とみなされて相続税が課されることになっていますので、この場合は、相続税の申告漏れに注意して下さい。なお、相続財産とみなされたものについて以前に支払った贈与税があれば、その分は相続税の額から差し引くことができます。

 

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競馬脱税事件、2審も1審と同じくハズレ馬券を雑所得の必要経費と判断

先日判決が出る前にこの件に関する記事を書いていましたが、肝心の判決後の記事が少し遅れてしまいました。ご承知のとおり、大阪高裁は5月9日、競馬脱税事件について、一審判決を支持し、検察側の控訴を棄却したとのことです。

検察側の主張は連続して認められなかったことになります(判決の詳細は分かりませんが、報道の内容や結果からすると1審判決よりもさらに明確な負けのようです。)が、それでもやはり検察側は最高裁へ上告をするのか?という点に注目が集まるところですね。

 

5/9に、注目の競馬所得脱税事件の大阪高裁判決が!

 GW後の5/9には、競馬ファンも税務関係者も注目している判決が大阪高裁で出されることになっています。競馬による所得を国に確定申告していなかったために起訴された男性の所得税法違反被疑事件の判決です。
 

 国は基本的に、競馬による所得はパソコンを利用して継続的・反復的に馬券の注文をしている場合でもあくまで「一時所得」であって、その経費となるのは当たり馬券の購入金額のみであるから、外れ馬券の購入金額は経費として認められないという立場を取っており、今回の事件でも検察側はこの前提に立って脱税額が計算しています。実際には、払戻金が約30億円で、馬券の購入金額が29億弱であり、その差額は1億4000万円ほどだったにもかかわらず、被告人は約5億7000万円の脱税をしたとして起訴されたため(※刑事事件とは別に課税処分もされています。)、競馬ファンも巻き込んで大変な論争が起きているわけです。
 一審の大阪地裁は、一般論としては馬券購入による所得は反復されていた場合であっても一時所得であるとしながら、被告人の場合は、馬券購入が一般と異なり、多数・多額で機械的、網羅的なものであること、過去の競馬データの詳細な分析結果等に基づき、利益を得ることに特化したものであることなどから、その所得は雑所得であり、外れ馬券の購入費用も必要経費に当たるとしました。その結果、脱税額は約5200万円と認定され、懲役1年の検察官の求刑に対して、懲役2月・執行猶予2年の刑が言い渡されました。これは、納税者側の主張が相当程度認められたものといって良いと思います。

 

 さて、二審の大阪高裁が大阪地裁の判決を支持するのか否か、今後も同種事案の行政訴訟(税務署長が上記見解に立って行った課税処分の取消しを求める訴訟)が進行する見込みであるだけに、私も5/9の大阪高裁の判決には注目しています。

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記帳や帳簿・書類の保存をしていなかったら重加算税がかけられてしまうのか??

個人事業者の皆さん、記帳や帳簿書類の保存、きちんとしていますか?

今年の平成26年1月から、事業所得、不動産所得又は山林所得が生じる業務をしている全ての方(白色申告者を含む)に、記帳と帳簿書類の保存義務を負わせる改正の適用が始まっています。
 これまで記帳・帳簿書類保存の義務があるのは、青色申告者と、白色申告者のうち前年分あるいは前々年分の事業所得等の金額の合計額が300万円を超えた人でした。記帳・保存制度の内容は、国税庁の「個人で事業を行っている方の帳簿の記載・記録の保存について」をご覧ください。

 

記帳は正式な複式簿記ではなく「簡易な方法」によるものであってもよいとされておりますが、正式な帳簿は原則7年、それ以外の書類は5年の保存義務があるとされています。  

所得税の申告の必要がない場合であっても、これらの義務がありますので、この点お間違えないように。また、消費税について、仕入れの消費税を控除して税額を計算する「仕入税額控除」の適用を受けるために、もともと帳簿と請求書等を保存している方も多かったとは思いますが、今年からは、所得金額の大小や、消費税の仕入税額控除の適用を受けるか否かにかかわらず、事業者は記帳・帳簿書類保存をしておかなければならないということになります。

 

今回の改正の影響について一言。

 

まず、今回の改正にともなって、これらの義務違反自体について新たに罰則がもうけられたわけではありませんので、改正後も刑事罰を受けるおそれはありません(もちろん、悪質な場合に、その点も考慮され、不正な行為により税金を免れたとして脱税事件になる場合はあるでしょうが)。

 

しかし、今回の改正で、事業者は個人であっても所得金額の大小にかかわらず記帳や帳簿書類保存の義務があるという建前が強固なものになったわけで、今後、これらの義務を果たしていなかった場合に、従来よりも悪く評価される可能性があるのかもしれません。

例えば、事実関係を仮装又は隠ぺいすることによって税金を納めていなかった人には、本来の税金に加算して重加算税という重い税金が課されることがありますが、平成26年以降は、記帳や帳簿書類保存の義務を果たしていなかったことが隠ぺいに当たる可能性が一層強くなっていることを示唆する学者さんが実際にいらっしゃいます。

今後、重加算税について、はたして本当にそういった判断をする裁判例が増えてくるのかはまだ分かりませんが、重加算税の処分を争う立場の弁護士としては気になるところです。

 

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平成26年税制改正大綱に、相続資産の譲渡に関する取得費加算特例の改正が。納税資金確保に影響!

昨年末に定まった平成26年税制改正大綱には、平成27年1月1日以後に開始する相続・遺贈により取得した財産を譲渡した場合の取得費加算特例に関する改正事項が盛り込まれています。

相続により取得した土地等を「相続開始のあった日の翌日」から「相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日」までの間に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる租税特別措置法の特例があるのですが(詳細は国税庁の「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」をご覧ください。)、今回の税制改正大綱では、この特例について、取得費に加える金額を、「その者が相続した全ての土地等に対応する相続税相当額」から「その譲渡した土地等に対応する相続税相当額」に改める、とされています。
 つまり、A・Bの土地を相続し、Aのみを譲渡した場合、これまでであればA・Bについて納めた相続税をAの取得費に加算できましたが、改正後は、Aについて納めた相続税のみが取得費に加算されることになります。その結果、従来よりも相続人の譲渡所得及び所得税の額が増えることになります。
 相続人が複数の土地を相続する場合、その中の一部の土地を売却して納税資金を準備することが多いので、この改正が実現すれば相続人の納税資金確保の点では痛手といえるでしょう。

 

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自分が「特定役員」だったと先日はじめて気づいた件

 最近、周りの方に教えてもらってはじめて気づいたことがあります。

 私は昨年7月、「任期付職員」として3年間務めた国税不服審判所を退職し、その際に3年分の退職金を受け取ったのですが(実は任期付職員でも退職金を頂けるのです。)、その際の源泉徴収の金額の計算上、自分が「特定役員」に当たるため、退職所得の金額が2分の1になっておらず、源泉徴収税額が通常の倍になっていた、ということです。

 税額が些少だったからかもしれませんが、教えて頂くまで自分が「特定役員」だと全く気づいていませんでした。

 一般に、退職所得の金額は、受け取った金額から退職所得控除額(※下記参照)を引いた後の金額に2分の1をかけた金額となるのですが、平成 25 年1月1日から、「特定役員」については、2分の1をかけることができないことになっています。
 特定役員とは、法人税法上の役員、議員、 国家公務員及び地方公務員の勤続年数(1年未満の端数がある場合はその端数を1年に切り上げたもの)が5年以下である人をいいます。詳しくは、国税庁のQ&Aをご覧ください。

 

 さて、私もこの規定の存在自体はある程度認識していたのですが、もともとこの規定を設けた趣旨が「天下り」や「わたり」(公務員や議員が、短期間で法人の役員を渡り歩き、その度に退職金をもらうこと)について税務上の旨味をなくして抑制しようというものであったため、自分の中でそのイメージが強く、通常天下りやわたりとは無関係な「任期付職員」にまで適用があるというイメージがありませんでした。

 ですが、改めて条文などを見ると、公務員は全て「役員」に含まれることになっており、私のような立場の任期付職員は「一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律」に基づいて採用された国家公務員なので、「役員」に含まれることになり、しかもこの法律に基づいて採用された職員の任期は5年未満なので、自動的に「特定役員」に当たることになるんですね。

 なるほど、納得しました。イメージ・思い込みが先行しており、これは盲点でした。

 良い勉強になりました。

 

 (※)退職所得控除額

 勤続20年以下:40万円☓勤続年数

 勤続20年超:800万円+70万円☓(勤続年数−20年)

 

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2審も無罪!ストック・オプションに関する脱税事件

 以前こちらのブログ(ストック・オプションに関する所得税法違反事件に無罪判決)で紹介したストック・オプションに関する脱税事件ですが、2審の東京高裁も1月31日に、被告人が積極的な所得秘匿工作を行った形跡はうかがえないと判断し、脱税の故意を認めなかった1審判決を支持して、検察の控訴を棄却したとの報道がされています。

 ストック・オプションに関しては、最高裁平成18年10月24日判決からの流れもありますし、この件はこれで勝負あったように思います。

 先日も神戸地裁で脱税事件に無罪判決が出たところであり、脱税事件の刑事裁判で従来以上に故意などの認定が厳格化しているのか、あるいは査察・検察が故意に疑いの残る否認事件でも強引に告発・起訴しているのか、それ以外の要因によって無罪判決が続いていのかは分かりませんが、刑事裁判では一般市民にとって常識的な言い分が以前よりも通りやすくなってきているのかもしれませんね(そうだと良いのですが・・・。)。

 

 

 

 

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神戸地裁で相続税法違反被告事件に無罪判決が!

 今月の17日、相続税約1億4千万円を脱税したとする相続税法違反の事件(いわゆる脱税事件です)で、神戸地裁が無罪を言い渡す判決が出されました。私の神戸の先輩弁護士が被告人の代理人をされていた事件です。なお、事件の内容については直接お聞きしておりませんので、以下は報道を見ての記事になります。

 無罪判決獲得、努力のたまものですね。弁護士なら一度は経験したいものですが、あいにく私にはまだ経験がありません。そもそも刑事事件はあまりやっていませんので(現在も引き受ける刑事事件は脱税事件くらいです)、当たり前なのですが・・・。

 本題に移ります。報道によると、裁判所は、被告人の誤解などによる過少申告で、不正に免れる意思はなかったとして、無罪を言い渡したようです。裁判所は、申告漏れの多くは夫の名義でない預金口座などにみられ、夫以外の名義の口座などを申告が必要と認識していなかった可能性は否定できないと判断したとのことです。

 本来は課税価格約10億6千万円、相続税額約2億2千万円のところ、被告人は預貯金などを課税価格から除外して、課税価格約7億3千万円、相続税額約8千万円と申告しており、相続税約1億4千万円の支払いを免れたとして起訴されていたようです。

 

 この事件のように、被相続人が生前に他人名義で預金をしている場合に、その預金を相続財産に含めずに申告すると、税務署からその預金は相続財産であるとして相続税の更正処分をされることになり、また他人名義を利用しているため仮装隠ぺい行為によるものであるとして重加算税の処分もされることも多く、さらには不正の行為によるものであるとして刑事事件として起訴されることもあります。

 こういった事件では、相続人が他人名義の口座の作出に関与していたか、預金口座の存在やその預金の原資が被相続人のお金であることを認識していたか、といったことが重要となります。

 

 今回とよく似たケースで、財産が相続人名義になっている例もかなりあります。この場合は、相続の問題なのか贈与の問題なのかかがよく問題になります。被相続人が生前に相続人に贈与したということで相続人名義の預金に振り込んでいるというのであれば、贈与税の問題はともかく、本来は相続税の場面ではないことになります(もっとも、相続・遺贈により財産を取得した人が相続開始前3年以内に受けた贈与財産については結局、相続税の課税財産になることには注意が必要です。)。贈与とされるためには、相続人がその預金口座の存在を明確に認識し、預金は自分のものと認識している、相続人が通帳やキャッシュカードを保有して管理しているといった事実関係が必要となります。

 そういった事実関係がない場合には、相続人名義の預金であっても相続財産に含めて申告しなければならないことになり、これをしてないと、相続税の更正処分のみならず、重加算税の処分、刑事事件の起訴まで受ける可能性があることになります。

 

 ところで、今回の裁判の報道を見て個人的に再認識したこと。それは、この件の被告人の相続財産の申告割合は7割近く(税額ベースの申告割合は36%程度ですが)ありますが、もしこれが逆の3割だったら争うこと自体が難しいのではないか(被相続人は相続税の軽減を狙って明らかに意図的に他人名義を利用しており、当然相続人にもその存在や意図を明らかにしていたはず、相続人も被相続人名義の財産が少なすぎるため調査して知っていたはず、などの推認がとても成り立ちやすくなるので。)、この類の事件では、相当割合以上の相続財産について適正に申告されていたという前提事実がない場合には、特別な事情(被相続人が相続税軽減以外の目的で他人名義を利用していた事実、相続人が被相続人の事情や他人名義の財産をおよそ知り得なかったことなど)がない限り、処分や刑事事件を争って勝つのは難しいのかも、という当たり前のことです。

 

 実例から再認識させられることは多いですね。

 

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相続時精算課税制度を利用すると、相続の放棄はできなくなるのか?

相続時精算課税制度を利用すると、相続の放棄はできなくなるのでしょうか?

 

いいえ、相続時精算課税制度を利用した生前贈与を受けていた場合でも、相続の放棄はできます(相続の放棄は被相続人の死亡及び自分が相続人であることを知ったときから、原則3か月以内にしなければならないという期間制限にはご注意下さい)。

相続時精算課税制度や相続放棄の関係では、注意すべき点もありますので、以下の記事をご覧下さい。

なお、相続時精算課税制度の概要は、国税庁のページなどをご覧下さい。 

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損害賠償金の課税、消費税にもご注意を。

前回、金融取引に関する損害賠償金(和解金)に対する課税処分についてお話ししましたが、昨年は、東日本大震災による東京電力から支払われる賠償金にもやはり税金がかかるのかが話題になっていました。

 

震災に関する税制上の取扱いについては特例的なものもありますが(国税庁のHP「東日本大震災により被害を受けた場合等の税金の取扱いについて」参照)、東電からの賠償金については、「東京電力㈱から支払を受ける賠償金の所得税法上の取扱い等について」に記載されているとおり、基本的に、所得税法の規定通り、通常の損害賠償金と同様の考え方で整理されているものといえます。

したがって、

  1. 人の心身の損害(人損)に対する慰謝料その他の賠償金や、不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害(物損)に対する賠償金は、非課税になります。
  2. ただし、必要経費を補てんするための賠償金(営業損害のうち追加的費用、業務用資産及び棚卸資産の検査費用に対するもの)や、営業損害のうち減収分の逸失利益に対する賠償金(棚卸資産の喪失又は減少に対するものを含む。)は、事業所得の収入金額に算入することになります。
     もっとも、前者については、賠償金は収入になりますが、必要経費も控除されますので、実質的には所得は増加しません。
  3. また、給与の減収分に対する賠償金は、雇用主以外の者から支払を受けるものであるため、一時所得の収入金額になります。
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損害賠償金に課税された方、諦めるのは早いかもしれません!

神戸地裁は、今月13日、旧ライブドアの粉飾決算事件で株価暴落の被害を受けた方が、損害賠償請求訴訟を起こした結果、同社から支払いを受けた和解金約1億数千万円に約3900万円の課税をしたのは違法であるとして、課税処分の取消しを求めて国を訴えていた訴訟について、不法行為に基づく損害賠償金は非課税であるとして、和解金のうち遅延損害金に対する約1000万円の課税を除いて、残り約2900万円分の課税処分の取消しを命じる判決をした、との報道がされています。

これは、和解金が、所得税法施行令30条2号「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払いを受ける損害賠償金」に該当するため、所得税法9条1項16号(現17号)により非課税所得になるという判断でしょう。

尚、遅延損害金部分については、裁判例でも一般に雑所得と考えられており、今回の裁判例でも非課税とはされていません。

 

以前には、商品先物取引、外国為替証拠金取引(FX取引)に関して被害者が受け取った和解金や損害賠償金について、非課税とされた裁判例(名古屋高裁平成22年 6月24日判決、福岡高裁平成22年10月12日判決、平成23年6月23日裁決)があります。

 

このように、金融取引に関する損害賠償金(和解金)に対して課税処分がなされる例は少なくなく、損害賠償金を得た後の申告の要否については注意したいところです。特に、和解金については課税処分を受けやすいため、和解に至る経緯が明確に分かる形で書面を残しておく必要があり(裁判所から、その時点での一定の見解を記載した和解案の提案書を出して頂くのがよいかと思われます。)、和解金の名目も解決金とするのは避けて損害賠償金としておいた方が良いかと思われます。

 

他方で、ある収入によってマイナスの状態が元の状態に復元されただけならば課税しないとの原則的な税法の発想は、裁判官にもストレートに伝わりやすいため、税務訴訟において、この損害賠償金の非課税所得該当性という問題については、他の問題よりも納税者勝訴の可能性が高いともいえそうです。

ですので、課税処分を受けた方は、すぐに諦めないで、まずは税金に詳しい専門家にご相談頂いた方が良いと思われます! 

 

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固定資産税が高すぎるので争いたい!という場合に検討すべき点

 最高裁第二小法廷は、今年の7月12日、固定資産税について、固定資産課税台帳に登録された土地の価格(以下「登録価格」といいます。)が、固定資産評価基準(総務大臣の告示によって定められるもので、以下「評価基準」といいます。)に基づいて算定される価格を上回る場合には、当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず、その登録された価格の決定は違法となるという判断をしました。

 「土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格の決定が違法となるのは、当該登録価格が、(1)当該土地に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るときであるか、あるいは、(2)これを上回るものではないが、その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく、又はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合であって、同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るときであるということができる。」というものです。

 これまでも最高裁は、土地の登録価格が客観的な交換価値としての適正な時価を上回れば登録価格の決定は違法となるという一般論を示していましたが、今回の最高裁判決は評価基準との関係をより明確にしたところに特に意味があると思います。


 今回の最高裁判決によると、
(1) 登録価格が、評価基準にしたがって算定される価格よりも高いとき(※登録価格が適正な時価より低くともよい)
(2) 評価基準による算定をすることが適切でなく、かつ登録価格が適正な時価よりも高いとき
には、登録価格の決定が違法となることになります。

 

 そうすると、これから登録価格について争おうとする側としては、まずは評価基準にしたがって登録価格が算定されているといえるか否かを検討し、次に、そもそもその評価基準によって登録価格を算定するのが適切でないといえるか否か、適切でないとすれば、さらに登録価格が周辺の取引価格や鑑定価格等から導かれる適正な時価を上回っているか、を検討することになります。

 

 さて、今回の最高裁判決によって、上記(1)に該当することについて立証に成功すれば、登録価格を評価基準に沿った価格へ引き下げさせることが可能であることが明らかにされたわけですので、今後、登録価格について争うか否かを検討する側としては、客観的な時価の追求も重要ですが、まずは、評価基準に則って算定されているかを綿密に検討することが必要不可欠であるといえるでしょう。

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追徴課税・追徴税・追徴 どう違うの?

 「追徴」という言葉は、単純に考えると「追加で徴収されるもの(お金)」というような意味合いですが、色々な場面で使われておりますので、その意味について記載をしておきます。 

 

 まず、報道で「追徴課税」(又は「追徴税」)という言葉をよく聞きますが、追徴課税というのは一般に、税金の申告漏れなどがあった場合に、後から課される税金のことを言い、正式な法律用語というわけではありません。

 追徴課税は、主に過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税といった加算税といわれるものを指しますが、いずれも刑事罰(罰金刑)のようなものではなく、税金(の処分)の一種を指します。

 

 また、現在では「追徴課税」の一種又はその典型例として重加算税が挙げられるわけですが、もともとは、重加算税の前身として「追徴税」という名称の税金があったので、そのことを知っておられる方もいるかもしれませんね。

 

 ところで、税法違反の刑事事件(脱税事件)についても、一般の刑事事件と同じく「追徴」という制度があります。刑事事件の判決の一種として、犯罪に利用した物や犯罪によって得られた物の所有権を国が取り上げる「没収」がありますが、何らかの事情で没収できないときには、その価額を「追徴」する判決(要するに、金銭の支払を命じる判決)をすることができるのです(刑法19条の2)。この「追徴」を言い渡された金額を「追徴金」と報道されることが多いです。

 「追徴」は刑事裁判特有の法律用語ですね。

 

 追徴課税・追徴税・追徴の意味、分かって頂けましたでしょうか?

 

 

 

 

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制限超過利息に関する後発的更正の請求についての東京地裁H25.10.31判決

報道によると、旧武富士が利息制限法上の制限を超過した利息収入に基づいて納付していた法人税について、過年度に得た制限超過利息が無効であることが法的に確定しため、過年度の税金を払いすぎていたことになったとして、会社更生中のTFK(旧武富士)の管財人が、国税通則法23条2項1号を根拠とする「後発的更正の請求」をしたところ、税務署長から更正を拒否する通知処分を受けたため、その取消しと2374億円余の返還を国に求めた訴訟において、東京地裁は10月30日、請求を棄却する判決をしたそうです。

 

「更正の請求」は、確定申告書を提出した後に、所得金額や税額の計算に誤りがあり、や法律に従っていなかった点がある場合などで、申告等をした税額等が実際より多かったときに正しい額に訂正することを求める場合の手続きで(通則法23条)、中でも、課税標準や税額の計算の基礎となった事実に関する訴訟の判決によって、計算の基礎とした事実が事実でなかったと確定したなどの事由が生じたときに、その事由が生じた日の翌日から2か月以内にすることができるのが「後発的更正の請求」です。

  

さて、法人の所得については、当期において生じた損益はその発生事由を問わず、当期において経理処理すべきものであって、その発生事由が既往の事業年度の損益に対応するものであっても、その事業年度に遡って処理はしないのが一般的な会計処理であり、法人税法上も、収益や原価・費用・損失の額は公正妥当な会計処理の基準に従って計算されることになっているため(法人税法22条4項)、これまでの判例等によれば、仮にある事業年度において過去の事業年度の収益が過大となる事由が発生した場合であっても、そもそも、企業会計上も法人税法上も、過去の事業年度の収益の計算が遡って過大であったということにはならないため、通則法23条2項1号を根拠とする後発的更正の請求は認められないと一般的には解されているように思われます。

今回の判決の内容や理由については情報がないため分かりませんが、その結論についてはこれまでの一般的な理解に沿うものではないかと思われます(通常人の感覚に合致するかどうかは別ですが・・・。)。

 

ところで、法人税については、会社法上確定した決算に基づいて法人税の申告書を提出すべきとする確定決算主義がとられています(法人税法74条1項)。

この点に関して、会計の世界では、近年、「過年度遡及修正」に関する会計基準が定められており、誤謬による過年度決算の遡及修正も認められているところですが、そもそもこの過年度遡及修正は主に、過去からの累積的な影響額を当期の期首の金額に反映させるためのもので、過去の計算書類の確定や税務申告に影響を及ぼすものではないとされています(過年度の所得金額や税額に影響を及ぼすものではなく、法人税の修正申告も不要とされております。)。したがって、仮に「過年度遡及修正」が行われた場合であっても、修正した内容の計算書類や決算について確定し直したことにはなりません。 

また、会社法上、過年度の決算自体のやり直しが認められているということもできないと思われますので、過年度の決算を確定し直した結果として過年度の申告税額が過大なものとなったことを理由とする後発的更正の請求は認められないものと考えられます。

 

以上によれば、現在でも、法人税については、通則法23条2項1号に基づく後発的更正の請求による過年度の所得金額や税額の是正は一般的には認められていない、といってよいのではないかと考えられます。

このような観点からすると、今回の訴訟に関して、原告側が控訴をするか否かは分かりませんが、今後その主張が裁判所で認められるためには、越えなければならない壁があるといえそうです。

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現在は、税務事件が多いですね。

 本年度の開業以来、クーリエ法律事務所では税務事件の問い合わせや依頼が多く、現在は業務の過半を占めている状況です。

 勿論、相続や交通事故をはじめとする他の事件も頑張っていきますが、今後とも税務事件には注力していきたいと思います!

 

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税理士業務の開始通知をしました。

 昨日、大阪国税局長より税理士業務開始通知受領書が届きました。これで、「通知弁護士」になり、弁護士ではあるけれども、大阪国税局管内での税理士業務も随時できることになりました。

 弁護士は、弁護士法3条によって当然に税理士の事務を行うことがができると規定されていますが、この規定より後に定められた税理士法51条1項では、「弁護士は・・・国税局長に通知することにより、その国税局の管轄区域内において、随時、税理士業務を行うことができる」とされており、これらの条文の関係や読み方については若干争いがあるところですが(裁判でも争われていますが、詳細は割愛します。)、今回税理士通知を行ったことで「通知弁護士」になり、大阪国税局管内で税理士業務を随時行うことについての疑義がなくなったので、実務的にはとりあえず解決です。

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信託の会計処理に関する判例(東京地裁平成24年11月2日)の紹介

本日は、ややマニアックですが、信託の会計処理・税務処理に関する重要判例(東京地裁平成2411月2日・平22(行ウ)693号事件)の簡単な紹介です。京都大学の岡村忠生教授が主宰しておられる信託税制研究会において、この判例についての報告を先日行ってきたところです。

 事案の概要は、原告の銀行が、保有する住宅ローン債権を信託して、優先受益権と劣後受益権を受領し、優先受益権を投資家に売却すると共に劣後受益権を原告が保有する流動化取引を行い、平成16年3月期ないし平成18年3月期において受領した、劣後受益権に対する収益配当金の一部について、償却原価法を適用する会計処理を行った上、法人税の益金の額及び消費税の資産の譲渡等の対価の額に含めずに確定申告をしたところ、税務署長が、収益配当金は全て益金等の額に含まれるとして、法人税の更正処分等をしたため、原告がそれらの処分の取消しを求めて訴訟を提起したというものです。

 償却原価法とは、債券や債権の取得価額と額面金額が異なる場合(額面より高い額、あるいは低い額で取得した場合)に、満期までの期間、その差額を一定の方法で貸借対照表の取得価額に加減して配分する方法のことで、入金時や期末においてにそのような加減処理を行うことになります。差額が金利の調整による場合(例えば、ある債権の約定金利が市場平均より低いため債権を低い金額で売買する場合、ある債権の約定金利が市場平均より高いため債権を高い金額で売買する場合などを想定して下さい。)、期間の経過に応じて処理することによって、各期の損益の平準化や、差額が実質的には金利であることを反映した処理が可能となります。

 

事実関係を補足します。

・原告は、各事業年度において、劣後受益権に対する収益配当金につき、金融商品会計実務指針(以下「実務指針」と言います。)105項の適用があるものとして償却原価法を適用し、収益配当金を利息額及び債権償還額に区分し、利息額のみ収益に計上して、債権償還額は劣後受益権の帳簿価額から減額する会計処理を行い、また、利息額のみを益金の額に算入する法人税等の確定申告をしていていました。

・実務指針105項は、債権の支払日までの金利を反映して債権金額と異なる価額で債権を取得した場合には、取得時に取得価額で貸借対照表に計上し、取得価額と債権金額との取得差額について償却原価法に基づき処理を行うことなどを定めています。

・この信託においては、劣後受益権に対する収益の配当は、優先受益権に対する収益の配当が支払われた後に残余の収益がある場合に行われること、などが定められていました。

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個人事業者の開業関連費用の税務処理について

 さて、今回、事務所を開業いたしましたので、個人事業者の開業関連費用の税務処理の基本的な考え方についてメモしておきます。開業に際して支出する費用としては、

  1. 資産(販売用の棚卸資産でないものを想定しています。)の取得費
  2. 前払費用(契約に基づいて継続的なサービスを受けるために支出した費用のうち、年末までにまだ受けていないサービス分の費用)
  3. 開業費(1.及び2.の費用に該当しないもので、事業開始までの間に開業準備のために特別に支出する費用に限ります。)等の繰延資産

などが考えられると思います。

 

1.の資産の取得費につきましては、以下のような点に留意すべきです。

  • 使用可能期間が1年未満のもの又は取得価額が10万円未満のものについては、少額の減価償却資産として、業務用として使用しはじめた年分の必要経費に算入する(所得税法施行令138条)
  • 取得価額が10万円以上20万円未満のものについては、その一部又は全部につきまとめて一括償却資産として、その合計額の3分の1ずつ、業務用として使用しはじめた年以後3年分の必要経費とする方法を選択することができる(所得税法施行令139条)
  • 使用する従業員の数が常時1000人以下の個人で青色申告をする者が取得価額30万円未満の少額減価償却資産を取得した場合には、その取得価額(合計300万円まで)を業務用として使用し始めた年分の必要経費とすることができる(租税特別措置法28条の2)
  • それ以外の減価償却資産については、以後の年分において法令の定めに従って通常通り減価償却を行っていく
  • 減価償却を要しない固定資産(たとえば、電話加入権や土地)の取得費については必要経費に算入できない(譲渡時には取得費として譲渡所得の金額の計算上控除される。)

 

2.の前払費用については、サービスを受けた年分の必要経費となるのが原則です(ただし、国税庁の通達において、支払日から1年以内にサービスを受ける短期の前払費用については、継続して支払日の年分の必要経費に算入していれば、その取扱いを認めることとされています。)。

 

3.の開業費等の繰延資産については、以下のような点に留意すべきです。

  • 基本的には、以後の年度において償却(費用化)していくべき
  • 支出金額が20万円未満のものについては、支出した年分の必要経費に算入することができる
  • 開業費については、5年間均等償却に限らず、任意償却(支出年分において全額償却してもよく、全く償却しなくてもよい。所得税法施行令1373項)が選べ、任意償却の場合は償却の期限も設けられていないため、5年を経過した後で償却しても構わない(この点については、国税庁のこちらのページをご覧下さい。)、

 

 以上の通り少しばかりややこしいので、事業の開始に当たって、間違えないようにしないといけませんね。尚、以上は執筆時の法令に基づいて記載したものです。

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国税審判官とはどんな仕事?

さて、トップページに記載しておりますとおり、私は「特定任期付職員」として3年間、「国税不服審判所」にて「国税審判官」をしておりました。これらの言葉を簡単にご説明すると、以下の通りです。

 

  • ここでいう特定任期付職員とは、「一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律」に基づき、5年以内の任期で国家公務員として採用され、勤務する者のことです。私の場合、任期は3年でした。
  • 国税不服審判所とは、税務署や国税局などから分離された別個の機関として、納税者に対して行われた国税の処分に対する審査請求(処分に対する不服申立の一種です。)について裁決(処分を取り消すのか、変更するのか、審査請求を棄却するのかの判断)を行い、正当な納税者の権利利益を救済する国税庁の特別の機関です。国税不服審判所はあくまで行政機関であり、行政としての最終判断をするわけですが、裁判所のような判断機関であるという性質を持ち合わせております。
     なお、通常の事案であれば、審査請求から1年以内には裁決に至ります。
  • 国税審判官とは、審査請求のあった事案について、請求人等と面談したり、審査請求人や処分庁の主張や争点を整理し、事実関係を調査する(審判所の場合は職権で自ら調査することも多いです。)などした上で、合議体の一員として、「議決」(処分を取り消すべきか、変更すべきか、審査請求を棄却すべきかの判断)をします。国税不服審判所長はこの「議決」に基づいて最終的な「裁決」を行うことになります。なお、審査請求は全件、審判官の合議によって議決されますので、裁判所のような裁判官単独事件はありません。

 さて、国税審判官の仕事、何となくご理解頂けたでしょうか。

 私は、国税不服審判所に入るまで、弁護士としての職務経験、行政における検査官としての職務経験はありましたが、判断権者としての職務経験は初めてでしたが、なんとなく裁判官の気持ちが分かるようになりました(今後の裁判の進行に生かせるのではないかと思います)。そういう意味においても国税審判官として勤務した3年間は大変有意義なものだったと思います。

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最高裁が神奈川県の企業税条例を違法無効と判断(続)

 前回の続きです。

 神奈川県は、臨時企業税条例によって、県内に事務所・事業所を設けて事業活動を行い、「欠損金の繰越控除」(益金から損金を引いた後の赤字所得である欠損金の翌事業年度以降への持ち越しのことで、翌事業年度以降の所得を減らすことができます。)を適用した、資本金の額が5億円以上の大きな法人を対象に、課税標準額(繰越控除を行わないものとした場合の所得額など)の2%に当たる臨時特例企業税を納めなければならないこととしていました。なお、この臨時特例企業税は、法人の事業税について「外形標準課税」制度(所得が0円又は赤字でも、事業規模に応じた事業税の負担が発生することになります。)が平成15年の法改正によって導入されたことに伴って廃止されています。

 前回も書いていたように、条例によって地方税を課するには、「法律の範囲内で」条例を制定し、「この法律(地方税法)の定めるところによって」行わなければならないのですが、地方税法は都道府県税として事業税を定め(法定税)、事業税の所得割の計算基準となる法人の所得の計算については、法人税法の例によることとし、法人税と同様に欠損金の繰越控除を認めております。ところが、神奈川県の臨時企業税条例では、税目は事業税ではなく臨時企業税に変わることになりますが、経済的、実質的には、法人事業税の欠損金の繰越控除を認めないのと同様の結果を導くことになります。

 また、本来、法人の所得は設立以降、解散・清算するまでの間の益金や損金を通算しなければ適正に算出できないはずであり、税法は、毎年の税収を適切に確保すべく、事業年度(課税期間)ごとに法人の所得を計算して税を課し徴収する制度を採用しているものの、このような事業年度単位課税のもとで上記のような適正な所得計算を実現するための手段として欠損金の繰越控除を設けているものと理解すれば、欠損金の繰越控除制度は、納税者に対する恩典的なものというよりも、事業年度単位課税に伴う本質的なものということになると思います。

 

 そのため、最高裁は、法人税法の欠損金の繰越控除について、「所得の金額の計算が人為的に設けられた期間である事業年度を区切りとして行われるため、複数の事業年度の通算では同額の所得の金額が発生している法人の間であっても、ある事業年度には所得の金額が発生し別の事業年度には欠損金額が発生した法人は、各事業年度に平均的に所得の金額が発生した法人よりも税負担が過重となる場合が生ずることから、各事業年度間の所得の金額と欠損金額を平準化することによってその緩和を図り、事業年度ごとの所得の金額の変動の大小にかかわらず法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨,目的から設けられた制度」であるとし、特例企業税を定める本件条例の規定は、「地方税法の定める欠損金の繰越控除の適用を一部遮断すること」をその趣旨、目的とし、「欠損金の繰越控除を実質的に一部排除する効果」を生ずる内容のものであり、「各事業年度間の所得の金額と欠損金額の平準化を図り法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的」から欠損金の繰越控除の必要的な適用を定める地方税法の規定の趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものであって、法人事業税に関する地方税法の強行規定(※強行規定とは、これと矛盾抵触するような内容の規定を無効とする強力な規定です。)と矛盾抵触し、違法、無効であるとしたのです。

 

 今回の最高裁判決は、条例の法律違反の有無の判断基準、地方税法と地方税条例の関係、欠損金の繰越控除制度の趣旨などを改めて明らかにしたものといえます。特に、法定税について地方税法の枠を超えて条例を定めることは許されないこと(かつて、銀行税条例と呼ばれた事業税の課税標準の特例条例が、東京高裁で違法と判断されたことがあります。)は勿論、今回のような法定外税であっても、地方税法が法定税について定める枠を超えて、法定税を加重するような法定外税を条例で定めることも許されないことを明らかにしたところに意義があるのではないかと思われます。

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最高裁が神奈川県の企業税条例を違法無効と判断

 最高裁判所は、神奈川県が独自に条例で定めていた臨時特例企業税の適法性が争われていた訴訟につき、平成25年3月21日、この条例が地方税法に違反して、違法かつ無効であるとする判決(最高裁へのリンクはこちらです。)を言い渡しました。

 最高裁は、「特例企業税を定める本件条例の規定は、地方税法の定める欠損金の繰越控除の適用を一部遮断することをその趣旨、目的とするもので、特例企業税 の課税によって各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を実質的に一部排除する効果を生ずる内容のものであり、各事業年度間の所得の金額と欠損金額の平準化を図り法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的から欠損金の繰越控除の必要的な適用を定める同法の規定との関係において、その趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものであって、法人事業税に関する同法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し、違法、無効であるというべきである。」と判断しています。

 今後、地方税を定めた条例が違法、無効なものか否かを判断する上で非常に重要な判決となると思われます。

 まず、地方税と憲法、法律との基本的な関係についてご説明すると、地方公共団体には自主財政権、自主課税権があると理解されており、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。」とする憲法94条を受けて、地方税法第2条《地方団体の課税権》は「地方団体は、この法律の定めるところによつて、地方税を賦課徴収することができる。」と規定し、同法第3条は「地方団体は、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定をするには、当該地方団体の条例によらなければならない。」と規定しています。 このように、地方公共団体は、条例を定めれば地方税を課すことが可能となり(地方税法は、地方公共団体の課税権について枠ないし準則を定めた「枠法」であり、地方税法だけでは実際に地方税を課すことはできません。)、また地方税法に特に定められている地方税(事業税、住民税、地方消費税、不動産取得税、自動車取得税、固定資産税、都市計画税などです。)以外の「法定外税」についても、総務大臣と協議し、その同意を得た上で、条例によって新設することができます(同法第4条、5条等)。地方税の概要について知りたい方は総務省のHPをごらん下さい。

 今回問題となった「臨時特例企業税」もこの法定外税でした。

 

 次回に続きます。

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